障がい者雇用の歴史の概要

多くの企業で広く受け入れられるようになった障がい者雇用ですが、日本の障がい者雇用は、身体障がい者の雇用から始まっています。戦争で負傷した傷痍軍人の就職を進めるためにスタートした経緯があり、1960年に障害者法定雇用率が企業への努力義務として導入され、1976年に義務化されています。

そして、身体障がいからはじまった障がい者雇用は、知的障がい、精神障がいの順番で進められ、義務化されていきました。精神障がい者が、障がい者雇用としてカウントされるようになったのは2006年から、雇用が義務化されたのは2018年です。

障がい者雇用の歴史が進展するときには、障がいに関わる法律や障がい福祉の施策が大きく変化してきています。ここでは、障がい者雇用の歴史について見ていきたいと思います。

障がい者雇用施策の経緯

障がい者雇用の施策については、はじめから今の形があったわけではありません。障がいに対する社会的な運動や理解が広がり、法律が整備され、今の形が作られてきました。現在の障がい者雇用施策を作ってきた経緯について見ていきましょう。

戦前・戦中時代

日本の国家による本格的な障がい者施策は戦後から始まっています。そのため、戦前には、障がい者は支援するための対象と見なされたり、精神障がい者に対しては治安や取り締まりの対象と見られていました。

個別の障がい者施策による保護もありましたが、それは国の制度としてのものではなく、民間の篤志家、宗教家、社会事業者などによって行われるものでした。この時代の障がい者は、家族による支援が中心となっていました。

戦後直後

戦後、日本では、GHQの指示の下で、日本国憲法が制定され、同時に社会福祉に対する施策も打ち出されてきました。

下記の福祉三法が制定されたのも同時期です。

  • 生活保護法(1946)
  • 児童福祉法(1947)
  • 身体障害者福祉法(1949)

また、民間が福祉事業を行うための社会福祉事業法(1951)も制定されました。福祉サービスは、行政からの措置として提供されるものであり、実務的なことは、国から委任された公共団体の長から民間の社会福祉法人に委託する運営体制が整えられました。

学校教育における障がい児に対しては、学校教育法(1947)が制定されました。これによって、それまで教育の対象とされていなかった障がい児に対しても、特殊教育という教育の機会が与えられるようになりました。しかし、このときの対象は、盲ろうの子どもが中心で、知的に障がいのある子どもたちが学べる機会を得られるようになったのは、1979年からでした。

1960年代

身体障害者雇用促進法(1960)が制定され、一般就労への促進を図られましたが、障がい別による対応の差は大きく違っていました。

知的障がいを対象とした精神薄弱者福祉法(1960)が制定され、障がい種別ごとに施策が行われ、知的障がい者等の入所施設の増加が増加しています。

また、精神障がいについて見ると、精神衛生法(1950)が改定(1965)されました。

1970年代

心身障害者対策基本法(1970)が制定されました。法律の目的は、発生の予防や施設収容等の保護で、精神障がい者は除外されています。

身体障害者雇用促進法(1976)は、身体障がい者の雇用を義務化しました。これまで努力義務であった法定雇用率制度が義務化し、納付金制度が導入され、障害者雇用促進法の基礎が作られました。

教育面で見ると、盲・ろう学校では1948年から義務制が実施されていましたが、知的障がいを対象とする養護学校については、1973年に義務制とする政令が公布され、ようやく1979年に実施となりました。これにより、就学猶予・免除の扱いとされてきた障がい児も含めて、全員の子どもたちの就学体制が整備されたことになります。

1980年代~1990年代前半

1980年代は、障がい者施策で世界的に動きが活発化してきます。国際障害者年(1981)、障害者に関する世界行動計画(1982)、国連・障害者の十年(1983~1992)などの運動が起こりました。

また、自治体で進められていたまちづくり条例が普及するとともに、高齢者や身体障がい者等が利用しやすいことを考えて作られたハートビル法(1994)なども制定されています。

さらに、身体障害者雇用促進法が障害者雇用促進法(1987)に改定され、雇用される障がい者の対象に、知的障がい者も含まれました。

1990年代後半~現在

1990年代後半からは、地域生活の基盤整備の流れを受けるようになり、建物の利用や交通移動の面でのバリアフリーやユニバーサルデザインへの関心が高くなってきました。高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律、交通バリアフリー法(2000年)が制定されるようになりました。また、ハートビル法と交通バリアフリー法を統合して、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(2006)も制定されています。

しかし、経済の成長が停滞してからは、国の財政的な問題もあり、社会福祉の基礎構造の改革の論議が繰り返し行われてきました。このような中で、2003年に社会福祉は支援費制度に切り替えられ、続いて2005年に障害者自立支援法が制定され2006年から施行されています。それまでは、国からの全面的な保護があった制度も、サービスに応じた負担が求められるとともに、働ける障がい者が就労できるようになるための施策も手厚く行われるようになりました。

教育の中でも変化が見られています。2006年に学校教育法が改正され、特別支援教育の取り組みがはじまりました。これによって、盲学校、ろう学校、養護学校が特別支援学校に一本化され、障がいに応じた教育が受けられるための体制づくりがおこなわれています。

近年の障がい者雇用の変化

近年は、障がい者雇用の変化にともない、障害者雇用促進法の改正が度々行われています。

障害者雇用促進法の改正

2018年4月からは、精神障がい者の雇用が義務化されました。また、最近の障害者雇用促進法改正は、2020年に実施されました。

障がい者雇用に関わるポイントは、以下の2つです。

  • 障がい者雇用に関する優良な中小事業主認定制度の創設
    中小企業の障がい者雇用が進んでいない状況を打破するため、障がい者雇用に関する優良な中小事業主認定制度の創設が盛り込まれています。
    この制度は、「もにす制度」と呼ばれており、中小企業の障がい者雇用の進展に対する社会的な関心を呼び起こすことや、中小企業の経営者に対して障がい者雇用の理解を促進すること、障がい者雇用を進める企業が社会的なメリットを受けることが意識されています。
  • 短時間労働者の特例給付金制度
    障がい者雇用のカウントをおこなうためには、障がい者が週20時間以上働くことが求められます。一方で、精神障がい者の雇用が増えていますが、障がい特性などから20時間未満の短時間労働で働く人も増えています。しかし、これまで週20時間未満の障がい者の雇用は障がい者雇用のカウントもできず、助成金の支給もありませんでした。
    改正障害者雇用促進法の中では、短時間であれば就労可能な障がい者等の雇用機会を増やしすため、週20時間未満の雇用障がい者数に応じて、納付金を財源とした特例給付金が支給することにしました。

障がい者の労働力に対する意識

障がい者雇用の変化が見られる中で、障がい者雇用で働く人の層も変化しつつあります。特に、最近では、精神障がい者の求職や採用が増えてきています。

精神障がいの雇用は、今までも見てきたように、障がい者雇用の中では新しいことや、精神障がいの方の職場定着は、難しいとされ、企業には敬遠されがちでした。しかし、精神障がいの雇用が進んでいること、また、企業における雇用ノウハウも蓄積されつつあります。

また、医療の進歩などにより、就労を希望する方の中には、障がいが重度化している人材も増えつつあります。障がい者雇用の求職者の変化にあわせながら、企業では多様な人材が働けるような体制を整えることが望まれています。

障がい者雇用の今後の流れ

毎年、厚生労働省から発表される「障害者雇用状況の集計結果」を見ると、障がい者雇用数、雇用率ともに伸びてきています。精神障がい者の雇用は増加傾向にあり、今後も障がい者雇用の数は増加が見込まれるでしょう。

企業では、今後も障害者雇用率が上がることを想定しながら、障がい者雇用を進めていくことが求められていると言えるでしょう。