障害者雇用率制度とは、民間企業や国・地方公共団体に一定以上割合で障がい者を雇用するように義務づけた制度のことです。
労働市場においては、障がい者は一般の就労者に比べて雇用機会を得にくくなっています。
そこで、一定割合の障がい者の雇用を義務づけることで、一般の方と障がい者の雇用機会を均等にすることが雇用率制度の目的です。
法定雇用率とは、企業や国・地方公共団体が達成を義務付けられている、従業員全体に対する障がい者の雇用率のことです。「現在雇用されている障がい者数」と「失業中の障がい者数」を考慮し、下記の計算式で算出されます。
出典:厚生労働省「障害者雇用率制度について」
法定雇用率は事業主の区分によって異なりますが、2024年4月現在、事業主別の法定雇用率は次のようになっています。
法定雇用率は、労働市場の状況や経済状況を反映するため、およそ5年毎に引き上げられる傾向が見られます。民間企業では、2013年に2.0%、2018年4月に2.2%、2021年3月からは2.3%と、0.1~0.2%ずつ引き上げが行われてきました。
2023年の見直しでは、法定雇用率を2.7%まで引き上げられることが決まりました。ただし、この引き上げは2回に分けて段階的におこなわれることとなっています。すでに2024年4月に2.5%に引き上げられ、今後は2026年7月に2.7%に引き上げられる予定です。
2024年4月現在の民間企業の法定雇用率は2.5%ですが、これは従業員を40人以上雇用している事業主に対して適用されます。
2026年7月に法定雇用率が2.7%になると、雇用義務のある企業は今より増え、従業員を37.5人以上雇用するすべての企業が雇用義務の対象となる見込みです。
障がい者の雇用義務のある企業が実際の雇用義務数を調べる際は、法定雇用率を利用し以下の式で求められます(小数点以下切り捨て)。
また、企業の実雇用率は以下の式で求められます。
企業は雇用義務数以上の障がい者を雇用し、実雇用率が法定雇用率を上回るように努めなければなりません。
障がい者雇用に関する計算の際、労働者の人数は労働時間によってカウントの方法が異なります。基本的には、1年以上継続して雇用されており1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者を常用労働者として1名につき1カウントしますが、そのうち労働時間が週20時間以上30時間未満の短時間労働者は短時間労働者として区別し、労働者1名につき0.5カウントとして算定します。
また、障がい者に交付される手帳の判定で障害の程度が「重度」と判定された重度身体障がい者と重度知的障がい者については、障がい者雇用人数のダブルカウントが適用されるため、重度身体/知的障がい者の雇用1名につき2名分カウントされます。その障がい者が30時間以上の勤務なら1カウント×2で2カウント分、20時間以上30時間未満の勤務なら0.5カウント×2で1カウント分となります。
精神障がい者については等級によるカウントの違いはありませんが、2024年4月現在、短時間労働の精神障がい者の算定特例が設けられており、週20時間以上30時間未満の短時間労働であっても雇用1人につき1カウントとして算定されます。
2024年4月からは、障がい上の理由などにより週20時間に満たない時間で働く障がい者について、一定の条件を満たした場合に雇用人数としてカウントできるようになりました。具体的には、週10時間以上20時間未満で働く重度知的障がい者・重度身体障がい者・精神障がい者を特定短時間労働者とし、1人につき0.5カウントとして算定できます。
障がい者雇用の労働者数カウント方法について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
障がい者雇用の等級によるカウント方法の違いとは?
除外率制度とは、障がい者の就業が一般的に難しいと認められる業種について、障がい者の雇用義務を軽減することを目的に制定された制度です。雇用労働者数を計算する際、除外率に相当する労働者は控除されます。
なお、この制度はノーマライゼーションの観点から廃止されましたが、段階措置としてしばらくの間、除外率設定業種ごとに除外率を設定するとともに、廃止の方向で徐々に除外率を引き下げることとされています。
2010年の引き下げ以降、しばらく引き下げはありませんでしたが、2023年1月の労働政策審議会での議論を経て、除外率の引き下げが決まりました。2025年4月、現在除外率が設定されているすべての業種について、一律10%ずつ引き下げがおこなわれる予定です。
参考リンク:厚生労働省|障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について
除外率制度については以下の記事でも詳しく説明しています。知りたい方は参考にしてください。
参考リンク:障害者雇用の除外率制度とは?設定されている業種と計算方法について解説
厚生労働省が発表した「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業に雇用されている障がい者の数は64万2,178人で前年より4.6%増加し、過去最高を記録しています。
障がい者の実雇用率は2.33%、法定雇用達成企業の割合は50.1%となっています。
2023年度(令和5年度)の法定雇用率未達成企業は53,963社あり、そのうち66.7%は不足数が0.5人または1人と、あと少しで法定雇用率を達成できる状況です。
また、障がい者を一人も雇用していない企業は31,643社であり、未達成企業の58.6%を占めている状況です。
出典:厚生労働省「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」
障害者雇用促進法に基づき、5年毎に法定雇用率の見直しが行われています。
第123回労働政策審議会では、2023年度からの雇用率を2.7%とする方針が発表されました。
ただし、企業が計画的な雇い入れが可能となるよう、2023年度については2.3%に据え置き、2024年度から2.5%、2026年度から2.7%と段階的に引き上げることとしました。
もともと2021年1月に実施される予定だった雇用率の引き上げは、新型コロナウイルスの影響を受け、2ヶ月後ろ倒しされる形となりました。
この後ろ倒しに関しては、第96回労働政策審議会で議論されており、各ステークホルダーの代表者から、下記のような意見が提出されました。
論点としては、新型コロナウイルスに関連する下記のような意見が多く見られました。
2023年1月に開催された障害者雇用分科会では、主に以下のようなトピックスが議論されました。
詳細は、以下のウェブサイトおよび資料をご覧ください。
今まで障がい者を雇用したことのない企業にとって、障がい者雇用を始めるハードルは高いでしょう。しかし、だからといって障がい者雇用の努力をせず、法定雇用率の未達成が続くと、さまざまなリスクが生じてしまいます。
例えば、労働者が100名以上の民間企業で障がい者の実雇用率が法定雇用率に達していない企業は、納付金支払いの義務が生じます(1名あたり5万円/月)。
また、毎年6月1日の雇用状況をもとに、以下の基準のいずれかに該当する企業には、ハローワークから障害者雇入れ計画作成命令が発出される場合があります。
<障害者雇入れ計画の作成発出基準>
この命令が発出されたら、企業はその後の1月1日から2年間の障害者雇入れ計画を作成しなければなりません。
作成後は計画に基づいて障がい者の雇入れを進める必要がありますが、計画を怠っていると判断された場合などには、ハローワークから計画の適正実施勧告が出されます。
それでも雇入れが進まない場合には、労働局と厚生労働省による9カ月間の特別指導が入り、特別指導を受けてもなお改善が見られない場合、厚生労働省のホームページに障害者雇用率が未達成の企業として掲載されます。
一度企業名が公表されると、その後障がい者雇用が進んだとしても、過去のデータとして残り続け、社名検索で上位に表示されてしまうことも。
後世にわたって会社のイメージダウンの材料となってしまいます。
納付金の支払いは経済的負担になるうえ、企業名の公表は取引先や関係企業に対して大きくマイナスのイメージを植え付けるものです。そうした意味でも、企業は障がい者雇用に向けて積極的に取り組む必要があるのです。
納付金や障害者雇用義務違反については企業向けのこちらの記事もご覧ください。
障害者雇用納付金制度とは?
障害者雇用義務違反による企業のリスクとは?行政指導・社名公表までの流れも解説
雇用義務があるにも関わらず障がい者が不足している状況で、何から始めればいいのかわからないという事業主の方もいらっしゃるでしょう。
障がい者を雇用するためには、いくつかの方法があります。効果的な方法を4つご紹介します。
障がい者雇用で困ったときは、第一にハローワークに相談してみましょう。
ハローワークでは障がい者雇用全般に関する相談を受け付けており、雇用に向けたさまざまな支援や助成金制度なども紹介してもらえます。当然、求職中の障がい者へ向けた求人票の掲載も可能です。障がい者雇用に関する総合的な支援をしてもらえるでしょう。
障がい者雇用においても、一般的な採用活動と同様、転職サイトに求人を出すことは効果的な方法です。
特におすすめは、障がい者雇用に特化した求人サイトへの掲載です。仕事を探している障がいのある方に対してピンポイントに情報を届けることができます。
一般的な求人サイトでも障がい者雇用の求人を掲載できます。その場合には、求人広告にわかりやすく「障がい者雇用」と明記しましょう。
特別支援学校の高等部では、主に知的障がいや身体障がいなどのある高校生が障がい者就労に特化した作業をメインに学んでいます。毎年一定数の生徒が特別支援学校を卒業後に就労を目指しているため、こういった学校と連携することで、若くて作業が得意な人材の雇用につなげられます。
就労移行支援事業所では、就労を目指すさまざまな年代の障がいのある方が就業のための訓練をしています。専門知識をもった支援員も在籍しているため、自社で活躍できそうなスキルをもった人を紹介してもらうことも可能です。
障がい者雇用をどう進めたらいいかわからないと感じている場合には、障がい者雇用支援サービスを活用することも一つの手段です。障がい者雇用に特化した専門家が、障がい者雇用のための業務創出や採用についてサポートします。
また、サービスによっては雇用継続のためのサポートも充実しているため、採用後も安心して雇用ができます。
ノーマライゼーションの推進を背景に、法定雇用率は段階的に引き上げられています。障がい者が働きやすいよう、また企業が雇用をしやすいよう、障害者雇用制度については審議会で何度も議論されており、障がい者雇用はますます企業に対して求められていくと考えられます。
もし現在、法定雇用率を達成できていなければ、さまざまなサポートを活用しながら、早期に法定雇用率の達成を実現できるよう着手していきましょう。