平成30年に障がい者雇用義務の対象として精神障がい者が加わり、社会全体が一体となった共生社会実現への取り組みが求められています。しかし、実際に精神障がいがある方を雇用するとなると、定着支援の方法なが分からず不安を感じる企業や、どのようなことに注意を払えば良いかわからないという企業もあるのではないでしょうか。
この記事では、精神障がいの種類・特徴や、精神障がい者雇用の現状、企業の課題や解決のポイントなどを解説します。
ひと口に「精神障がい」といっても、その種類や特性は多様です。ここでは、代表的な精神障がいを5つあげ、その特性について解説します。
障がい名 | 主な特性/症状 |
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統合失調症 |
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気分障がい |
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てんかん |
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依存症 |
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高次脳機能障がい |
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上記のほか、発達障がいも精神障がいに含まれており、その中でも自閉症スペクトラムや学習障がい、注意欠如・多動性障がいなどが代表的です。
厚生労働省では、精神障がい者についてもほかの障がい者と同様に積極的な雇用を推進しています。ここでは、「令和5年度障害者雇用実態調査」の結果から、精神障がい者雇用の現状についてみていきます。
令和5年6月時点で障害者雇用実態調査に回答した6,406社の事業所における精神障がい者の雇用人数の合計は6,387人でした。これをもとに国内全事業所における精神障がい者の雇用人数を推計すると、21万5,000人となります。
産業別では、「卸売業・小売業」(25.8%)、「製造業」(15.4%)、「サービス業」(14.2%)の順に多く、企業規模別では37.7%の精神障がい者が従業員数1,000人以上の大企業で働いているという結果となりました。
精神障がい者として働く方のうち、正社員として働く人は全体の32.7%です。また、無期契約で働く方が22.8%、有期契約の働く方が40.6%という割合になっています。
2017年に障害者職業総合センターが実施した「障がい者の就業状況等に関する調査研究」の結果によると、障がい者求人における精神障がい者の1年後の職場定着率は64.2%、障がい開示の一般求人では45.1%、障がい非開示の一般求人では27.7%となっており、全体的に定着率は低い傾向です。
なかでも、精神障がい者の定着率は特に低い傾向にあります。一方、知的障がい者や発達障がい者の定着率は比較的安定しています。
精神障がい者の令和5年度の平均給与額は月額14万9,000円です。これは残業手当を含んだ金額で、所定労働時間内の給与としては月額14万6,000円が平均給与となっています。
所定労働時間別にみると、以下のような月額給与となります。
分類 | 平均月額給与 |
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精神障がい者全体 | 14万9,000円 |
週所定労働時間30時間以上 | 19万3,000円 |
週所定労働時間20時間以上30時間未満 | 12万1,000円 |
週所定労働時間10時間以上20時間未満 | 7万1,000円 |
10時間未満 | 1万6,000円 |
令和5年度における精神障がい者の平均勤続年数は5年3ヵ月です。身体障がい者の平均勤続年数は12年2ヵ月、知的障がい者は9年1ヵ月、発達障がい者は5年1ヵ月となっており、発達障がい者とほぼ同程度の平均勤続年数であることがわかります。
これはあくまで平均なので、なかには同じ職場でより長く働き続けている精神障がい者の方もいます。
政府は、障がい者雇用のカウント方法に精神障がい者の算定特例を設けるなど、精神障がい者雇用の推進に力を入れています。その理由の一つには、精神障がい者数自体が増加傾向にあることがあげられます。
令和4年6月に行われた「第13回 地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」にて厚生労働省が提示した参考資料によると、平成14年には258万4,000人だった精神障がい者の数は、平成29年には419万3,000人にまで増加しています。また、令和5年5月22日に行われた「第28回障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」にて厚生労働省が提示した資料によると、令和2年の精神障がい者数は614万8,000人とさらに増加しています。
精神障がい者数の増加にともない雇用の促進が図られる一方、雇用する企業にはクリアしなければいけない課題が少なくありません。具体的な雇用を進めていくうえでの注意点を大きく4つご紹介します。
ひと口に「精神障がい」といっても、その症状や特性はさまざまであり、あらわれる症状には個人差があります。障がい者雇用全般に言えることではありますが、雇用する企業には、個人に合わせた対応が求められます。
改定障害者差別解消法の制定や周知などにより、障がい者への偏見や差別は取り除かれつつあります。しかし、精神障がい者に対して「怖い」「なにを考えているかわからない」などという誤ったイメージを持っている方も、社内に一定数いる可能性があります。また、定着率の低さから「継続的な雇用が難しい人材」と考えている企業もあるでしょう。
障がい者一人一人の個性や能力よりも、そのような先入観が、お互いの心理的な妨げとなってしまうケースもあるため、社内において必要な研修を行うなど、正しい理解の醸成を行いましょうです。
令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書によると、精神障がい者雇用の課題として、74.2%の企業が「会社内に適当な仕事があるか」という項目を選択しています。多くの会社では、社内の業務から精神障がい者に適した業務の創出が難しいと感じているようです。
業務の創出にあたっては、一人ひとりの障がい特性を考慮したうえで、その能力を発揮できるよう本人との対話を重視し、障がい者本人がやりがいを感じつつ会社の経営利益につながるような工夫をすることが大切です。
精神障がい者雇用は全体的にみて定着率が低く、勤続年数も身体障がい者や知的障がい者にくらべて短い傾向にあります。また、体調の変動が大きい方もいるため、休職を繰り返す場合もあります。そのため、長期的なキャリア形成や継続的なスキルアップがしにくい傾向があります。長く安定して働くために、それぞれの注意点を意識して雇用することが大切です。
課題を抱える企業も多い精神障がい者雇用ですが、雇用を成功させるためにはいくつかのポイントがあります。そのポイントを3つご紹介します。
第一に、精神障がい者の特性の把握・理解を進めましょう。障がい自体の知識をつけ理解を深めることはもちろんのこと、一個人としてどのような特性があるのか、どんな配慮が必要なのかをしっかり把握することが大切です。精神障がい者の症状には波があることも念頭にいれ、どのような症状が出やすいのか、症状が強いときにはどう対処すべきなのかを把握できるよう、しっかりコミュニケーションをとりましょう。
精神障がい者のなかには、口頭での指示の理解が苦手な方もいます。そうした方の場合は、マニュアルがあることで仕事が覚えやすくなり、安心して働けるでしょう。
マニュアルを作ることは、企業にとっても業務の見直しをする良い機会になります。今ある業務をマニュアルとして可視化することで、業務の整理や切り出しがしやすくなるでしょう。
精神障がいの方は、気候や人間関係、身の回りのちょっとした出来事などで体調が変化しやすい傾向にあります。体調の変化をまわりに相談できず、無理をし続けることで体調が悪化して、休職や退職に追い込まれてしまうケースもあります。
会社は、雇用する障がい者の体調の変化を見逃さないようにすることが重要です。そのためには、個人面談が有効な手段となります。定期的に個人面談を実施し、仕事量や働き方に問題はないか、体調に変化はないかなどを気軽に相談できる関係性を構築することが大切です。
精神障がい者雇用は、特に初めて取り組む企業にとっては不安を感じやすいかもしれません。一方、当事者にとっても不安を感じることはあるでしょう。
精神障がい者が長く、企業経営に貢献できるような形で仕事を続けられるようにするためには、お互いの不安を取り除くことが大切です。そのためには、企業側がしっかりと障がいへの理解を深め、特性は人それぞれ違うものであることを知ったうえで、自社で働く精神障がい者の特性を把握する必要があります。定期的な個人面談などを通し、一歩ずつでも信頼関係を構築するような取り組みを進めていきましょう。
なお、企業だけで障がい者雇用に取り組むことが大変な場合には、ハローワークに相談し公的サービスを受けることや、障がい者雇用支援をおこなっている民間事業を利用することも有効です。自社だけで悩まず、専門的な対応が可能なサービスの利用も積極的に検討してみてください。
精神障がい者だけでなく、知的障がい者や発達障がい者の障がい者雇用状況について詳しくは下記をご覧ください。
「知的障がい者の雇用状況や向いている仕事とは?雇用の際のポイントも解説」
「発達障がい者の雇用状況とは?企業側のメリットや課題について解説」