障害者雇用率制度とは、民間企業や国・地方公共団体に一定以上割合で障害者を雇用するように義務づけた制度のことです。
労働市場においては、障害者は一般の就労者に比べて雇用機会を得にくくなっています。
そこで、一定割合の障害者の雇用を義務づけることで、一般の方と障害者の雇用機会を均等にすることが雇用率制度の目的です。
法定雇用率とは、企業や国・地方公共団体が達成を義務付けられている、従業員全体に対する障害者の雇用率のことです。「現在雇用されている障害者数」と「失業中の障害者数」を考慮し、下記の計算式で算出されます。
出典:厚生労働省「障害者雇用率制度について」
法定雇用率は事業主の区分によっても異なりますが、2023年12月現在では、事業主別の法定雇用率は次のようになっています。
法定雇用率は、労働市場の状況や経済状況を反映するため、およそ5年毎に引き上げられる傾向が見られています。
民間企業では、2013年に2.0%、2018年4月に2.2%、2021年3月からは2.3%と0.1~0.2%ずつ引き上げが行われています。
さらに、2024年4月には2.5%、2026年7月には2.7%となることが決まっています。
2023年12月現在の民間企業の法定雇用率は2.3%ですが、これは従業員を43.5人以上雇用している事業主に対して適用されます。
今後も段階的に引き上げられ、法定雇用率が2.7%になると、雇用義務のある企業は今より増え、従業員を37.5人以上雇用するすべての企業が雇用義務の対象となる見込みです。
障害者の雇用義務のある企業が実際の雇用義務数を調べる際は、法定雇用率を利用し以下の式で求められます(小数点以下切り捨て)。
また、企業の実雇用率は以下の式で求められます。
企業は雇用義務数以上の障害者を雇用し、実雇用率が法定雇用率を上回るように努めなければなりません。
障害者雇用に関する計算の際、労働者の人数は労働時間によってカウントの方法が異なります。基本的には、1年以上継続して雇用されており1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者を「常用労働者」として1名につき1カウントとしますが、そのうち労働時間が週20時間以上30時間未満の短時間労働者を「短時間労働者」として区別し、労働者1名につき0.5カウントとして算定します。
また、障害者に交付される手帳の判定で障害の程度が「重度」と判定された重度身体障害者と重度知的障害者については、障害者雇用人数のダブルカウントが適用されるため、重度身体/知的障害者の雇用1名につき2名分カウントされます。その障害者が30時間以上の勤務なら1カウント×2で2カウント分、20時間以上30時間未満の勤務なら0.5カウント×2で1カウント分となります。
精神障害者については等級によるカウントの違いはありませんが、2023年12月現在、短時間労働の精神障害者の算定特例が設けられており、週20時間以上30時間未満の短時間労働であっても雇用1人につき1カウントとして算定されます。
障害者雇用の労働者数カウント方法について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
障害者雇用の等級によるカウント方法の違いとは?
除外率制度とは、障害者の就業が一般的に難しいと認められる業種について、障害者の雇用義務を軽減することが目的で制定された制度です。
雇用労働者数を計算する際に、除外率に相当する労働者は控除されます。この制度はノーマライゼーションの観点から廃止されましたが、段階措置としてしばらくの間、除外率設定業種ごとに除外率を設定するとともに、廃止の方向で徐々に除外率を引き下げることとされています。
2010年の引き下げ以降、しばらく引き下げはありませんでしたが、2023年1月の労働政策審議会での議論を経て、除外率の引き下げが決まり、2025年4月より実施されることが発表されました。
厚生労働省が発表した「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業に雇用されている障害者の数は64万2,178人で前年より4.6%増加し、過去最高を記録しています。
障害者の実雇用率は2.33%、法定雇用達成企業の割合は50.1%となっています。
2023年度(令和5年度)の法定雇用率未達成企業は53,963社あり、そのうち66.7%は不足数が0.5人または1人と、あと少しで法定雇用率を達成できる状況です。
また、障害者を一人も雇用していない企業は31,643社であり、未達成企業の58.6%を占めている状況です。
出典:厚生労働省「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」
障害者雇用促進法に基づき、5年毎に法定雇用率の見直しが行われています。
第123回労働政策審議会では、2023年度からの雇用率を2.7%とする方針が発表されました。
ただし、企業が計画的な雇い入れが可能となるよう、2023年度については2.3%に据え置き、2024年度から2.5%、2026年度から2.7%と段階的に引き上げることとしました。
もともと2021年1月に実施される予定だった雇用率の引き上げは、新型コロナウイルスの影響を受け、2ヶ月後ろ倒しされる形となりました。
この後ろ倒しに関しては、第96回労働政策審議会で議論されており、各ステークホルダーの代表者から、下記のような意見が提出されました。
論点としては、新型コロナウイルスに関連する下記のような意見が多く見られました。
2023年1月に開催された障害者雇用分科会では、主に以下のようなトピックスが議論されました。
詳細は、以下のウェブサイトおよび資料をご覧ください。
今まで障害者を雇用したことのない企業にとって、障害者雇用を始めるハードルは高いでしょう。しかし、だからといって障害者雇用の努力をせず、法定雇用率の未達成が続くと、さまざまなリスクが生じてしまいます。
例えば、労働者が100名以上の民間企業で障害者の実雇用率が法定雇用率に達していない企業は、納付金支払いの義務が生じます(1名あたり5万円/月)。
また、毎年6月1日の雇用状況をもとに、以下の基準のいずれかに該当する企業には、ハローワークから障害者雇入れ計画作成命令が発出される場合があります。
<障害者雇入れ計画の作成発出基準>
この命令が発出されたら、企業はその後の1月1日から2年間の障害者雇入れ計画を作成しなければなりません。
作成後は計画に基づいて障害者の雇入れを進める必要がありますが、計画を怠っていると判断された場合などには、ハローワークから計画の適正実施勧告が出されます。
それでも雇入れが進まない場合には、労働局と厚生労働省による9カ月間の特別指導が入り、特別指導を受けてもなお改善が見られない場合、厚生労働省のホームページに障害者雇用率が未達成の企業として掲載されます。
一度企業名が公表されると、その後障害者雇用が進んだとしても、過去のデータとして残り続け、社名検索で上位に表示されてしまうことも。
後世にわたって会社のイメージダウンの材料となってしまいます。
納付金の支払いは経済的負担になるうえ、企業名の公表は取引先や関係企業に対して大きくマイナスのイメージを植え付けるものです。そうした意味でも、企業は障害者雇用に向けて積極的に取り組む必要があるのです。
納付金や障害者雇用義務違反については企業向けのこちらの記事もご覧ください。
障害者雇用納付金制度とは?
障害者雇用義務違反による企業のリスクとは?行政指導・社名公表までの流れも解説
雇用義務があるにも関わらず障害者が不足している状況で、何から始めればいいのかわからない場合には、ハローワークに相談してみることをおすすめします。ハローワークでは障害者雇用全般に関する相談を受け付けており、雇用に向けたさまざまな支援や助成金制度なども紹介してもらえます。当然、求職中の障害者へ向けた求人票の掲載も可能です。
ほかにも、障害者用の転職サイトを利用したり、特別支援学校や就労移行事業所などと連携したりするのも効果的です。
ノーマライゼーションの推進を背景に、法定雇用率は段階的に引き上げられています。障害者が働きやすいよう、また企業が雇用をしやすいよう、障害者雇用制度については審議会で何度も議論されており、障害者雇用はますます企業に対して求められていくと考えられます。
もし現在、法定雇用率を達成できていなければ、さまざまなサポートを活用しながら、早期に法定雇用率の達成を実現できるよう着手していきましょう。
「障害者雇用の離職率はどれくらい?」
「障がい者雇用の等級によるカウント方法の違いとは?」
「障がい者雇用の給料・年収|最低賃金法や減額特例許可制度も解説」