更新日:2024年10月 7日

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企業は障がい者雇用をする必要がある

従業員が一定数以上の規模の事業主は、法定雇用率以上の割合の障がい者を雇用する義務があります。この障がい者雇用の義務を定めているのは、障害者雇用促進法という法律です。

ここでは、障害者雇用促進法とはどのような法律なのか、また、障害者雇用促進法に定められている法定雇用率についてみていきます。

障害者雇用促進法とは?

障害者雇用促進法は、障がい者の職業の安定を図ることを目的としている法律です。それぞれの希望や能力に応じて、各地域で自立した生活を送ることができることを目指したものです。

このような生活を実現するために、企業に対して障がい者の雇用義務等が設けられたり、障がい者に対して働くことを目指した職業リハビリテーションを充実したりなど、障がい者が働くことができるようにするための具体的な方策が定められています。

障害者雇用促進法については、「障害者雇用促進法とは?企業の義務や法改正についてご紹介します。」の記事で詳しくご紹介しています。

法定雇用率とは?

事業主は、雇用している従業員の一定割合以上の障がい者を雇用する必要があります。この一定割合は、障害者法定雇用率とよばれています。民間企業の雇用率は、令和6年4月から、0.2pt引き上げられ、2.5%となりました(令和5年度までは2.3%)。

参考までに、民間企業以外の法定雇用率は、次のとおりです。

<令和6年4月からの雇用率>

  • 国、地方公共団体、特殊法人等  2.8%
  • 都道府県等の教育委員会  2.7%

この法定雇用率は、障がい者が働くことによって自立・社会参加できるようにすること、そして、能力を発揮して、適性に応じて働くことができる社会を目指すという目的の元に、計算式に基づいて算出されています。

計算式では、分子は、身体障がい、知的障がい、精神障がい者の常用労働者数と失業者数、分母は、常用労働者数と失業者数が入り、これに基づき障害者雇用率が算出されています。

民間企業における障害者雇用率設定基準

出典:厚生労働省「障害者雇用対策について」をもとに株式会社エスプールプラスにて一部抜粋

法定雇用率については、「法定雇用率とは?障害者雇用率制度の現状、今後の動向や計算方法、除外率などを解説」の記事で詳しくご紹介しています。

法定雇用率が未達成の場合どうなる?

企業が雇用すべき障がい者数は、その企業で働く労働者数に対して割合で定められるため、従業員が多い企業ほど雇用すべき障がい者の人数も多くなります。また、法定雇用率の引き上げも相まって、近年では大企業だけでなく中小企業においても障がい者雇用は大きな課題となっています。

障がい者雇用は企業の社会的責任であり、雇用率を達成することは企業の義務でもあります。法定雇用率が未達成の場合にはペナルティが課せられるほか、障がい者雇用に対する取り組みが不十分だと判断されると厳しい行政指導を受けたり、企業名が公表されたりして、企業イメージにマイナスの影響を与える恐れもあります。

法定雇用率未達成の場合に課されるペナルティは以下のとおりです。

障害者雇用納付金を納める

雇用すべき障がい者数が100人を超える企業で法定雇用率が未達成の場合、足りない人数に応じて障害者雇用納付金を納めなければなりません。「障がい者雇用の促進は社会全体の責務」という考えのもと、法定雇用率を達成している企業と未達成の企業の間の経済的負担の調整を図るためです。この納付金を元に、法定雇用率を達成している企業に対して調整金や報奨金が支給される仕組みとなっています。

具体的には、その企業が雇用すべき障がい者数に対して不足している人数1人あたり月額5万円を障害者雇用納付金として納める決まりとなっています。つまり、障がい者雇用が1人不足するごとに年間60万円の雇用納付金を納める必要があるということです。例えば、雇用すべき障がい者数が10人の企業で、実際に雇用している障がい者が8名の場合、5万円×2人で月額10万円、年間で120万円を納めることになります。

なお注意したい点として、障害者雇用納付金を納めた場合でも、雇用数の不足を補ったことはなりません。

参照:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構|障害者雇用納付金制度の概要

雇用納付金については、「障害者雇用納付金制度とは?助成金の種類についても解説」の記事で詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。

行政指導が行われる

法定雇用率未達成の企業のなかでも特に取組が足りないと判断された企業に対しては、管轄するハローワークより「障害者雇入れ計画書作成命令」が発令されます。

計画書の作成を命じられた企業は、速やかに計画書を作成し、それに沿って障がい者雇用を進めなくてはなりません。それに対応しない場合や、計画書を作成しても雇用の推進につながっていない場合、行政指導が行われ、社名が公表される場合もあります。障害者雇用率達成指導の流れについては次の項で解説します。

参照:ハローワーク飯田橋雇用指導部門|障害者の雇用に向けて

ロクイチ報告~行政指導~企業名公表までの流れ

「障害者の雇用の促進等に関する法律」の第43条第7項において、事業主は毎年6月1日の障がい者の雇用状況を報告することが義務付けられています。これを通称「ロクイチ報告」と呼びます。

ハローワークは、このロクイチ報告をもとに、事業主の障がい者雇用の状況を把握します。障がい者雇用にしっかりと取り組んでいれば問題ありませんが、取組が足りないと判断されると指導が入る場合があります。

ロクイチ報告から行政指導、企業名公表までの流れを順に解説します。

障害者雇用状況報告

先に説明したとおり、「障害者の雇用の促進等に関する法律」第43条第7項の定めによって、事業主は年に1回、障がい者雇用の状況を国に報告しなくてはなりません。毎年6月1日時点の身体障がい者、知的障がい者及び精神障がい者の雇用状況を、障害者雇用状況報告書として管轄するハローワークへ同年7月15日までに報告するのです。

この報告をもとに、障がい者雇用率達成指導の元となるデータが作成されます。

これらの各企業の報告が「障害者雇用状況の集計結果」としてまとめられ、全国の雇用率として示されるようになっています。

報告義務のある事業主は、法定雇用障がい者数が1人以上となる事業主、すなわち常時雇用労働者数が40.0人以上の事業主です(令和6年4月から)。

参考:障害者の雇用の促進等に関する法律

雇入れ計画作成命令(2年間)

障がい者雇用の割合が法定雇用率を下回ると、ハローワークから「障害者の雇入れに関する計画」の作成を命じられることがあります。

以下の3点のいずれかに当てはまると、障害者雇入れ計画の作成命令が発出されます(障害者雇用促進法第46条1項)。

●実雇用率が全国平均実雇用率未満であり、かつ不足数が5人以上の場合
●実雇用率に関係なく、不足数10人以上の場合
●雇用義務数が3人から4人の企業であって雇用障がい者数0人の場合

この命令が発出されると、企業は命令発出後の1月1日から2年間の期間の障害者雇入れ計画を作成しなくてはなりません。
作成した計画に沿って、1月1日より障がい者の雇入れを推進していく必要があります。

雇入れ計画の適正実施勧告

ハローワークは、計画1年目の12月の雇用状況をみて雇入れ計画が進んでいるかを確認します。雇入れ計画が実現されず、計画の実施を怠っていると判断された場合には、ハローワークから雇入れ計画の適正な実施を勧告される場合があります(障害者雇用促進法第46条6項)。

特別指導

2年間の計画を実施した後の障がい者雇用の状況が以下の基準に該当する場合、9ヵ月間の特別指導の対象となります。

●実雇用率が最終年の前年の6月1日現在の全国平均実雇用率未満
●不足数が10人以上

特別指導では、ハローワークから対象企業に対し、さまざまな雇用事例の提供や助言、求職情報の提供、面接会への参加推奨など、雇用義務を達成するための指導が行われます。

企業名公表

特別指導をもってしても雇用率が達成できない企業については、障害者雇用促進法第47条に基づき企業名の公表が行われます。企業名公表後も指導は継続され、それでも雇用が進まない場合には企業名の再公表となります。

企業名公表によるリスク

雇用率が達成できない企業名は厚生労働省から発表され、同省のホームページにも掲載されます。
つまり、障がい者雇用が達成できていない企業として公になってしまうことになります。

もちろん、法定雇者率を達成できないからといって、すぐに企業名が公表されるわけではありません。
前項で説明したような手順のもと、ハローワークから障がい者雇用を推進するような働きかけがあったにもかかわらずそれが達成されない場合に、最終的に企業名公表という形がとられるのです。

法定雇用率未達成による企業名公表は、企業にとってさまざまなリスクをはらんでいます。

企業のイメージダウンにつながる

発表では、障害者雇用促進法に基づく障がい者雇用が達成できていないことが示されるとともに、その企業に対する障がい者雇用の細かな行政指導の状況も明らかにされます。

障がい者雇用に取り組んでいない企業として企業名やその状況が公にされることは、企業の社会的責任を果たせていないことを世間に表明するのと同じことです。

取引先や従業員の家族など様々なステークホルダーの目に留まる可能性も十分あり、企業へ対する不信感につながるかもしれません。
また、これからその企業と取引を始めようとする相手や就職を考えている人などが企業名をインターネットで検索し、その情報に触れてしまえば、企業にとって大きな損失に繋がる可能性もあります。

インターネット上の情報が残る

企業名は、公開されたら終わり、というわけではありません。その情報はインターネット上に長く残り続けます。
公開された厚生労働省の告示だけでなく、その情報を紹介したブログやSNSなど、あらゆる媒体で情報は広がり、完全に消し去ることは難しいでしょう。

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過去の企業名公表数

企業名公表は、毎年必ずあるわけではありません。最近の企業名公表になった企業数は、以下のとおりです。

公表企業数の推移(単位:社)

年度 H.23 H.24 H.25 H.26 H.27 H.28 H.29 H.30 R.1 R.2 R.3 R.4 R.5
企業数 3 0 0 8 0 2 0 0 0 1 6 5 1

出典:厚生労働省「障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表について」をもとに株式会社エスプールプラスにて作成

ここ5年ほどの企業名公表の状況を見ると、令和4年には5社の企業名公表がされており、5社のうち3社は再度公表となりました。尚、令和3年に6社、令和2年に1社、平成29年度~令和元年の3年間は企業名公表がなく、その前の平成28年度には1社でした。

過去6年分の雇入れ計画作成命令の対象になった企業数や、状況についてみていきたいと思います。

【令和5年】
企業名公表 1社

(1)雇用状況の改善が特に悪かった企業数 32社
(2)公表猶予した企業数 10社
(3)令和5年3月に企業名公表企業数 5社

(1)(2)の42社を対象に、企業名を公表することを前提とした指導が実施された企業については、一定の改善が見られたことから企業名公表なし。
(3)の5社のうち1社が、雇用状況に一定の改善が見られなかったため、企業名公表。

【令和4年】
企業名公表 5社

(1)雇入れ計画を作成した企業数 250社
(2)雇用状況の改善が特に悪かった企業数 44社
(3)公表猶予した企業数 5社

(4)令和元年度または令和2年度に特別指導を実施し令和3年12月に企業名公表企業数 6社
(2)(3)(4)の55社を対象に、企業名を公表することを前提とした指導が実施され、うち5社が雇用状況に改善が見られないため、企業名公表。

【令和3年】
企業名公表 6社

(1)雇入れ計画を作成した企業数 439社
(2)雇用状況の改善が特に悪かった企業数 30社

(2)の30社を対象に、企業名を公表することを前提とした指導が実施され、うち6社が雇用状況に改善が見られないため、企業名公表。

【令和2年】
企業名公表 1社

(1)雇入れ計画を作成した企業数 246社
(2)雇用状況の改善が特に悪かった企業数 26社
(3)公表猶予した企業数 2社

(2)(3)の28社を対象に、企業名を公表することを前提とした指導が実施され、うち1社が雇用状況に改善が見られないため、企業名公表。

【令和元年】
企業名公表 なし

【平成30年度】
企業名公表 なし

中央省庁の行政機関で、障がい者雇用の水増し問題が発覚し、障がい者雇用の国家公務員試験が実施され、民間企業で雇用されていた障がい者が転職するケースも見られた。企業の影響を考慮し、企業名公表はなし。

【平成29年度】
企業名公表 なし

(1)雇入れ計画を作成した企業数 280社
(2)雇用状況の改善が特に悪かった企業数 21社
(3)公表猶予した企業数 12社

(2)(3)の33社を対象に、企業名を公表することを前提とした指導が実施され、雇用状況に改善が見られたため企業名公表はなし。

【平成28年度】
企業名公表 2社

(1)雇入れ計画を作成した企業数 452社
(2)雇用状況の改善が特に悪かった企業数 53社
(3)公表猶予した企業数 3社

(2)(3)の56社を対象に、企業名を公表することを前提とした指導が実施され、うち2社が雇用状況に改善が見られないため、企業名公表。

障がい者雇用を進めていくには

障がい者雇用を進める契機として挙げられる点は、法定雇用率を達成することや、企業としての社会的責任を果たすということです。企業には、障害者雇用促進法に定める法定雇用率を上回る障がい者を雇用することが求められており、これを遵守しようとするのは大切なことです。

しかし、法定雇用率を達成できずに雇用納付金を支払っていたり、行政指導を受けている、もう少しで企業名公表になりそうだという状況になると、とりあえず雇用率を達成するために雇用しようとする企業もあります。

雇用することは求められているものの、社内の準備や理解が進められないまま、またしっかり業務内容を決めないまま雇用してしまうと、たとえ採用できたとしても職場定着することは難しく、障がい者がすぐに退職してしまうケースが少なくありません。また、一緒に働いていた職場の同僚たちが、障がい者雇用で負担を感じさせてしまうと、今後の障がい者雇用に非協力的になってしまうこともあります。

そのため、障がい者雇用を行うときには、社内の理解を進め、業務内容などを検討して、職場で障がい者を受け入れる体制を整えてから採用することが必要です。

まとめ

障がい者雇用の企業名公表についてみてきました。

企業は、障がい者を雇用することが求められていますが、それが達成できないと障害者雇用納付金の支払いや行政指導、企業名公表が行われます。最近では、企業に対する指導や企業名公表などが、かなり厳格に行われるようになってきていますので、企業もそれに合わせた準備を進めることが必要になっています。

障がい者雇用は、雇用しようと思ってすぐにできるものではありません。社内の体制を整えたり、仕事内容を検討したりと時間もマンパワーも一般の雇用よりもかかるものであるため、計画的に進めるようにしてください。

除外率制度の資料
写真:立部 弘幸(たてべ ひろゆき)
記事監修|立部 弘幸(たてべ ひろゆき)
HRトータルサポート社労士事務所
代表者 特定社会保険労務士
居酒屋チェーン店での人事部勤務と社労士事務所2か所の勤務を経て、2023年5月に個人事務所を開業。 20年近い社労士経験の中で、関与企業100社、300件を超える労使間トラブルの解決支援を行う。 その経験から、職場トラブルの解決支援と予防策の実施を得意としている。