更新日:2024年12月19日
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知的障がい者の雇用を検討している事業主の方のなかには、その雇用の方法やその方にとって適した内容などに悩む方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ただ知的障がいのある方は、必要な配慮を受けることで与えられた業務をしっかりとこなすことができ、同じ職場で長く働く方も決して少なくありません。この記事では、現在の知的障がい者の雇用状況や、向いている仕事、雇用の際のポイントなどを解説します。

知的障がいとは

知的障がいとは、その名のとおり、知的機能の障がいのことです。先天性のほか、出生後の感染症や事故などによって発症するケースもあります。

厚生労働省の定義では「知的機能の障がいが発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」とされており、18歳以降に出現した知能の遅れは知的障がいにはなりません。18歳までに受けた知能検査のIQがおおむね70までであることのほか、同年齢と比べて生活能力の水準が低いと判断された場合に、知的障がいとして診断されます。

職場では、仕事を覚えることに時間がかかったり、忘れてしまったりする場合があります。また、文面や表示の意味を理解することが苦手で、困りごとを抱えている方も多いようです。

参照:厚生労働省|2005(H17)年度知的障害児(者)の基礎調査結果の概要

知的障がい者の雇用の現状

知的障がい者の方は、その障がい特性により困りごとを抱える場合もありますが、合理的配慮を受けることで多くの方が社会で活躍することが可能です。ここでは、厚生労働省や専門機関の調査結果から、知的障がい者の雇用の現状をみていきます。

参照:厚生労働省|令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書

知的障がい者の雇用数

厚生労働省が公表した令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書によると、回答事業所6,406社における令和5年6月時点の雇用知的障がい者数は5,964人です。これをもとに全体の雇用者数を推計すると、約27万5,000人となります。これは、平成30年の同調査の結果と比べ、約8万6,000人の増加となっています。

知的障がい者の正社員の割合

令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書によると、知的障がい者のうち正社員の割合は20.3%となっています。

なお、週所定労働時間別にみると、もっとも多いのが「30時間以上」という回答で、64.2%の知的障がい者が週に30時間以上働いている結果となっています。次いで「20時間以上30時間未満」の回答が29.6%となっており、約95%が週に20時間以上働いていることがわかります。

知的障がい者の定着率

2017年に発表された「障害者の就業状況等に関する調査研究」によると、一般企業に就職した知的障がい者の入社3ヵ月後の定着率は85.3%、1年後の定着率は68.0%となっています。1年後の定着率をみると、発達障がい(71.5%)に次いで高い水準にあります。

また、知的障がい者の就職の特徴として、障がい者求人で就職している方が他の障がい者よりも多い点が挙げられます。障がいを前提に入社することで周囲に特性を理解してもらい、良い環境で仕事に定着できている方が多いようです。

参照:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター|障害者の就業状況等に関する調査研究 p.3

知的障がい者の平均給与

令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書によると、知的障がい者全体の1ヵ月の平均給与は13万7,000円です。また、週所定労働時間別にみたときの平均給与は以下の表のとおりです。

週所定労働時間 1ヵ月の平均給与
30時間以上 15万7,000円
20時間以上30時間未満 11万1,000円
10時間以上20時間未満 7万9,000円
10時間未満 4万3,000円

なお、給与形態をみると、多い順に「時給制(72.5%)」、「月給制(24.8%)」、「日給制(1.9%)」となっています。

知的障がい者の勤続年数

令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書によると、知的障がい者の平均勤続年数は9年1ヵ月です。これは、身体障がい者の平均である12年2ヵ月に次いで高い水準にあります。なお、精神障がい者の平均勤続年数は5年3ヵ月、発達障がい者の平均勤続年数は5年1ヵ月です。

知的障がいのある方に向いてる仕事

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知的障がいのある方は、突発的なできごとへの対応や対人的な業務が苦手な場合が多い一方、一度覚えた仕事はまじめに黙々とこなし、ルーティンワークも苦にならない方が多い傾向にあります。

ここでは、一般的に知的障がいの方に向いているとされる仕事をいくつか例としてご紹介します。

製造・加工

工場でのライン作業のように同じ作業を繰り返す「製造・加工」の仕事を得意とする知的障がいのある方は多くいらっしゃいます。突発的なできごとが少なく、ルールに沿ったルーティンワークが続くという点で、その特性を活かして業務にあたることができます。マニュアル通りにまじめに仕事をこなす方が多いため、大きな戦力として活躍できるでしょう。

清掃

ビルなどの清掃の仕事も、知的障がいのある方に向いている仕事の一つとされます。対人的なやり取りが苦手な方にとって、接客などのコミュニケーションが必要ないという点が働きやすいポイントです。製造・加工業と同じく突発的な出来事が少ないルーティンワークで、その特性を十分に活かすことができます。

事務

軽度の知的障がいでパソコン作業を得意とする方のなかには、事務の仕事に従事している方もいます。書類の整理やデータ入力など、定型的な作業の内容もあり、突発的な出来事が苦手な方でも働きやすい仕事内容といえます。自分のペースで仕事をすすめられるのも働きやすいポイントです。最初は簡単な作業からはじめ、少しずつ仕事の幅を広げていけば、スキルアップも可能でしょう。

知的障がい者を雇用する際のポイント

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知的障がいのある方には、障がい特性による得意不得意があります。できないこともありますが、決して怠けているわけではなく、障がい上の理由によって難しいのだと周囲が理解する必要があります。そのうえで、いくつかのポイントを押さえた合理的配慮を心掛けることによって、知的障がいのある方がより業務にあたりやすい環境を構築できます。

ここでは、知的障がい者を雇用する際のポイントを5つご紹介します。

理解度と業務がマッチしているか確認する

知的障がいのある方の物事の理解度は、人によってその程度の差が異なります。また、分野ごとに理解度に差がある方もいるため、個々人の理解度を見極める必要があります。その見極めをおこなったうえで、本人の理解度と業務がマッチしているかをしっかりと確認しましょう。

本人の理解度を超えた業務が割り当てられてしまうと、業務に支障がでるばかりでなく、本人にとって大きなストレスに繋がります。逆に、本人の理解度よりも簡単な業務ばかりが割り当てられると、やりがいを感じられなくなってしまうこともあるでしょう。ヒアリングなどを通して、割り当てられている業務が本人の理解度に対して無理のないものか、あるいは簡単すぎないかを定期的にチェックすることが大切です。

業務内容や進め方をマニュアル化する

業務内容や進め方をマニュアル化することも大切なポイントです。知的障がいのある方のなかには見通しをたてることが苦手な方も多いですが、マニュアルがあることで安心して業務にあたれるようになります。また、覚えることが苦手な方にとっても、業務内容がマニュアルに明記されていることで、それを見ながら仕事を進めやすくなるでしょう。

マニュアルをつくることは会社側にとってもメリットがあります。今ある業務を整理し可視化することで、業務の洗い出しができます。また、余分な業務を削り、会社全体の業務の効率化にも繋げられます。

5Sを意識した職場環境にする

5Sとは「整理・整頓・清掃・清潔・習慣」を指す、職場環境の改善や維持を目的としたスローガンです。整理整頓された職場環境を維持することで不要な情報が排除され、物の紛失などのイレギュラーなできごとも減ります。その結果、突発的なできごとへの対応が難しい知的障がい者の方にとって働きやすい環境を構築できます。

作業を可視化できるようにする

知的障がいのある方は、その障がい特性から、文面や口頭での理解が難しいケースもあります。具体的な図や写真などを用いて、作業を目で見てわかりやすいようにしましょう。

たとえば、作業の進捗に合わせて作業場所に番号を貼る、物の定位置に色付きのラベルを貼るなど、目で見て行動しやすいような導線を作るのが効果的です。チェックリストの導入も必要です。

コミュニケーションを密にとる

もっとも基本的かつ大切なポイントが、コミュニケーションを密にとることです。障がいのある方は困りごとを多く抱える傾向にありますが、なかなか助けを求めづらい方もいます。日頃からコミュニケーションを密にとっていれば、何に困っているのか、どのような配慮をすればいいのかをくみ取りやすくなり、職場環境の改善に繋がるでしょう。

また、コミュニケーションをとることで信頼関係が生まれ、職場へ定着も期待できます。

アンケート資料

まとめ

上述の通り、知的障がいは知能の障がいであり、物事の理解が苦手だったり、覚えることに時間がかかったりするといった特性を抱えている方が多くいらっしゃいます。一方、ルーティンワークが得意で、一度覚えたことにまじめに取り組む特性も持っています。

知的障害のある方を雇用する場合、雇用する側は、マニュアルの作成や作業の可視化をしたうえで障がい者本人とコミュニケーションを密にとり、業務内容に問題はないか、困りごとはないかをくみ取れるようにしましょう。

知的障がい者の職場定着率は高い傾向にあり、多くの方が一つの企業に長く勤務しています。合理的配慮をしっかりと実施するなど、環境を整えれば、貴重な戦力として長く活躍してくれる可能性があります。まずはその環境づくりに取り組み、長く安心して働いてもらえる体制を整えましょう。

知的障がい者だけでなく、精神障がい者や発達障がい者の障がい者雇用状況について詳しくは下記をご覧ください。
「精神障がい者雇用の現状とは?課題や雇用する際に配慮すべきポイントを解説」
「発達障がい者の雇用状況とは?企業側のメリットや課題について解説」

記事監修|斎藤 利之(さいとう としゆき)
一般社団法人全日本知的障がい者スポーツ協会 会長
公益社団法人日本発達障害連盟 理事/保護司
東京大学非常勤講師 他