「農園型障がい者雇用」という言葉を聞いたことはありますか? 一般的に就労が難しいとされる知的障がい、精神障がいのある方でも働きやすい環境として、企業が農園を活用する仕組みを指します。
業務の創出が難しい企業でも障がい者雇用を進められる仕組みとして、農園を活用した障がい者雇用の支援サービスが近年、注目を集めています。
ここでは、農園型障がい者雇用を支援するサービスの概要とそのメリット、厚生労働省の見解や注意点などを解説します。
※農園型障がい者雇用にはさまざまな形態があります。ここでは一般的な農園型障がい者雇用について説明します。
一般的に農園型障がい者雇用支援サービスとは、障がい者雇用を促進したい企業に対して、農園型障がい者雇用支援サービスを提供する支援業者が農園を貸し出し、そこを障がい者雇用の場として活用するサービスを指します。
支援業者は、農園の貸し出しのほか、求職障がい者の紹介や雇用後のサポートなども行うケースが多いです。障がい者雇用の取り組みに悩む企業の課題を解決できるサービスとして注目を集めています。
一般的に農園型障がい者雇用支援サービスとは、以下のような仕組みのサービスです。ここでは、農園型障がい者雇用支援サービスを提供する業者を「支援業者」、そのサービスを利用する企業を「企業」として説明します。
支援業者が農園で提供するサービスは多様ですが、企業の管理者が障がい者の業務指導や雇用管理を行い、支援業者が農園の運営と雇用継続のアドバイスを行うケースが多くなっています。
農園型障がい者雇用支援サービスは2010年ごろに登場しました。現在、全国で10社~20社以上の業者がサービスを提供し、800社~1000社以上の企業がサービスを利用しているといわれています。雇用される障がい者は1万人にせまり、障がい者雇用の促進に大きく貢献しています。
農園型障がい者雇用が注目されている背景について詳しくみていきます。
企業や国、地方公共団体には、法律により、従業員数に応じて一定数以上の障がい者を雇用する義務が課せられています。
従業員数に対して雇用すべき障がい者の割合を 「法定雇用率」といい、この割合は定期的に引き上げが行われています。最近では令和6年4月に引き上げられ、一般企業における法定雇用率は2.5%になりました。これにより、従業員数が40人以上のすべての企業に障がい者を雇用する義務が生じています。
今後、法定雇用率はさらに上がっていく見通しで、令和8年7月には2.7%に引き上げられることがすでに決まっています。この引き上げが実施されると、従業員数37.5人以上の企業が障がい者雇用の対象となり、それまで雇用義務のなかった企業にも障がい者雇用に取り組む必要性が生じます。
その先も、法定雇用率の引き上げに関するこのような流れは続いていくと考えられます。そのため、新たに障がい者雇用を始める企業や、障がい者の雇用を拡大したい企業の手段の一つとして、農園型障がい者雇用が注目されているのです。
令和5年度の障害者雇用実態調査結果報告書では、企業が抱える障がい者雇用における課題として、以下のような回答が多くなっています。
障がい者雇用では、業務の創出や環境の整備、障がいの理解や把握への不安などを課題として抱える企業が多いことがわかります。これらの課題を解決するサービスとして、農園型障がい者雇用支援サービスに注目する企業が増えています。
農園型障がい者雇用支援サービスは、障がい者側と企業側の双方にメリットの多いサービスです。それぞれのメリットについて解説します。
雇用率の引き上げが進む一方で、知的・精神障がい者の定着率は約5割となっており、企業側に障がい者雇用のノウハウがないと、定着が難しい実態があります。また、障がい者によって障がい特性は異なり、特性に応じた配慮が受けられるかわからず、不安に感じる方も多いです。
障がい者雇用を前提として作られた農園には、企業の管理者に加え、支援業者のスタッフのサポートもあるため、安心して働きやすい環境が整えられています。
また、身体を動かすことや作物を育てることは心身のリフレッシュにつながりますし、野菜の成長、収穫など、仕事の成果が目に見えて分かりやすく、大きなやりがいにもつながります。
「企業が抱える障がい者雇用における課題」でお伝えしたように、業務の創出や環境の整備、障がいの理解や把握への不安などを課題として抱える企業が多くあります。そこで、障がいのある方が活躍できる場として、「農園」を活用するケースが増えています。
障がい者雇用の担当者は、支援業者のスタッフとともに雇用する障がい者の特性に理解を深めながら雇用に取り組めるため安心です。また、本社社員と農園ではたらく障がい者スタッフの交流の場を設けることで、社員の障がい理解を進めつつ、ノーマライゼーションの意識向上効果も期待できます。
令和4年1月以降、厚生労働省は、農園型障がい者雇用支援サービスを含めたいわゆる「障がい者雇用ビジネス」の実態を把握するための取り組みをはじめました。令和5年6月の時点で「明らかに法令に反する事例は確認されていない」と報告されていますが、以下のような懸念点も提示しています。
など
これらを踏まえ、障がい者雇用において企業が行うことが望ましい取り組みについて、以下のように提示されました。
「今後は、雇用機会の確保及び必要な合理的配慮を行うことに加え、
等、障害者が活躍できる職場環境の整備や適切な雇用管理の取組を行うことが望まれます。」
引用:厚生労働省「労働政策審議会障害者雇用分科会 参考資料3「事業主の皆様へ」」
厚生労働省は、障害者雇用促進法の趣旨と照らし合わせた際、その内容に疑義の残る事例もあるとする一方、障がい者の能力開発や向上につながる好事例も確認されているとしています。
サービスを利用する際には、厚生労働省が提示する望ましい取り組みに沿った形でサービスを活用することで、よりよい形の障がい者雇用が実現できるでしょう。
障がい者雇用は、あくまで企業が主体となって行うものです。サービスを利用したからといって、障がい者雇用について企業の社会的責任がなくなるわけではありません。現時点で企業が障がい者雇用支援サービスを活用することによる法令違反は確認されていませんが、単なる雇用率達成のためのサービス利用にならないよう、十分に留意する必要があります。
農園型障がい者雇用支援サービスの場合、本社と農園の間で距離が大きく離れることもあります。障がい者雇用の担当者やその他従業員との交流の機会が少なくなると、農園の状況を把握しにくくなることに注意が必要です。企業は農園で働く障がい者の実態を常に把握し、特性や希望に応じた業務を提供しているといえるのか、スキルアップなどの機会や可能性を十分に与えられているのか、などを常に考えていかなくてはいけません。ほかの社員と同様、業績や取り組みに応じて相当の評価をする必要もあります。
農園型障がい者雇用支援サービスで働く障がい者に対して、当然ですが自社の社員であるということを念頭におき、雇用に責任を持ち続けていくことが求められます。
障がい者の就労の場として支援業者が企業に農園を貸し出す農園型障がい者雇用支援サービス。障がい者雇用の負担を軽減しながら、障がい者は整った環境で就労できる、企業と障がい者の双方にとってメリットの大きなサービスです。
ただし、厚生労働省の見解では、良い事例も見られる一方、一部に障害者雇用促進法の趣旨と照らし合わせて疑義が残る事例があることが示されています。農園型障がい者雇用支援サービスを利用する際は、サービスの内容を詳しくチェックし、障がい者雇用の本来の意義や目的に見合ったサービスが得られるかをしっかりと確認しましょう。
この記事では、デフリンピックの概要や歴史、そして魅力について詳しく解説しました。世界中から集まるアスリートたちが繰り広げるデフリンピックの世界を、一緒に探っていきましょう。
≪関東エリア≫令和4年障害者雇用状況の集計結果抜粋 ...
ヘルプマークの意味や対象者、正しい利用方法などをわかりやすく解説しました。障がいのある人も、ない人も、知っておくべき情報をまとめたので、ぜひチェックしてみてください!