中小企業基本法では、中小企業者の範囲を次のように規定しています。
参照:中小企業庁「中小企業者の定義」
障がい者雇用の法定雇用率は、障害者雇用促進法によって定められています。この法律では、事業主に対して雇用義務制度が課されています。そのため事業主は、雇用している従業員のうち、法定雇用率以上の障がい者を雇用する必要があります。
法定雇用率は定期的に見直しがされ、徐々に引き上げられています。直近では、令和6年4月に法定雇用率の引き上げがおこなわれました。令和6年5月現在、民間企業の雇用率は2.5%です。それにより、常時雇用する労働者が40人以上のすべての企業に、障がい者を雇用する義務が生じています。また、法定雇用率は今後さらに引き上げられることが決まっており、令和8年7月からは一般企業の法定雇用率が2.7%となる予定です。
なお、法定雇用率は企業の規模によって変わることはありません。令和6年5月現在の法定雇用率は、中小企業においても2.5%です。
参照:厚生労働省「障害者雇用率制度について」
中小企業では、障がい者雇用はどれくらい進んでいるのでしょうか。令和5年障害者雇用状況の集計結果からみていきましょう。
なお、これらの値は令和5年6月1日時点の各事業所の雇用状況についてまとめたものです。
企業規模別の実雇用率は以下のとおりです。
企業規模 | 実雇用率(令和5年) | 実雇用率(令和4年) |
---|---|---|
43.5~100人未満 | 1.95% | 1.84% |
100~300人未満 | 2.15% | 2.08% |
300~500人未満 | 2.18% | 2.11% |
500~1,000人未満 | 2.36% | 2.26% |
1,000人以上 | 2.55% | 2.48% |
出典:厚生労働省「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」をもとに株式会社エスプールプラスにて一部抜粋
これをみると、企業全体の実雇用率は右肩上がりですが、中小企業全体の実雇用率は法定雇用率を下回っていることがわかります。
また、企業規模別にみた法定雇用率(令和5年6月当時2.3%)達成企業の割合は以下のとおりです。
企業規模 | 達成企業割合(令和5年) | 達成企業割合(令和4年) |
---|---|---|
43.5~100人未満 | 47.2% | 45.8% |
100~300人未満 | 53.3% | 51.7% |
300~500人未満 | 46.9% | 43.9% |
500~1,000人未満 | 52.4% | 47.2% |
1,000人以上 | 67.5% | 62.1% |
前年度と比べて法定雇用率達成企業の割合は増加していますが、企業規模1,000人未満の企業においては、約半数が法定雇用率未達成となっています。今後も法定雇用率が引き上げられていく予定のなか、多くの企業が障がい者雇用の取り組みを強化していく必要がありそうです。
参照:厚生労働省「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」
法定雇用率を達成できない企業には、障害者雇用納付金の支払いの義務のほか、行政指導、企業名公表が行われる場合があります。
障害者雇用促進法には、障害者雇用納付金制度といわれる制度があります。障害者雇用納付金制度により、法定障害者雇用率を達成していない場合には雇用納付金を納める必要があります。
雇用納付金の金額は、雇用義務数に対して不足している障がい者1人あたり月5万円で、年間60万円の雇用納付金を納めなければなりません。
また、法定雇用率が大幅に未達の場合、管轄のハローワークから障がい者の雇入れ計画書の作成命令が発出されます。そのうえで、計画どおりに採用が進まない場合、障害者雇用率達成指導が行われ、社名公表になることもあります。
障害者雇用率達成指導の流れについては、下記のとおりです。
出典:厚生労働省「障害者雇用率達成指導の流れ」をもとに株式会社エスプールプラスにて一部抜粋
中小企業は、大企業よりも障がい者雇用が難しいことがあります。それは、経済環境の変化を受けやすく、リソースも大企業ほどないことが多いからです。
例えば、障がい者を雇用するときに、職場環境の整備や、支援者の配置など、雇用管理を充実させようとすると、健常者を雇用するときよりも経済的な負担が大きくなります。障がい者雇用に関する助成金もありますが、資金や人員の余裕が少ない中小企業にとっては、厳しい状況になることが少なくありません。
また、大企業に比べて、中小企業では従業員1人が多くの業務を兼務することや、専門性の高い業務が多いため、障がい者に任せやすい定型的な業務があまりないという状況もよくみられます。
中小企業で障がい者雇用を進めるためのポイントについて考えていきます。
障がい者雇用を進めるにあたっては、まず、会社としての方針を立てることが必要です。そして、会社としての障がい者雇用の方針を決めたあとは、それを社員に伝えて、障がい者雇用を行うことの理解を進めます。
多くの企業では、障がい者を雇用するときに、障害者雇用促進法の雇用義務があることを理由に挙げることが多いですが、他の社員がこのことを理解しないと、企業での障がい者雇用はなかなか進みません。特に、中小企業では、一つの部門や数人の担当者だけが頑張っても、業務量の確保などが難しい場合も多く、社内での障がい者雇用についての理解を深めることは大切なことです。
雇用する障がい者に、どのような業務を担当してもらうかについて、検討します。法定雇用率があるからといって、雇用しても仕事がないのであれば、働く障がい者にとっても居場所がなく、すぐに退職することにつながりますし、障がい者が配置された現場でも困ってしまいます。
社内で必要とされている業務は何かを調べて、業務を洗いだし、業務を設定していきます。
企業が障がい者を雇用するときには、障がい者雇用の支援機関を活用することができます。障がい者雇用の相談や支援の窓口としては、次のような機関があります。
ハローワークでは、障がい者を雇用しようとする企業や雇用した企業に対して、雇用管理上の配慮についての助言や必要に応じて、地域にある他の就労支援機関の紹介、各種助成金の案内を行っています。
地域障害者職業センターには、障害者職業カウンセラーや配置型ジョブコーチなどが配置されており、障がい者雇用の専門的な役割を担っています。
就労移行支援事業所では、働く意志のある障がい者に、仕事をするうえで必要なスキルを身につける職業訓練や、面接対策などを通して、就職活動のサポートをしている機関です。就職後も、雇用した障がい者がその企業に定着できるよう、事業所の訪問や、相談にのるなどのサポートを行います。
障害者就業・生活支援センターでは、就業と生活の両方をサポートするセンターです。そのため、この機関には「就労支援員」と「生活支援員」がいて、働くことだけでなく、生活に関わる住まいや、役所への手続き、時には家族支援なども含めて、さまざまな日常生活の支援を行っています。
障がい者雇用に関する企業への金銭的な支援として、助成金や、地方自治体からの奨励金などがあります。
助成金は、障がい者を雇用した時に活用するものがよく知られていますが、その他にも施設や設備のメンテナンス、雇用管理で適切な措置を実施、職業能力開発、職場定着のための措置を実施するなどの場合にも、活用できる助成金があります。
障がい者雇用で、企業がよく活用するのは、次のような助成金です。
障がい者雇用では、採用しても障がい特性にあった業務内容や配慮のある雇用管理がないと、離職につながってしまうケースも少なくありません。せっかく採用しても、すぐに離職になってしまうと、それまでの労力が無駄になってしまいます。
そうならないためにも、障がい者本人が活躍できる業務に取り組み、意欲を持ち続ける体制をつくることが必要です。また、合わせて障がい者が安定して働き続けられるように適切な配慮を示すことも考えていくことが必要です。
障がい者雇用にうまく取り組んでいる中小企業の事例として、ある総合板金メーカーの事例をみていきましょう。
こちらの企業では、設計から板金、塗装、組立までの一貫生産が可能な生産システムが備えられています。従業員数は104名で、発達障がいのある3名の方が雇用されています。発達障がいのある方が従事している業務は、塗装作業です。
この企業では、発達障がいの雇用ははじめてだったそうですが、ナビゲーションブックで社員の障がい特性を把握し、社長自らが社員研修を行い、社内理解を促進したそうです。
また、障害者職業センターのジョブコーチによる支援を活用し、ジョブコーチが、本人に対して作業理解度の確認、職場のルール・マナーについてのアドバイスや、精神面のフォローを行いました。従業員に対しては、本人への対応方法やフィードバックの方法などについてのアドバイスもしています。
技術力が求められる塗装部門での専門的な業務でしたが、本人の特性に応じた作業指導をていねいに行うことによってスキルアップが図れています。
なお、この企業は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の職場改善好事例集(平成28年度)において、優秀賞を受賞しています。
中小企業における障がい者雇用の現状や、障がい者雇用を進めるためのポイントについてみてきました。
中小企業の障がい者雇用は、大企業に比べるとリソース的に厳しいことも少なくありません。しかし、事例でみてきたように、規模が小さい事業所でも、障がい者の特性に合った業務を創出し、社内で障がい特性を理解することで、雇用がうまくできているケースもたくさんあります。
障がい者雇用のポイントを抑えながら、支援機関や雇用支援制度などを効果的に活用することを考えていくとよいでしょう。