障害者の就職先として、事務職は割合の高い職種の一つです。しかし実際に募集を始めると、応募が集まらない、定着しないといった壁に直面する企業は少なくありません。
その背景には、採用手法だけでなく「社内に適当な業務があるか」という企業側の課題もあります。
厚生労働省の調査では、障害者の雇用に課題があると回答した事業所のうち、「会社内に適当な仕事があるか」を挙げた割合は、身体障害者で77.2%、知的障害者で79.2%、精神障害者で74.2%、発達障害者で76.9%と、いずれも最多でした。ただし、これは事務職に限定した調査結果ではありません。
民間企業の法定雇用率は2026年7月に2.7%へ引き上げられ、対象は常用労働者37.5人以上に拡大されました。引き上げ前の令和7年6月1日時点(法定雇用率2.5%)でも、達成企業の割合は46.0%にとどまっています。
本記事では、公的データで就業状況を確認しながら、事務職で障害者を採用・雇用する際に確認したい課題と、業務の割り当てや受け入れ体制づくりのポイントを解説します。
【この記事でわかること】
なお、エスプールプラスでは、農園を活用した障がい者雇用支援サービス「わーくはぴねす農園」を通じて、働く場所の提供から採用、雇用継続までを支援しています。業務の割り当てや受け入れ体制づくりに課題がある方は、サービス資料もあわせてご覧ください。
障害者雇用を検討する際、まず事務職を候補に挙げる企業も多いのではないでしょうか。実際、精神障害者と身体障害者では、事務的職業がもっとも就業割合の高い職種です。
「事務職」には、一般事務、営業事務、経理事務などがあり、具体的な担当業務は企業や部署によって異なります。職種名だけで募集するのではなく、担当する作業や業務量、必要なスキルを整理しておくことが大切です。
ここではまず、事務職と呼ばれる仕事にどのような種類があるのか、そして障害種別ごとに事務職への就業割合がどう違うのかを確認します。
事務職は配属部署によって業務内容が異なります。
| 職種 | 主な業務内容 |
|---|---|
| 一般事務 | 書類作成、データ入力、電話・来客応対 |
| 営業事務 | 見積書・請求書の作成、受発注管理 |
| 経理事務 | 伝票処理、経費精算、帳簿記帳 |
| 総務事務 | 備品管理、社内文書管理、庶務全般 |
| 人事事務 | 勤怠集計、社会保険手続き、採用事務 |
「事務補助」として、データ入力やファイリングなどの定型業務を担当する求人もあります。一方、経験やスキルに応じて、経理や人事などの専門的な業務を担当する場合もあります。ただし業務範囲が定義された職種ではないため、募集前にどの業務を担当してもらうかを決めておく必要があります。
事務職への就業割合は、障害種別で大きく異なります。
| 障害種別 | 事務的職業の割合 |
|---|---|
| 精神障害者 | 29.2% |
| 身体障害者 | 26.3% |
| 発達障害者 | 22.7% |
| 知的障害者 | 5.0% |
調査では、事務的職業に就いている割合に障害種別による違いが見られます。ただし、この割合は現在の就業状況を示したものであり、個人の適性や事務職への就職のしやすさを示すものではありません。採用では、障害種別だけで判断せず、本人の経験・スキル・希望と、業務内容や必要な配慮を確認することが大切です。
事務職での障害者雇用が難しいといわれる背景には、自社の努力だけでは解決しにくい採用市場の変化があります。まずは外部要因を3つ見ていきます。
厚生労働省「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業の雇用障害者数は70万4,610.0人で、前年比4.0%増となっています。障害者雇用が広がるなか、企業は担当業務や勤務条件、支援体制を具体的に示し、応募者が自分に合う職場か判断できるようにすることが大切です。
令和7年度のハローワーク職業紹介では、新規求職申込件数・就職件数に占める精神障害者の比率は、いずれも5割を超えています。
身体障害者を主な対象とした求人設計を続けている企業もあります。一方、ハローワークの求職者では精神障害者の割合が高くなっています。求人の対象と、実際の求職者の構成がずれていると、応募が集まりにくくなります。
DX化の進展により、事務現場ではデータの入力にとどまらず、Excelを活用した数値集計や社内システムの操作など、さまざまな実務能力が求められる場合があります。また、部門をまたいだ調整業務や電話対応など、一定の対人スキルが必要な場面もあります。そのため、求人によっては、ITツールの操作に加えて、複数の業務への対応力が求められることがあります。
事務職ではフルタイムを条件とする求人もありますが、実際の就業状況は異なります。
| 障害種別 | 週30時間以上の割合 |
|---|---|
| 身体障害者 | 75.1% |
| 知的障害者 | 64.2% |
| 発達障害者 | 60.7% |
| 精神障害者 | 56.2% |
同調査では、精神障害者の約4割が週所定労働時間30時間未満で働いています。ただし、これは事務職に限定した数値ではなく、調査上の「週30時間以上」が各企業のフルタイム勤務を意味するわけでもありません。本人の希望や体調、業務内容に応じて、短時間勤務を含めた働き方を検討しましょう。勤務時間を延ばすことを一律の目標にせず、継続しやすい条件を話し合うことが大切です。フルタイムのみを条件とすると、短時間勤務を希望する求職者が応募できる求人の選択肢が限られる可能性があります。
ここからは自社の体制に関わる要因です。採用が決まらない、あるいは採用しても続かない背景には、社内で解決できる課題も残されています。
「任せられる事務業務が確保できていない」というのは大きな課題の一つです。厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」では、「会社内に適当な仕事があるか」を課題とする事業所が、知的79.2%、身体77.2%、発達76.9%、精神74.2%と、いずれも最多となりました。
事務業務の多くは各担当者の業務と一体化しており、採用後に継続して担当してもらう業務を整理するには、既存業務を工程単位で分解する必要があります。各部署に依頼しても「自部署では割り当てる業務がない」となり、必要な業務量が集まらないケースもあります。
つまり、障害者雇用が進まない原因は応募者の確保だけではありません。採用後に継続して任せられる業務を、企業側があらかじめ設計できているかどうかも重要です。
採用後は、本人が業務を進めるうえで困っていることや、必要な配慮が提供されているかを確認します。相談先、指示の出し方、勤務時間、作業環境などを具体的に点検し、本人との話し合いを通じて必要な対応を検討しましょう。
企業には、過重な負担とならない範囲で合理的配慮を提供する義務があります。本人の意向を十分に尊重して対応を検討し、希望された措置の実施が難しい場合も、理由を説明したうえで代替策を話し合うことが大切です。ただし必要な配慮が十分でない場合、業務が円滑に進まなかったり、本人の負担が大きくなったりする可能性があります。
定着には、本人の特性や職務との適合だけでなく、受け入れ体制や合理的配慮も重要です。
事務職における障害者雇用の選考では何を確認すべきなのでしょうか。ここでは、主に事務職で必要とされる5つのスキルを整理します。
ただし、求められる水準は任せる業務や職場環境によって大きく異なります。データ入力が中心の業務と、他部署との調整が発生する業務では、必要なコミュニケーション力の程度も変わります。
自社で割り当てる業務に照らして、どのスキルがどの程度必要かを整理したうえで選考基準を設けることが大切です。
事務職で必要なPCスキルは、担当する業務によって異なります。選考では、文字入力やメールの送受信、表計算ソフトへの入力など、実際の業務に沿って習熟度を確認しましょう。採用時に必要なスキルと、入社後の研修で習得できるスキルを分けておくと、判断しやすくなります。
また、操作手順書や入力用のひな形などがあれば取り組める場合もあります。現在の習熟度に加え、どのような環境や支援があれば業務を進められるかも確認することが大切です。
事務職では、業務の進捗を報告する、不明点を質問する、困ったときに相談するなど、仕事に必要な情報をやり取りする力が求められます。選考では、会話の流暢さだけで判断せず、担当業務で必要なやり取りがどのような方法でできるかを確認しましょう。
口頭よりもメールやチャットで伝えやすい方もいます。本人に合った連絡手段を検討するとともに、相談先や報告のタイミングを明確にするなど、職場側も情報を共有しやすい仕組みを整えることが大切です。
請求書の作成やデータ入力は、ミスが取引先や社内の他部署に波及する業務です。スピードよりも正確さが優先されます。
ただし、注意力の発揮しやすさは環境に左右されます。確認手順やチェック体制を整えることで防げるミスも多く、本人の資質だけで判断しないことが必要です。
事務職では、依頼内容や業務の優先順位が変わる場面があります。選考では、実際に想定される変更を具体的に伝え、本人がどのように対応できるか、どのような説明や支援があると取り組みやすいかを確認しましょう。
急な変更への対応のしやすさには個人差があります。変更点を文書で伝える、優先順位を明示する、準備する時間を設けるなど、職場側の工夫も含めて、担当する業務や進め方を検討することが大切です。
体調や業務の進み具合を確認し、必要に応じて休憩や相談につなげることも、働き続けるうえで大切です。選考では、これまでどのような工夫をしてきたか、どのような支援があれば取り組みやすいかを、具体的な場面に沿って確認しましょう。
ただし、体調の変化や困りごとを本人だけで把握・対処できることを、一律に求めるものではありません。相談するタイミングを決める、業務の進捗を一緒に確認するなど、職場側の支援と組み合わせて考えることが大切です。
ここまで見てきたとおり、事務職での障害者雇用が進まない背景には、採用市場の変化と、社内で任せる業務を確保できていないという課題があります。前者は自社では変えられませんが、後者は募集を始める前に手を打てます。
応募が集まらない場合や採用後の定着に課題がある場合は、選考方法だけでなく、募集前の準備も確認しましょう。担当業務、必要なスキル、勤務条件、支援体制が具体化されているかを見直すことが、改善の手がかりになります。「事務職を1人採用する」という決め方のまま求人を出してしまうと、任せる業務も、求めるスキルも、勤務条件も曖昧なまま選考が始まってしまうためです。
ここでは、業務の洗い出しから、求人票の書き方、職場実習の活用、受け入れ体制の整備、外部の支援機関との連携まで、募集前後に取り組むべきポイントを解説します。
最初に取り組むべきは、任せる業務の洗い出しです。「事務職を1人採用する」ではなく、「どの業務を、どれくらいの量、誰から引き継ぐか」まで具体化します。
注意したいのは業務量です。雇用後に継続的に担当できる業務や役割を設計することは、働く方が自身の役割を実感しながら働くうえでも重要です。業務量が十分に確保されていない状態は、仕事への不満や早期離職につながる可能性もあるため、複数部署から業務を集めるなどして、継続的に割り当てる業務量を確保することが重要です。
職場実習を活用する場合は、企業が作業への適性を確認するだけでなく、本人が仕事内容や職場環境を体験し、必要な配慮を確認する機会として位置づけます。実施する業務、期間、確認する内容などを本人や支援機関と事前に共有し、実習後に双方で振り返りましょう。実習時の様子だけで採否を決めつけず、手順や環境を調整した場合に取り組みやすくなるかも検討します。
「事務補助」「一般事務」といった大括りの表記だけでは、応募者は任される業務を判断できません。記載が曖昧だと、応募者が仕事内容や自分との適性を判断しにくく、「自分でも応募してよいのか」と迷った結果、応募を見送る可能性があります。
求人票で明確にしたい項目は、具体的な業務内容、求めるPCスキルの水準、勤務時間、提供できる配慮の内容です。
特に勤務時間は、応募可能な求職者の範囲に直結する項目です。雇用率制度上の算定対象となる精神障害者は、週所定労働時間20時間以上30時間未満の場合、当分の間、1人として算定されます。また、週所定労働時間10時間以上20時間未満の精神障害者、重度身体障害者、重度知的障害者は、1人を0.5人として算定できます。
算定方法は障害の区分や勤務時間等によって異なるため、短時間勤務にしても一律に同じ人数として算定されるわけではありません。本人が継続して働ける条件と業務上の必要性を踏まえて勤務時間を検討し、あわせて算定方法を確認しましょう。
採用後の定着には、配属先の受け入れ体制が重要です。企業が実際に行っている配慮を見ると、勤務時間への配慮と、休暇・休憩など休養への配慮が、いずれの障害種別でも上位に挙がっています。
同調査で「配慮している」と回答した事業所が挙げた配慮内容では、精神障害者については勤務時間への配慮、発達障害者については休養への配慮が最も多くなっています。ただし、事務職に限定した結果ではなく、必要な配慮は一人ひとり異なります。自社ではどのような支障があるかを、本人との対話を通じて確認しましょう。事務職の場合、繁忙期の残業や締切対応が発生しやすいため、この2点は特に設計に織り込んでおきたい要素です。(出典:令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書)
あわせて重要なのが指示の出し方です。業務手順は、本人が理解しやすい文書・図・実演などで共有します。あわせて、不明点や予定外の事態が生じた場合の相談先を決め、担当者が不在でも確認できる体制を整えましょう。
自社だけで進める必要はありません。ハローワークの専門援助部門では求人票の作成相談ができ、地域障害者職業センターでは、職場適応に関する相談や、必要性等を踏まえたジョブコーチ支援について相談できます。ジョブコーチは、本人への支援に加え、企業の担当者や同僚への助言などを通じて、職場で支える体制づくりを支援します。
障害者就業・生活支援センターでは、就業面と生活面の両方について相談できます。本人の意向や利用状況を確認し、必要に応じて企業・本人・支援機関で情報を共有しながら、雇用継続に向けた対応を検討しましょう。
事務職での障がい者雇用を検討する際は、継続して担当できる業務と、本人が力を発揮できる環境を整えることが大切です。事務業務の割り当てや受け入れ体制づくりに課題がある場合は、事務職以外の働く場も含めて、雇用の選択肢を検討する方法があります。
エスプールプラスの「わーくはぴねす農園」は、働く場所の提供から採用、雇用継続までを支援する農園型障がい者雇用支援サービスです。利用企業は、障がいのある方と、現場で日々の指導・雇用管理を担う農場長を直接雇用し、自社の責任のもとで雇用を行います。
エスプールプラスは、働きやすい設備や作業環境を整えた農園を提供するとともに、企業の担当者や農場長に対し、就労継続や野菜栽培に関する助言・フォローを行います。企業が主体となって、一人ひとりの特性や現場の課題に向き合い、継続して働ける環境づくりを進められるよう支援しています。
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【わーくはぴねす農園の実績】
| 障がい者雇用での課題 | エスプールプラスの場合 |
|---|---|
| 社内だけでは担当業務の確保が難しい | 農園での就業という選択肢を提供し、採用から雇用継続までを支援 |
| 採用してもすぐ辞めてしまう | 企業の担当者・農場長への助言やフォローを通じて、継続して働ける環境づくりを支援 |
| 障がい者雇用に関する社内の支援体制を整える必要がある | 活用企業が雇用する農場長が日々の指導・雇用管理を担い、当社が企業の担当者・農場長を支援 |
| 障がい者雇用のノウハウがない | 採用や就労継続、野菜栽培に関する助言を通じて、企業主体の雇用を支援 |
農園には屋外型と屋内型があり、企業や働く方の状況に応じて選択できます。さまざまな規模・業種の企業に利用されています。
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事務職には、データ入力、書類作成、経理、人事、電話対応など、さまざまな業務があります。「デスクワークだから負担が少ない」と一律に考えず、作業姿勢、PCの操作方法、対人対応の頻度、締切、通勤条件などを具体的に確認しましょう。本人の経験や希望と、必要な配慮を踏まえて業務を検討することが大切です。
まず確認したいのが業務内容の記載です。「事務補助」「一般事務」といった表記だけでは、応募者は任される業務を判断できません。担当する作業とその割合まで具体的に記載します。
次に勤務時間です。勤務時間が担当業務に対して必要な条件になっているかも確認しましょう。短時間勤務や始業・終業時刻の調整が可能な場合は求人票に記載し、応募者が働き方を検討できるようにします。
あわせて、提供できる配慮の内容と、求めるPCスキルの水準も具体的に示しましょう。
各部署の業務量や作業工程を確認し、継続して担当できる業務を整理します。複数部署から業務を集める場合は、想定する勤務時間に合う量か、指示や確認を誰が担うかも検討しましょう。事務業務だけでは適切な役割を用意しにくい場合は、本人の希望・適性を踏まえ、事務職以外の職務や働く場も含めて検討できます。
事務未経験であることだけを理由に、採用が難しいと判断する必要はありません。担当業務に必要なスキルと、入社後に教育できる内容を分け、本人の経験や習得状況、受け入れ側の教育体制を踏まえて検討しましょう。
重要なのは、任せる業務に必要なスキルを具体的に定義することです。データ入力が中心であれば文字入力の正確さ、資料作成が中心であればWordやExcelの基本操作、といった形で切り分けます。
未経験者であっても、業務内容に応じた教育や手順の明確化によって、業務を習得できるケースがあります。採用前に職場実習を実施すれば、相性を事前に確認できます。
2026年7月から、民間企業の法定雇用率は2.5%から2.7%に引き上げられ、雇用義務の対象となる事業主の範囲も、常用労働者40.0人以上から37.5人以上に拡大されました。
すでに達成していた企業でも、引き上げにより不足が生じる場合があります。まずは自社の法定雇用障害者数を再計算し、不足人数を確認することが必要です。
なお障害者雇用納付金は、原則として常用雇用労働者数が100人を超える事業主を対象とし、各月の法定雇用障害者数と雇用障害者数を基に、不足1人当たり月額5万円で算定します。申告義務の有無や納付額は、対象年度の各月の人数に基づいて確認してください。
事務職での障害者雇用が難しいといわれる背景には、求められるスキルや勤務条件との適合に加え、企業側で任せられる業務を確保できていないという構造的な課題があります。
本記事の要点
まずは継続して担当できる業務を整理し、想定する勤務時間に合った業務量と受け入れ体制を検討しましょう。外部サービスを活用する場合でも、雇用主である企業が採用方針や雇用管理、働く方との関わり方について主体的に検討することが重要です。
エスプールプラスは農園を活用した障がい者雇用支援サービス「わーくはぴねす農園」を通じて、働く場所の提供から採用、雇用継続までを支援しています。業務の割り当てや受け入れ体制づくりに課題がある方は、サービス資料や農園見学で、具体的な仕組みをご確認ください。
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