更新日:2024年8月21日

法制度・最新情報の資料

障がい者雇用とは

障がい者雇用は、障害者雇用促進法で定められています。一定以上の規模の企業には障がい者の雇用が義務付けられており、企業の社会的責任の一つとして認識されています。

障がい者雇用と一般雇用との違い

障がい者雇用も一般雇用も、採用面接や採用試験を経て採用される点は同じですが、障害者雇用率制度における障がい者雇用では、障がいのある方が障がいを前提として採用されます。採用の段階で企業に障がい特性を伝えることで、入職後にその特性への配慮を受けやすくなります。通院や休憩などへの融通も効きやすいケースが多いようです。

一方、障がいがありながら一般雇用で採用される方もいます。その中でも、障がいがあることを伏せて一般採用で就職する場合、入職してから働きにくさを感じても、伏せたままだと、それを解消するための配慮を周囲に求めづらくなります。

雇用義務のある企業とは

障がい者雇用にあたっては、企業に対して障がい者雇用率が設定されています。この雇用率は段階的に引き上げられており、民間企業における法定雇用率は今後以下の通り引き上げられることが決まっています。

2023年度まで 2024年4月 2026年7月
法定雇用率 2.3% 2.5% 2.7%

法定雇用率が2.5%の場合、雇用義務のある民間企業は従業員を40人以上雇用している企業となります。これまで雇用義務がなかった企業であっても、法定雇用率の引き上げによって雇用義務が発生する可能性があるため、注意が必要です。

企業が障がい者雇用を行うメリット

企業が障がい者雇用を行うメリットの大きな点は、法律で定められている障害者雇用率を達成できることです。しかし、法律を遵守する以外にも、障がい者雇用を行うメリットはあります。

(1) 社会的責任の遂行 ⇒ブランドイメージ向上・売上増大

企業が社会で活動していくためには、社会からの信頼が重要です。CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)は、企業が自社の利益だけを追求するのではなく、すべてのステークホルダー(消費者や投資家に加え社会全体などの利害関係者)を視野に入れ、よりよい社会づくりを目指す活動のことです。

企業のCSR報告の中には、ダイバーシティ推進の一環として、女性やシニア、外国人の活躍の場とともに、障がい者雇用についての取り組みについて記載していることも多くあります。障がい者雇用率を達成し、障がい者が活躍している企業であると示すことは、社会的責任を果たしていることを明らかにすることにもつながります。

より具体的には、法定雇用率の達成状況に応じて、公共の競争入札案件で加点となる事例や、ユニクロを運営するファーストリテイリング社のように、店舗づくりや売上増大に重要な役割を担ったりしている事例もあります。
(外部リンク:ファーストリテイリングD&Iページ

(2) 多様性のある会社づくり ⇒人材不足対策

ワーク・ライフ・バランス、テレワークなど働き方が多様化する中、障がい者を雇用することは、いろいろな制約や条件などをクリアしながら人材が活躍できる場をつくることの貢献につながります。ある企業では、障がい者のためにおこなった職種開発が、結果として健康上の問題が生じた既存社員の雇用の受け皿になることがあったそうです。

障がいのある方でも活躍できる職場環境をつくることは、障がい者雇用で働く人以外のさまざまな事情を抱えた人も含め、全従業員にとって働きやすく安全な職場環境を提供することにもつながります。いろいろな立場の従業員がそれぞれ自分らしく働くことで、あらゆる角度からの経験や価値観をサービスや商品に反映でき、事業内容の質の向上も期待できます。

また、労働力人口の減少が続く日本において、人材不足という経営課題は深刻です。その点で、障がい者、高齢者、外国人の雇用への取り組みは、中長期的な経営課題の解決という視点でも重要です。

(3) 業務フローを見直すきっかけ

多くの企業では、障がい者を雇用することをきっかけに、社内の業務の見直しをおこない、業務を切り出しています。業務を見直すことによって、今まで行っていた業務を最適化したり、効率化をはかったりする機会となることも珍しくありません。

例えば、既に行っている業務や組織を変えていく必要は感じていても、実際に見直しをかけるには、社内調整するのが大変で、手をつけられていなかったかもしれません。長い期間、同じような業務フローをしている場合、商品・サービスの品質向上、コスト削減、組織の体質改善などの点で変化が必要なことも少なくありません。

そのような業務全体を見直すことによって、業務や、業務フローを見直し、再設計することにより、業務の効率化を高めることができます。そして、その中に障がい者が行う業務を作り出すこともできるのです。

(4) 税制優遇の適用、助成金の受給

障がい者雇用に関する企業への金銭的な支援として、助成金や、地方自治体からの奨励金などがあります。障がい者雇用に関連する税制優遇措置については、「障がい者雇用で優遇される税金とは?」をご覧ください。

助成金は、障がい者を雇用した時に活用するものがよく知られていますが、その他にも施設や設備のメンテナンス、雇用管理で適切な措置を実施、職業能力開発、職場定着のための措置を実施するなどの場合にも、活用できる助成金があります。

障がい者雇用で、企業がよく活用する助成金には、次のようなものがあります。

  • 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
    ハローワーク等の紹介から、障がい者を雇用する事業主に助成されます。
  • トライアル雇用助成金
    障がい者を試行的に雇用した場合や、短時間であれば働ける精神障がい者・発達障がい者を試行雇用する場合に助成されます。
  • 障害者雇用安定助成金(障害者職場適応援助コース)
    職場適応援助者(ジョブコーチ)による援助を必要とする障がい者のために、支援計画に基づき職場適応援助者による支援を実施する事業主に助成されます。
  • 障害者雇用納付金制度に基づく助成金
    事業主が障がい者を雇用するために、職場の作業施設や福祉施設等の設置・整備、適切な雇用管理をするのに必要な介助等の措置、通勤を容易にするための措置等などに助成されます。
  • 人材開発支援助成金
    障がい者の職業能力の開発・向上のために、対象障がい者に対して職業能力開発訓練事業を行うための施設や設備等の設置や整備や、職業能力開発訓練事業に対して助成されます。

企業が障がい者雇用を行わないリスク・デメリット

企業は、障がい者を雇用することが求められていますが、それが達成できないと障害者雇用納付金の支払いや行政指導、企業名公表が行われます。

(1) 雇用義務の未達成 ⇒納付金の発生

障害者雇用納付金制度では、障がい者を雇用することは「事業主が共同して果たしていくべき責任である」という社会連帯責任の理念に基づいています。そのため事業主間の障がい者雇用にともなう経済的負担の調整を図るため、障がい者を雇用する事業主に対しては助成することにより、障がい者の雇用の促進と職業の安定をはかっています。

法定障害者雇用率を達成していない場合、法定人数に不足している障がい者1人あたり月5万円が徴収されます。つまり障がい者雇用が1人不足するごとに年間60万円の雇用納付金を納めることになります。障がい者雇用の義務は、法定雇用率2.5%の場合、常用雇用40.0人以上の企業に課されますが、雇用納付金の徴収は、100人以上の企業が対象となっています。

(2) 行政指導 ⇒対応コスト発生やブランドイメージ毀損

障がい者雇用の対象となっている企業には、毎年6月1日現在の障害者の雇用に関する状況(障害者雇用状況報告)をハローワークに報告する義務があります(障害者雇用促進法43条第7項)。

しかし、法定雇用率が大幅に未達の場合には、その企業を管轄するハローワークから障害者の雇入れ計画書の作成命令が行われたりします。それでも計画どおりに進まない場合には、行政指導や社名公表になることもあります。

行政指導の流れは、次のとおりです。

雇用状況報告(毎年6月1日の状況)  
 →雇入れ計画作成命令(2年計画) →雇入れ計画の適正実施勧告  
  →特別指導 →企業名の公表

出典:厚生労働省「障害者雇用率達成指導の流れ」

(3) 企業名の公表 ⇒ブランドイメージや取引先への悪影響

行政指導が行われても、障がい者雇用の改善がみられない場合には、企業名が公表されます。

企業名が公表されるのは、年度によって異なります。最近は、平成28年度に2社、平成26年度に8社の社名公表があり、そのあとしばらく社名公表はされていませんでしたが、令和2年に1社、令和3年には6社が社名公表されています。

出典:厚生労働省「障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表について」

法制度・最新情報の資料

障がいのある方が障がい者雇用で就職するメリット

障がいのある方が障がい者枠で就職することは、雇用する企業から配慮を示してもらいやすくなります。

例えば、勤務形態、業務内容について、何らかの難しさがあれば、勤務時間を調整したり、休憩を取りやすくする、障がい特性に応じたコミュニケーションツールの活用や、業務手順を変更するなどの配慮を示してもらえるかもしれません。また、就労支援機関が関わっているのであれば、定着支援や、直接企業に伝えにくいことがあるときに、本人と企業との間に入って調整してもらうこともできます。

就職後に何か課題がでてきた場合でも、ジョブコーチと呼ばれる障がい者を支援する専門家にサポートしてもらうことができます。ジョブコーチは、障がい者だけでなく、企業側に対してもサポートします。例えば、障がい者とどのように関わったらよいのか、配慮を示すことができるのかなどのアドバイスをおこなったりします。障がい者枠で就職すると、このようなサポートを受けやすくなるので、結果的に、職場に定着しやすくなります。

一方、職場の人が、障がい者を雇用していることを知らない場合には、職場でのコミュニケーションや業務の進め方を配慮することはほとんどありませんし、何か支障があったときにも周りの社員から理解を得にくく、人間関係が悪化してしまうこともあります。

障がいのある方が障がい者雇用で就職するデメリット

障がい者雇用は一般雇用に比べ、求人の数が少ない傾向にあります。志望する企業が障がい者雇用の求人を出していないタイミングだったり、そもそも企業規模が小さくて障がい者雇用を実施していなかったりする場合もあります。

また、企業は障がい者の特性に合わせて業務の選定を行います。そのため業務内容が限定的になってしまう傾向があり、限定的であることで給与があまり上がらない場合もあります。人によってはやりがいを感じにくい可能性もあるでしょう。

障がい者雇用枠でチャレンジしたいと考えている方は、面接の際などに、企業側と雇用条件や業務範囲のすり合わせをすることをおすすめします。

最新の障がい者雇用状況

厚生労働省が発表した令和5年6月1日時点での障がい者雇用状況の集計結果を見てみましょう。その主なポイントは以下の通りです。

  • 雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高を更新
  • 法定雇用率(2.3%)達成企業の割合は50.1%(対前年比1.8ポイント上昇)
  • 雇用障害者数は64万2,178.0人(対前年比4.6%上昇)
  • 実雇用率2.33%(対前年比0.08ポイント上昇)

障害者雇用促進法では、43.5人以上規模の企業には法定雇用率2.3%に相当する数の障がい者を雇用することが求められています。集計によれば、上記に該当する企業に雇用されている障がい者の数は64万2,178.0人。これは20年連続で過去最高の人数となっています。法定雇用率の段階的な引き上げとともに、企業の障がい者雇用は着実に広がりを見せている状況にあることがわかります。

また、雇用されている障がい者のうち、身体障がい者は36万157.5人(対前年比0.7%増)、知的障がい者は15万1,722.5人(同3.6%増)、精神障がい者は13万298.0人(同18.7%増)という結果となりました。精神障がい者の伸び率が大きく、知的障がい者も伸びているのに対し、身体障がい者の雇用者数の伸び率は低いことがわかります。
(※重度身体障がい者、重度知的障がい者は1人を2人としてカウント。
  短時間身体障がい者、知的障がい者は1人を0.5人、重度の場合は1人としてカウント。
  短時間精神障がい者は1人としてカウント)

企業規模別にみると、すべての企業規模において雇用障害者数、法定雇用率の達成企業の数は増加。1,000人以上の規模の企業においては半数を超える67.5%の企業が法定雇用率を達成しています。

一方、法定雇用率未達成企業は5万3,963社(企業数全体の49.9%)。そのうち58.6%の企業が障がい者を1人も雇用していないという結果になりました。
(参考:厚生労働省 令和5年 障害者雇用状況の集計結果

障がい者雇用を促進するためのポイント

今まで障がい者を雇用したことのない企業や雇用率が低いままの企業が、急に障がい者雇用率を上げようとしても、うまくいかない可能性があります。では、企業が障がい者雇用を促進するためにはどのようなことに取り組めばよいのでしょうか。そのポイントを3つご紹介します。

障がい者雇用に対する社内の理解を深める

障がい者と関わったことがなかったり、障がい者を通じたトラブルを経験したりしている人は、障がい者雇用に対してあまり良いイメージを持っていない場合があります。

すべての社員に障がい者雇用について理解してもらうことは、すぐに達成できることではないでしょう。しかし、障がい者雇用に対する社内の理解を根気強く求めることが必要です。社内研修を通し、障がい者を雇用することの職場環境へのメリット、業務へのコミット例などを学び、障がい者雇用に対するイメージを良くする取り組みを行いましょう。

同時に、障がいにはさまざまな種類があり、同じ診断名が付いていても特性は人それぞれであること、雇用に際しては周りの人が環境や仕事内容を柔軟に調整する必要があることを伝えます。

その上で、障がい者も会社の戦力の1人として活躍していけるということを会社全体の認識として共有することを目指します。

管理職だけでなく全社員が障がい者雇用についての理解を深め、偏見のない正しい知識を得れば、雇用が促進されるだけでなく、雇用後の業務もスムーズに進みやすくなります。

現場での情報共有・サポート体制を強化する

障がい者が実際に働く現場では、その人がどのような特性をもっているのか、どこにサポートが必要なのかを共有し、その人に合ったサポート体制を整える必要があります。

実際に障がい者が雇用されたときにはもちろんですが、まだ障がい者がいない職場であっても、お互いの情報を共有し、それぞれにどのようなサポートがあると働きやすいのか、フォローしあえるところはどこかを意識して業務にあたることで、実際に障がい者と働く際にもスムーズに適応することができます。

障がい者雇用支援サービスの活用を考える

「障がい者雇用の経験がなく、どう始めればいいのかわからない」「障がい者を雇用したことがあるが長く続かない」など、障がい者雇用について課題をもっている企業の方には、障がい者雇用を総合的に支援するサービスの活用がおすすめです。サービスを活用することで、障がい者雇用における課題を解決できるだけでなく、現場、管理職の負担軽減にもつながります。

どの支援サービスを導入すれば良いかお悩みの際は、ぜひエスプールプラスをご活用ください。エスプールプラスは、求人募集から雇用継続まで、企業の障がい者雇用を手厚くサポートしています。14年の実績のもと、初めての雇用でも安心してご利用いただけます。

また、地域の福祉機関や行政機関と連携して働きたい障がい者を募り、説明会・体験会を随時行っています。特性、得意・不得意分野を考慮した上で企業へご紹介しますので、入社後のミスマッチを防ぐことができます。

こうしたサービスを活用すれば、障がい者が生き生きと働けるだけでなく、障がい者雇用に対する社内の理解も次第に深まっていくでしょう。障がい者雇用についてお悩みをお持ちの際は、お気軽にエスプールプラスへご相談ください。

まとめ

障がい者雇用のメリット・デメリットについて考えてきました。

障がい者雇用をすることのメリットは、法律で求められている障害者雇用率を達成できることですが、その他にも業務を見直すきっかけをつくることや、社会的責任を果たすこと、多様性のある会社づくりができること、助成金を受け取れることなどがあります。

一方、障害者雇用率が達成できないと、障害者雇用納付金を支払う必要がありますし、大幅な未達成がある場合には、行政指導が入り、障害者雇用雇入計画書を出すことになります。また、それでも達成できないときには、企業名が公表されることになります。

200社アンケート資料