誰もが活躍できる社会の実現のため、障がい者雇用の推進は企業の社会的義務として求め られています。そのため、障がい者を多数雇用しているなど、障がい者雇用に積極的な企 業は、その姿勢に対する評価の一つとして、いくつかの税制優遇制度を利用することがで きます。
障がい者雇用に積極的な企業が受けることができる税制優遇措置は、大きく分けて以下の 2つです。
以下、それぞれの対象要件や内容などをご紹介します。
※この記事は令和6年5月時点での障がい者雇用に関わる法律をもとに作成しています。
助成金の支給を得て、障がい者を一定数以上雇用する事業所は、事業所税の軽減措置を受けることができます。この措置には、事業所の床面積を対象とした「資産税割」と、雇用されている従業員の給与総額を対象とした「従業員割」の2つがあります。
事業所税の資産割、従業員割は、どちらも恒久措置となっており、適用期限は定められていません。
【資産税割】
障がい者を10人以上雇用し、かつ雇用割合が50%以上(※)である事業主が対象となります。
※障がいの程度や労働時間によって雇用障がい者人数の数え方が異なります。詳しくは「障がい者雇用の等級によるカウント方法の違いとは?」を参照ください。
対象となった事業主が次のいずれかの助成金を活用して事業所を設置した場合、事業所税について減税が適用されます。
【従業員割】
対象は障がい者を雇用する事業主で、雇用人数や雇用割合は特に定められていません。
【資産税割】
助成金の支給を受けて設置した施設でおこなう事業について、事業所税の資産税割の課税標準となる床面積を求める際に、床面積の2分の1に相当する面積を差し引くことができます。
資産税割の減税のためには、要件を満たしているかの確認が必要になります。ハローワークで要件確認の手続きをしてください。要件を満たしている場合は証明書が交付されます。
【従業員割】
事業所税の課税標準となるべき従業員給与総額を求める際に、障がい者に支払う給与総額を差し引くことができます。
また免税点の判定において、従業者数から障がい者の人数を除いた人数で算定します。
国や地方公共団体の補助金、給付金、障害者雇用納付金制度に基づく助成金の支給を受け、それを固定資産の取得または改良などに使った場合、その助成金分については、損金算入(法人税)、または総収入金額に不算入(所得税)とすることができます。障がい者雇用に関する助成金については、「障がい者雇用の助成金とは?種類や助成金の金額について解説」の記事で詳しく解説しています。
助成金非課税措置は、恒久措置となっており、適用期限は定められていません。
【法人税】
交付を受けた助成金で取得等した固定資産の帳簿価額を圧縮記帳により減額等したときは、確定申告書に圧縮記帳による圧縮額の損金算入に関する明細の記載がある場合に限り、減額等した金額は損金算入することができます。
【所得税】
固定資産の取得等に充てられた返還を要しない助成金の額は、確定申告書に所得税法第42 条(国庫補助金等の総収入金額不算入)の適用を受ける旨を記載するとともに、「国庫補助金等の総収入金額不算入に関する明細書」を添付した場合に限り、各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しないことが可能です。
非課税措置が取られる助成金は、以下のとおりです。
現在は利用できませんが、過去にはこのような優遇措置がありました。
【適用期間は令和4年3月31日まででした。】
割増償却とは、減価償却の限度額を上回った金額を減価償却費として計上することです。
機械等の割増償却制度は、障がい者を多数雇用する事業所が対象となる機械や付属装置などについて減価償却を行う際、普通償却限度額に加えて、機械は24%、工場用建物は32%を割増償却できる制度です。
対象となる設備は、以下の2点のいずれかに該当するもののうち、減価償却を行う年またはその5年前以内に取得、制作、建設したものとなります。
次の要件のうちいずれかを満たす事業主です。
【適用期間は令和5年3月31日まででした。】
【不動産取得税の軽減措置】
障がい者を多数雇用する事業所が、助成金の支給を受けて事業用施設を取得し、引き続き3年以上、事業用に使用した場合に、その施設の取得に伴う不動産取得税について、取得価格の10分の1相当額に税率を乗じた額が減額されます。
【固定資産税の軽減措置】
障がい者を多数雇用する事業所が助成金の支給を受けて事業用施設を取得した場合には、その施設についての 固定資産税の課税標準は、当初5年度分に限り、課税標準となるべき価格から取得価格の6分の1に障がい者雇用割合を乗じた金額が減額されます。
【不動産取得税の軽減措置】
【固定資産税の軽減措置】
障がい者雇用を考えた時に適応される助成金の種類や、税制優遇制度に関わる申請方法について難しいと感じる方も多いと思います。
そんな時には、一度ハローワークや最寄りの税務署に問い合わせてみることをおすすめします。要件確認についてはハローワークに、制度については税務署、県税事務所へお問い合わせください。
また、適用期間や対象などの要件は都度変わる可能性がありますので、申請時に確認するようにしてください。
障がい者を特に多く雇用する事業主の方は、事業所税の特例や助成金の非課税措置など、税制上の優遇措置が受けられます。現在は優遇措置を受けていない事業主の方でも、障がい者を多く雇用している場合は、優遇の対象に当てはまるかもしれません。
企業は障がい者雇用に積極的に取り組むことで、今回ご紹介した税制優遇措置だけでなく、助成金の受給や優良企業認定など、さまざまなメリットが得られます。さらには、制度を利用して障がい者雇用を推し進めることで、障がいの有無に関わらずすべての従業員が働きやすい職場環境をつくることもできます。
この記事を参考に、まずはぜひ一度、税制優遇について確認してみてください。