障害者手帳をもった障がい者に限定した雇用枠である障がい者雇用枠。事業主は助成金などの支援を受けやすく、働く障がい者も障がいをオープンにしつつ、特性や能力を活かした働き方がしやすい傾向にあります。
ここでは、障がい者雇用枠での採用のメリットや一般雇用枠との違いを解説します。
障がい者雇用枠とは、事業主が障がい者に限定して採用する雇用枠です。障がい特性を持っている方でも働きやすい雇用形態であり、障がいに対する配慮を受けながら仕事を続けやすい傾向にあります。ただし、障がい者雇用枠にエントリーできる条件など、一般雇用枠との違いもあるため、注意が必要です。
障がい者雇用枠の求人にエントリーできるのは、障がい者だけです。この場合の障がい者とは、障がい者手帳を持っている方のことを指します。
障がい者手帳には、主に身体障がいのある方が対象の身体障害者手帳、主に知的障がいがある方が対象の療育手帳(地域によっては愛の手帳、緑の手帳など)、主に精神障がいがある方が対象の精神障害者保健福祉手帳の3種類があります。どの手帳であっても、それを保持していることで障がい者雇用の求人にエントリーできます。
参照:厚生労働省|事業主の方へ
障がい者雇用枠と一般雇用枠の一番の違いは、障がいがあることを前提としているかどうかです。
障がい者雇用は障がいがあることを前提とした雇用で、事業主側もそのための配慮や対応をしながら採用活動をしています。障がい特性があっても働きやすい職務内容に工夫されており、入社後も継続的なフォローを受けやすい環境にあります。
障がい者手帳を持っている方でも一般雇用枠の求人にエントリーすることは可能です。ただし、障がい特性に対する配慮をすることを前提とした雇用ではないため、特性によっては難しい業務内容や、働きにくい職場環境である可能性もあります。事業主に合理的配慮を求めることはできますが、障がい者雇用枠で就労の方が、さまざまな配慮を受けやすい傾向があります。
給与面をみると、障がい者雇用は一般雇用に比べて給与が低い傾向にあります。これは、障がい特性に合わせた配慮を提供した結果、労働時間が短縮されたり、業務内容が限定的となることがあるためです。
厚生労働省が発表した「令和5年度障害者雇用実態調査」から障がい者の平均月額賃金をみると、身体障がい者は23万5,000円、知的障がい者は13万7,000円、精神障がい者は14万9,000円、発達障がい者は12万8,000円となっています。一方、同じく厚生労働省が発表した「令和5年度賃金構造基本統計調査」によると、同年度の一般労働者の平均賃金は31万8,300円です。
事業主の義務としての障がい者雇用を定めた法律として、障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)があります。国はこの法律の目的について、「障害者の職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もつて障害者の職業の安定を図ること」と定めています。そのために、事業主に対してさまざまな義務を定めると同時に、助成金を用意しています。
障害者雇用促進法によって定められている事業主の義務の1つが、法定雇用率制度です。これは、常用労働者数のうち事業主が雇用すべき障がい者雇用人数の割合を設定し、事業主はこれを達成する義務を持つという制度です。
令和7年4月現在の民間企業における法定雇用率は2.5%(国・地方公共団体は2.8%、都道府県等の教育委員会は2.7%)で、常用労働者数が40.0人以上のすべての事業主が障がい者雇用義務の対象となっています。法定雇用率は段階的に引き上げられ、令和8年7月には2.7%(国・地方公共団体は3.0%、都道府県等の教育委員会は2.9%)になることが決まっています。事業主は、毎年6月1日時点での障がい者雇用の状況を報告することが障害者雇用促進法によって定められており、未達成の事業主には行政指導が入る場合があります。
これらの背景により、障がい者雇用に対する事業主の意識は時代とともに高まっています。実際、障がい者雇用枠の求人数は令和2年度の19万4,741人から右肩上がりで、令和5年度には26万3,217人に達しており、障がい者雇用に取り組む事業主が増えていることがわかります。
障がい者雇用は事業主に課せられた社会的義務の一つです。「義務だから」と気負って取り組んでいる担当者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、障がい者雇用を積極的に取り組むことは、法定雇用率の達成だけでなく、事業主にとってさまざまなメリットをもたらします。
ここでは、事業主が障がい者雇用枠を設けるメリットのうち代表的なものを3つご紹介します。
近年、ダイバーシティに関する関心度の高まりが続いています。障がい者雇用を推進して法定雇用率を達成し、障がいのある方が活躍する会社にしていくことは、企業の社会的信頼や評価の向上につながります。
障がい者枠の雇用を実施していると、さまざまな助成金や税制優遇措置が受けられます。
助成金には以下のようなものがあります。
助成金の詳しい条件や支給額、障がい者雇用にかかる他の助成金などについて知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
>>障がい者雇用の助成金・補助金とは?種類や条件について解説
また、障がい者を雇用している事業所向けの税制優遇措置には以下の2つが挙げられます。
社内に障がい者がいるということは、さまざまな立場の方が一緒にはたらく多様性のある会社の在り方を促進することに繋がります。多様性が促進されることで、社員同士が互いを理解し合う社風が育つことが期待できます。
こういった職場環境が育つことは、あらゆる立場の方を採用できるようになり、人材確保をしやすくなるといったメリットも生み出します。
障がい者雇用枠で働くことは、障がいのある方にもメリットの大きい働き方です。ここでは、障がい者の方が障がい者雇用枠で働くメリットを大きく2つご紹介します。
障がい者雇用枠は、従業員が障がい者であることを前提とした働き方です。事業主も障がい者を受け入れる準備を整えたうえで雇用しています。求職者は障がいをオープンにし、自分自身にどういった特性があり、得意なこと、合理的配慮が必要な点を明確にしたうえで採用されます。
そのため、障がい特性上難しい業務を充てられることは少なく、合理的配慮を受けながら得意を活かして職務にあたることが可能です。
障がい特性を持つ方にとって、その理解を得て必要な配慮を受けることは、長く仕事を続けていくうえで必要不可欠なことです。特性をうまく生かしながら働き続けるためにも、障がい者雇用枠で採用されることはメリットが大きいといえるでしょう。
障がいを持ちつつ一般雇用枠での採用を目指すという選択肢もありますが、一般採用の場合、採用時に障がいの考慮は得にくくなります。つまり、健常者と同じ立場で勝負する必要があり、障がい特性がハンデになってしまう可能性もあるのです。
障がい者雇用枠の場合、エントリーできるのが障がい者に限られていて、企業は一定数の障がい者を雇用する義務もあります。求人によっては倍率が低いものもあるため、一般雇用枠を狙うよりも就職しやすくなっています。
最後に、障がい者雇用枠での採用活動の大きな流れをご紹介します。
障がい者を雇用するにあたって、社内で障がいへの理解を深めることが不可欠です。研修などを通して、どのような障がい特性が想定されるのかや、合理的配慮の例などの理解を深めましょう。可能であれば、実際に障がい者が働いている職場や就労移行支援事業所などに見学にいけるとよいでしょう。
社内の理解が深まったら、実際に障がい者を雇入れる準備をします。まずは配置部署を決めましょう。職場環境や職務内容などを踏まえて、障がい特性があっても働きやすい部署を選出します。そのなかで今ある業務を洗い出し、障がい者に割り当てる業務の切り出しをおこないます。備品の整理や業務のマニュアル化なども併せておこないましょう。
割り当てる業務が決まったら、労働条件を決めます。勤務時間や給与など、業務に見合った形で決定しましょう。
労働条件まで決定したら、いよいよ採用活動です。一般求人と同様に求人票を作成して求人募集をかけます。募集先としては、ハローワークのほかにも、障がい者専用の求人サイトなどもあるので、積極的に活用しましょう。就労移行支援事業所や支援学校と連携する方法も効果的です。エントリーがきたら社内規定に従って書類選考や面接を経て採用します。
障がい者雇用は採用して終わりではありません。その先の職場定着までのサポートが必要です。障がい特性は人それぞれです。特性を考慮して割り当てた業務が本人にとっては難しかったり、逆に簡単すぎてやりがいが得られないという可能性もあります。能力と職務のギャップが生じないよう、定期的に面談を実施しましょう。そのなかで、どのような配慮が必要なのかのヒアリングもおこない、本人の能力が発揮できる環境を整え、長期的に働けるようサポートします。
障がい者雇用枠は、障がい者に特化した雇用形態です。事業主は助成金や公的支援を活用しながら障がい者を雇用できます。障がい者を積極的に雇用することは、法定雇用率を達成することのみならず、社会的信頼にもつながります。
障がい者にとっても、障がい者雇用枠は活用しやすい制度です。一般雇用に比べて給与は低い傾向にありますが、周囲の理解や配慮を受けやすく、長く働ける可能性も高まります。
障がい者雇用枠という制度をうまく使うことは障がいの有無に関わらず、それぞれの能力を最大限に発揮できる職場環境を整えることに繋がるのです。