CSR(企業の社会的責任)やSDGs(持続的な開発目標)、ESG(社会的責任投資)といった価値観が世界的に広まり定着する中、企業が果たすべき役割は、社会に向けてだけでなくそこで働く従業員に向けても果たされるべきものであるという考え方が浸透し始めています。その中で近年よく聞かれるのが「健康経営」という言葉です。
ここでは、健康経営の概要やそのメリット、経済産業省による認定制度である「健康経営優良法人」などについて解説します。
健康経営とは、従業員の健康管理を経営という視点でとらえ、計画的にその維持を実行していくマネジメントを指します。
従業員の健康に関心や配慮が至らない企業は、長時間労働の常態化やハラスメントなどによって起こり得る従業員の心身の不調を助長し、生産性の低下を招きます。この生産性の低下を防ぐために企業が積極的に投資や環境改善をおこない、従業員の健康の管理をすること。これが健康経営です。
健康経営が注目を集め推進される背景には以下の3つがあると考えられます。
少子高齢化が進み労働人口が減少することに伴う将来的な経済活動の停滞が懸念されています。このことは、国民医療費や介護保険料給付にそのまま大きな影響を与えます。
このままの状況が続けば、企業における社会保障コストの負担はますます増えていくことが予想されます。そうした負担を削減していくためにも、健康経営への取り組みは不可欠な要素となります。
働き方改革によって労働環境の改善が叫ばれる一方、労働負荷により職場におけるストレスを感じる人は今も決して少なくありません。人材の確保や定着に悩む多くの企業にとって、労働災害やメンタルヘルスを含むリスクマネジメントは欠かせない取り組みです。これはすなわち企業の社会的責任とつながるものであり、企業価値を維持向上させるうえで避けては通れないものとなっています。
従業員が心身に何らかの不調をきたすと、能力・スキルを十分に発揮しきれなくなります。また、その不調によって従業員が休んでしまい、その穴埋めを他の従業員がおこなうとなると、穴埋めする側にも負担がかかります。結果、穴埋めをした従業員までが体を壊すことにもつながりかねません。
このような負のスパイラルに陥ると離職率が高くなり、企業のイメージダウンにつながります。こうしたことを避けるためにも健康経営の推進は不可欠といえます。
それでは、実際に健康経営に取り組むことでどのようなメリットがあるか。ここでは5つ紹介していきたいと思います。
従業員が心身の何らかの不調を抱えていると、
など、生産性が低下します。健康経営に取り組み、従業員が心身共に万全の体調で仕事に取り組むことができれば、それだけで生産性が上がることが予想されます。
健康に問題がある状態で勤務し続けると事故や不祥事を引き起こしやすくなります。また最悪の場合、心筋梗塞やくも膜下出血など死に至るような病を引き起こす可能性も高くなります。そうなると労災が適用され莫大な費用がかかるだけでなく、場合によっては会社の信頼を失墜させるような大きな問題にもつながりかねません。従業員の健康管理はリスクマネジメントの一環でもあり、企業を守ることにもつながるのです。
従業員が健康を害し病院で診療を受ける場合、適用される健康保険は企業が負担することになります。健康保険にかかる費用の増加を防ぐためには、個人だけに健康管理を任せるのではなく、企業が積極的に健康維持に関わることが重要です。
健康経営に真摯に取り組み従業員を大事にしている企業であることが社会や取引先に認知されることで、企業の信頼度が向上し、ブランド力の強化につながります。
会社全体で従業員の健康維持・増進に対して取り組む姿勢は、従業員のモチベーションを向上させます。やる気と体力に満ち溢れた従業員が働く職場では自然と労働生産性が上がり、企業の成長につながります。
健康経営には、ご紹介したようなメリットがある反面、難しさもいくつかあります。
社員の健康に気をつかう経営を始めたとしても、実際に見た目で「健康になった」と実感できることは少ないでしょう。取り組みに対する具体的な成果が見えにくい点が、健康経営の難しさの一つです。目に見える効果がわかりにくいと、その業務に携わる社員の意欲の低下につながる可能性もあります。具体的に効果測定をするために社員の健康状態のデータを定期的に収集・分析する方法もありますが、それも業務の煩雑化につながる恐れがあります。
最初は目に見える効果がなかなか見られず、継続する意味を感じられないこともあるでしょう。健康経営は一朝一夕で成し遂げられるものではありません。長期的に取り組みを続ける視点を持ち、取り組みを継続する必要があります。
健康経営に取り組むということは、その業務にあたる社員が必要ということです。普段の仕事に加えて健康経営業務を任されれば、データの測定・提出や健康イベントへの参加といった業務が増えることは、担当者にとって大きな負担になりかねません。健康のための取り組みがかえって社員のストレスにつながってしまう可能性もあります。
健康経営にはメリットと難しさがあることがわかりました。しかし、会社を持続的に成長させるためにも健康経営は重要です。会社や社員の負担をなるべく軽減しながら健康経営を推進していくためのポイントを3つご紹介します。
まず重要なことは、企業全体で足並みを揃え取り組んでいくことです。「健康経営を推進します」と言いつつ一部の社員だけが取り組んでいるのでは、モチベーションに差が生まれてしまいます。社員のモチベーションが上がるよう働きかけながら、企業全体の課題として健康経営に取り組むことが重要です。
PDCAとは、「計画する(Plan)」「実行する(Do)」「評価する(Check)」「改善する(Action)」のサイクルを繰り返すことで業務の改善をしていく手法のことです。
健康経営についても、計画に対する成果を客観的に評価・改善しながら行動するサイクルを繰り返すことで、無駄が徐々に削られ、業務の効率化につながります。
健康経営は目に見える成果がすぐに見えにくく、「今取り組んでいることは正解なのか」と不安になりやすいものです。その点、PDCAを回すことは先の見通しを立てることにもつながるため、業務上のストレスも軽減するでしょう。
健康経営に取り組む企業が利用できる助成金をいくつかご紹介します。
受動喫煙防止対策のため、一定の基準を満たす喫煙専用室の設置や、設備・備品の導入などに対し、費用の一部を助成しています。
コラボヘルスとは、良好な職場環境のもと、社員の病気予防や健康づくりを効率的に実施することです。労災保険に加入している中小企業事業者は、コラボヘルスなどの健康維持・推進に取り組んだ経費のうち、最大4分の3の助成を受けることができます。
そのほか、高齢者の健康管理制度の導入や特別休暇の導入といった環境整備に関する費用の助成など、健康経営に関する助成金はいくつかあります。これらの助成金を利用すれば、会社の経済的負担を軽減しながら健康経営に取り組むことができます。
経済産業省では「健康経営優良法人」という認定制度を設け、健康経営の積極的な推進を後押ししています。その概要と取得の方法をみていきましょう。
「健康経営優良法人」は、健康経営に取り組む企業を見える化するための施策です。積極的な健康活動に取り組む法人に対して毎年認定をおこなっています。「健康経営優良法人」に認定され、健康経営への取り組みが公的に認められることで、企業価値を大きく高めることができます。
健康経営優良法人には「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」の2つの部門があります。どちらの部門になるかは、申請時点における「常時使用する従業員」の人数をもとに業種ごとに決められています。
では、実際にどのようなステップを踏んで認定を受けるのでしょうか。大規模法人部門と中小規模法人部門に分けて紹介します。
提出した書類は健康経営優良法人の認定委員会による審査を経て、日本健康会議によって認定されます。
提出した書類は健康経営優良法人の認定委員会によって審査され、日本健康会議によって認定されます。
申請と審査によって健康経営優良法人の認定を取得できることをご説明しましたが、健康経営優良法人の認定を取得すると、会社にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?
健康経営優良法人に対しては、各自治体や地方銀行、保険会社などで優遇措置がとられる場合があります。例えば、自治体が行う公共工事の入札審査での加点や、認定企業向けの補助金制度などがあります。また、融資の金利を減額する銀行や、保険料の割引を行う保険会社もあります。
これらの優遇措置には経営産業省の後押しもあり、今後も拡大が期待されています。
健康経営優良法人に認定されると、「従業員の健康管理に経営的な視点で取り組む企業」として社外へアピールできます。「健康経営優良法人」のロゴマークの使用が許可され、それを企業のパンフレットやホームページなどに表示することで、企業のイメージアップにつなげられます。
また、ハローワークの求人票にもそのマークが表示されるため、求職者に対しても良いイメージをアピールできます。
ここまで、健康経営についての意味やメリット、健康経営優良法人の取得方法などについて紹介してきました。
エスプールプラスが提供する「企業向け貸し農園サービス」を用いた障がい雇用支援は、障がい者雇用の促進だけでなく健康経営にも貢献するものです。貸し出した農園で収穫された野菜は福利厚生として社内配布することも可能で、バランスの取れた食生活のサポートを通して健康経営を実現することができます。
貴社においてもエスプールプラスの障がい者雇用支援サービスをぜひ活用し、障がい者雇用の推進とともに健康経営をぜひ実現してください。