更新日:2025年2月 3日
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障がい者雇用の歴史の概要

多くの企業で広く受け入れられるようになった障がい者雇用ですが、日本の障がい者雇用は、身体障がい者の雇用から始まっています。戦争で負傷した傷痍軍人の就職を進めるためにスタートした経緯があり、1960年に障害者法定雇用率が企業への努力義務として導入され、1976年に義務化されています。

そして、身体障がいからはじまった障がい者雇用は、知的障がい、精神障がいの順番で進められ、義務化されていきました。精神障がい者が、障がい者雇用としてカウントされるようになったのは2006年から、雇用が義務化されたのは2018年です。

障がい者雇用の歴史が進展するときには、障がいに関わる法律や障がい福祉の施策が大きく変化してきています。ここでは、障がい者雇用の歴史について見ていきたいと思います。

障がい者雇用施策の経緯

障がい者雇用の施策については、はじめから今の形があったわけではありません。障がいに対する社会的な運動や理解が広がり、法律が整備され、今の形が作られてきました。現在の障がい者雇用施策を作ってきた経緯について見ていきましょう。

戦前・戦中時代

日本の国家による本格的な障がい者施策は戦後から始まっています。そのため、戦前には、障がい者は支援するための対象と見なされたり、精神障がい者に対しては治安や取り締まりの対象と見られていました。

個別の障がい者施策による保護もありましたが、それは国の制度としてのものではなく、民間の篤志家、宗教家、社会事業者などによって行われるものでした。この時代の障がい者は、家族による支援が中心となっていました。

戦後直後

戦後、日本では、GHQの指示の下で、日本国憲法が制定され、同時に社会福祉に対する施策も打ち出されてきました。

下記の福祉三法が制定されたのも同時期です。

  • 生活保護法(1946)
  • 児童福祉法(1947)
  • 身体障害者福祉法(1949)

また、民間が福祉事業を行うための社会福祉事業法(1951)も制定されました。福祉サービスは、行政からの措置として提供されるものであり、実務的なことは、国から委任された公共団体の長から民間の社会福祉法人に委託する運営体制が整えられました。

学校教育における障がい児に対しては、学校教育法(1947)が制定されました。これによって、それまで教育の対象とされていなかった障がい児に対しても、特殊教育という教育の機会が与えられるようになりました。しかし、このときの対象は、盲ろうの子どもが中心で、知的に障がいのある子どもたちが学べる機会を得られるようになったのは、1979年からでした。

1960年代

身体障害者雇用促進法(1960)が制定され、一般就労への促進を図られましたが、障がい別による対応の差は大きく違っていました。

知的障がいを対象とした精神薄弱者福祉法(1960)が制定され、障がい種別ごとに施策が行われ、知的障がい者等の入所施設の増加が増加しています。

また、精神障がいについて見ると、精神衛生法(1950)が改定(1965)されました。

1970年代

心身障害者対策基本法(1970)が制定されました。法律の目的は、発生の予防や施設収容等の保護で、精神障がい者は除外されています。

身体障害者雇用促進法(1976)は、身体障がい者の雇用を義務化しました。これまで努力義務であった法定雇用率制度が義務化し、納付金制度が導入され、障害者雇用促進法の基礎が作られました。

教育面で見ると、盲・ろう学校では1948年から義務制が実施されていましたが、知的障がいを対象とする養護学校については、1973年に義務制とする政令が公布され、ようやく1979年に実施となりました。これにより、就学猶予・免除の扱いとされてきた障がい児も含めて、全員の子どもたちの就学体制が整備されたことになります。

1980年代~1990年代前半

1980年代は、障がい者施策で世界的に動きが活発化してきます。国際障害者年(1981)、障害者に関する世界行動計画(1982)、国連・障害者の十年(1983~1992)などの運動が起こりました。

また、自治体で進められていたまちづくり条例が普及するとともに、高齢者や身体障がい者等が利用しやすいことを考えて作られたハートビル法(1994)なども制定されています。

さらに、身体障害者雇用促進法が障害者雇用促進法(1987)に改定され、雇用される障がい者の対象に、知的障がい者も含まれました。

1990年代後半~2010年ごろ

1990年代後半からは、地域生活の基盤整備の流れを受けるようになり、建物の利用や交通移動の面でのバリアフリーやユニバーサルデザインへの関心が高くなってきました。高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律、交通バリアフリー法(2000年)が制定されるようになりました。また、ハートビル法と交通バリアフリー法を統合して、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(2006)も制定されています。

しかし、経済の成長が停滞してからは、国の財政的な問題もあり、社会福祉の基礎構造の改革の論議が繰り返し行われてきました。このような中で、2003年に社会福祉は支援費制度に切り替えられ、続いて2005年に障害者自立支援法が制定され2006年から施行されています。それまでは、国からの全面的な保護があった制度も、サービスに応じた負担が求められるとともに、働ける障がい者が就労できるようになるための施策も手厚く行われるようになりました。

教育の中でも変化が見られています。2006年に学校教育法が改正され、特別支援教育の取り組みがはじまりました。これによって、盲学校、ろう学校、養護学校が特別支援学校に一本化され、障がいに応じた教育が受けられるための体制づくりがおこなわれています。

近年の障がい者雇用促進法の変化

障害者雇用促進法とは、1987年に身体障害者雇用促進法から改定されたものです。改名後、法の対象となる障がい者区分が拡大され、1998年には知的障がい者が、2018年には精神障がい者が、この法の適用対象となりました。近年も障害者雇用促進法の改正が度々行われています。

障害者雇用促進法の改正

障害者雇用促進法は改正にともない、事業主が障がい者を雇用する際の負担を軽減する各種助成金を設置するなど、障がい者の雇用安定化を図る取り組みが進められています。今後も社会状況の変化と共に、障害者雇用促進法の改正は続くことが予想されます。

2025年1月時点では、以下3つが施行・予定されています。

障害者雇用率の引き上げ

障害者雇用促進法では、障害者雇用率について少なくとも5年ごとに見直しを行うことが以前から定められています。そのため、2018年に2.3%への引き上げが行われてから5年が経った2023年のタイミングで、法定雇用率の再設定が行われました。

検討の結果、社会情勢などを踏まえ、2023年からの一般企業の障害者雇用率は2.7%と設定されました。ただし、企業が計画的に対応できるよう、2.7%にむけて段階的に引き上げられることとなりました。

  • 2023年4月~ 2.3%に据え置き
  • 2024年4月~ 2.5%に引き上げ
  • 2026年4月~ 2.7%に引き上げ
  • 2023年から5年が経つ2028年以降も、障害者雇用率の見直しが予想されます。

除外率の引き下げ

除外率制度とは、障がい者の就業が一般的に困難と認められる業種について適用される制度です。雇用労働者数を計算する際に、除外率に相当する労働者数が控除され、障がい者の雇用義務が軽減されます。

ただし、ノーマライゼーションの考え方に基づき、この除外率制度は2002の障害者雇用促進法の改正で廃止が決定しました。

現在は完全廃止へむけた経過措置として段階的縮小が行われている状況です。現在に至るまで、段階的に2度の引き下げが行われています。

最初の引き下げは2004年4月で、それまで除外率設定の対象であった業種のうち、タイヤ・チューブ製造業などを含む6業種が対象外となりました。

また、2007年12月の労働政策審議会では、除外率制度の廃止を目指すために除外率のさらなる引き下げが提言され、2010年7月に引き下げを実施。これにより有機化学工業製品製造業を含む5業種が除外率設定対象外となっています。

その後、2022年5月の労働政策審議会において、10年以上行われてきなかった除外率の引き下げを問題視する意見が取り上げられます。そのため、2023年1月の労働政策審議会にて、2025年4月に一律10ポイントの引き下げの実施が発表されました。

障害者雇用調整金・報奨金の見直しと納付金・助成金の新設・拡充

労働者数が100人を超える企業に対しては、法定雇用率を超えて雇用している障がい者の人数に対して「障害者雇用調整金」が支払われます。また、労働者数が100人以下の企業において各月の雇用障がい者数の年度間合計数が一定数を超えている場合、超えている人数に対して「報奨金」が支払われます。

2023年の改定では、調整金、報奨金のどちらにおいても、支給人数が基準よりも多い企業に対して、超過している人数1人あたりの支給額を減額調整しています。

2024年4月1日からは、法定雇用率を超えて雇用している人数が10人を超える場合、10人よりも多い分の本来1人につき月額2万9,000円の調整金に対して6,000円の減額調整が適用され、1人あたり月額2万3,000円となります。また、本来1人につき月額2万1,000円報奨金については、支給対象人数が35人を超える場合、超えている分に対して5,000円の減額調整が適用され、1人あたり月額1万6,000円となります。

一方、調整金・報奨金を減額調整したことによって生まれた財源は助成金の充実に充てられ、事業主支援の強化を目指しています。

参考リンク:障がい者雇用の助成金・補助金とは?種類や条件について解説

障がい者雇用市場の変化

厚生労働省が発表した「令和6年障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業に雇用されている障がい者の数は67万7,461.5人で前年より5.5%増加し、過去最高を記録しています。

障がい者の実雇用率は2.41%、法定雇用達成企業の割合は46.0%となっています。

法改正の影響もあり、企業の障がい者雇用の取組が進んできています。

精神障がい者の雇用増加

障がい者雇用の変化が見られる中で、障がい者雇用で働く人の層も変化しつつあります。特に、最近では、精神障がい者の求職や採用が増えてきています。

精神障がい者は基本は後天性であり、疾患である。応募は多くありますが、面接などでは分かりにくい場合もあります。相互理解のためにも医師や、支援機関・会社とも連携を行うことが望まれます。

精神障がい者の雇用は、今までも見てきたように、障がい者雇用の適用対象の中では新しいことや、精神障がいの方の職場定着は難しいとされ、身体障がい、知的障がいに比べて雇用が進んでいませんでした。しかし近年は精神障がい者数自体の増加もあり、精神障がい者の雇用が進み、企業における雇用ノウハウも蓄積されつつあります。

重度障がい者の雇用増加

働き方の多様化が進む影響もあり、就労を希望する重度障がい者の雇用も増加しています。求職者の変化にあわせながら、企業では多様な人材が働ける体制を整えることが望まれています。

重度障がい者にも働きやすい環境づくりには、勤務形態、業務内容の工夫が必要です。例えば、勤務時間を調整したり、障がい特性に応じたコミュニケーションツールの活用や、業務手順を変更するなどの配慮があげられます。

それによって、業務の創出が難しい企業でも障がい者雇用を進められる仕組みとして、農園を活用した障がい者雇用の支援サービスが近年、注目を集めています。

障がい者雇用の今後の動向

毎年、厚生労働省から発表される「障害者雇用状況の集計結果」を見ると、障がい者雇用数、雇用率ともに伸びてきています。知的・精神障がい者の雇用は増加傾向にあり、今後も障がい者雇用の数は増加が見込まれるでしょう。

企業では、今後も障害者雇用率が上がることを想定しながら、障がい者雇用、そして障がい者が活躍できる環境の整備を進めていくことが求められていると言えるでしょう。

除外率制度の資料