更新日:2025年12月11日

障害者雇用率制度とは?

障害者雇用率制度とは、民間企業や国・地方公共団体に対して一定以上の割合で障がい者を雇用するよう義務づけた制度のことです。

労働市場において、障がい者は一般の就労者に比べて雇用機会を得づらくなっています。そこで、一定割合の障がい者の雇用を義務づけることで障がい者の雇用機会を確保できるよう、障害者雇用率制度が導入されています。

法定雇用率とは

法定雇用率とは、企業や国・地方公共団体が達成を義務付けられている、従業員全体に占める障がい者の割合のことです。対象となる障がい者数と労働者数などを考慮し、以下の計算式で算出されます。

障がい者法定雇用率 = 対象障がい者である常用労働者の数+失業している対象障がい者の数 常用労働者+失業者数

出典:厚生労働省「障害者雇用率制度について」

法定雇用率は事業主の区分によって異なりますが、2025年10月現在の法定雇用率は次のようになっています。

  • 民間企業:2.5%
  • 国・地方公共団体:2.8%
  • 都道府県等の教育委員会:2.7%

法定雇用率は労働市場や経済状況を反映するため、およそ5年毎に引き上げられる傾向があります。民間企業では、2013年に2.0%、2018年4月に2.2%、2021年3月からは2.3%と、0.1~0.2%ずつ引き上げがおこなわれてきました。

2023年の見直しでは、法定雇用率が2.7%まで引き上げられることが決まりました。この引き上げは2回に分けて段階的におこなわれることになっています。すでに2024年4月に2.5%に引き上げられており、2026年7月に2.7%に引き上げられる予定です。

雇用義務のある企業とは

2025年10月現在の民間企業の法定雇用率は2.5%ですが、これは従業員を40人以上雇用している事業主に対して適用されます。

2026年7月に法定雇用率が2.7%になると、雇用義務のある企業は今より増え、従業員を37.5人以上雇用するすべての企業が雇用義務の対象となる見込みです。

法定雇用率と実雇用率の違い

すでに解説したとおり、法定雇用率とは、企業や国・地方公共団体が達成すべき障がい者の雇用率です。それに対し、企業や国・地方公共団体が実際に障がい者を雇用している割合を実雇用率といいます。2025年10月現在の法定雇用率が2.5%なので、実雇用率が2.5%以上になるように障がい者を雇用しないといけないということです。

実雇用率は、常用労働者・短時間労働者全体の人数と、障がい者である常用労働者・短時間労働者の人数から求めることができます。

企業における雇用義務数と実雇用率の計算

障がい者の雇用義務がある企業が実際の雇用義務数を調べる際は、法定雇用率を利用し以下の式で求められます(小数点以下切り捨て)。

障がい者の雇用義務数(2024年4月時点) = (常用労働者の数+短時間労働者の数×0.5)×2.5%
(「常用労働者」からは短時間労働者を除く)

また、実雇用率は以下の式で求められます。

障がい者の実雇用率 = 障がい者である常用労働者の数+障がい者である短時間労働者の数×0.5 常用労働者の数+短時間労働者の数×0.5
(「常用労働者」からは短時間労働者を除く)

企業は雇用義務数以上の障がい者を雇用し、実雇用率が法定雇用率を上回るように努めなければなりません。

障がい者雇用に関する計算の際、労働者の人数は労働時間によってカウントの方法が異なります。基本的には、1年以上継続して雇用されており1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者を常用労働者として1名につき1カウントしますが、そのうち労働時間が週20時間以上30時間未満の短時間労働者は短時間労働者として区別し、労働者1名につき0.5カウントとして算定します。

また、障がい者に交付される手帳の判定で障がいの程度が重度と判定された重度身体障がい者と重度知的障がい者については、障がい者雇用人数のダブルカウントが適用されるため、重度身体/知的障がい者の雇用1名につき2名分カウントされます。その障がい者が30時間以上の勤務なら1カウント×2で2カウント分、20時間以上30時間未満の勤務なら0.5カウント×2で1カウント分となります。

精神障がい者については等級によるカウントの違いはありませんが、短時間労働の精神障がい者の算定特例が設けられており、週20時間以上30時間未満の短時間労働であっても雇用1人につき1カウントとして算定されます。

2024年4月からは、障がい上の理由などにより週20時間に満たない時間で働く障がい者について、一定の条件を満たした場合に雇用人数としてカウントできるようになりました。具体的には、週10時間以上20時間未満で働く重度知的障がい者・重度身体障がい者・精神障がい者を特定短時間労働者とし、1人につき0.5カウントとして算定できます。

例えば、常用労働者50人、短時間労働者100人の企業における障がい者雇用義務数は以下の通りです。

障がい者雇用義務数=(50+100×0.5)×2.5%=2.5人

この企業が常用労働の障がい者を1人、短時間労働の障がい者を4人雇用している場合の実雇用率は以下の通りです。

実雇用率=(1+4×0.5)÷(50+100×0.5)=3.0%

短時間労働の障がい者は1人につき0.5カウントなので、この企業は障がい者を3人(1+4×0.5)雇用していることになります。障がい者雇用義務数が2.5人なので、雇用義務を上回っていることがわかります。また、実雇用率は3.0%なので、この点からも法定雇用率2.5%を上回って雇用していることを確認できます。

障がい者雇用の労働者数カウント方法について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
障がい者雇用の等級によるカウント方法の違いとは?

実雇用率を算出する際の注意点

実雇用率を計算する際は以下の点に注意しましょう。

常用労働者の人数

常用労働者とは以下の労働者を指します。

  • 雇用契約期間の定めのない労働者(正社員など)
  • 有期労働者のうち、契約更新などにより1年を超えて雇用されると見込まれる労働者(契約社員やパート・アルバイト・派遣社員など)

雇用率を計算する際、単に常用労働者という場合は、上記の労働者のうち1週間の所定労働時間が30時間以上の労働者を指します。

短時間労働者の人数

雇用率の計算の際、短時間労働者とは、常用労働者のうち週所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者を指します。短時間労働者は1人につき0.5カウントなので、人数に0.5をかけて計算します。

雇用障がい者数

雇用障がい者数を数えるときにはカウント方法に注意しましょう。障がい者のカウント方法については前項で説明しましたが、特に注意が必要なのは以下の点です。

  • 重度障がい者のダブルカウント
  • 精神障がいをもった短時間労働者の算定特例
  • 特定短時間労働者のカウント

複数の事業所がある場合、実雇用率は企業全体で計算することが可能です。特例子会社がある場合には、子会社と親会社の雇用人数を合算できます。また、常用労働者で所定労働時間を満たしていれば、勤務形態に関わらずカウントすることができ 、テレワークで働く障がい者も実雇用率に加算できます。

障がい者雇用の除外率制度とは

除外率制度とは、障がい者の就業が一般的に難しいと認められる業種について、障がい者の雇用義務を軽減することを目的に制定された制度です。雇用する労働者数を計算する際、除外率に相当する労働者は控除されます。

なお、この制度はノーマライゼーションの観点から廃止されましたが、段階措置としてしばらくの間、除外率設定業種ごとに除外率を設定するとともに、廃止の方向で徐々に除外率を引き下げることとされています。

直近では、2023年1月の労働政策審議会での議論を経て、除外率の引き下げが決まり、2025年4月から除外率が設定されているすべての業種について、一律10%ずつ引き下げがおこなわれました。これにより、それまで除外率の対象であった除外率が10%以下の業種は除外率の対象外になりました。また、除外率が高い業種は「船員等による船舶運航等の事業」で、除外率70%です。

今後も段階的な引き下げ・廃止が実施される予定ですが、具体的なスケジュールは未定となっています。

参考:厚生労働省|除外率制度について

参考:厚生労働省|障害者雇用率制度における除外率制度の見直しについて

除外率制度の資料

障害者雇用率制度の現状

厚生労働省が発表した「令和6年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業に雇用されている障がい者の数は67万7,461.5人で前年より5.5%増加し、過去最高を記録しています。

障がい者の実雇用率は2.41%、法定雇用達成企業の割合は46.0%となっています。

2024年度(令和6年度)の法定雇用率未達成企業は6万3,364社あり、そのうち64.1%は不足数が0.5人または1人と、法定雇用率達成間近の企業が過半数を占めています。

また、障がい者を1人も雇用していない企業は3万6,485社であり、未達成企業の57.6%を占めている状況です。
出典:厚生労働省|「令和6年 障害者雇用状況の集計結果」

直近の法定雇用率の引き上げ

法定雇用率の引き上げは定期的におこなわれています。

2021年3月、2.2%から2.3%への引き上げがおこなわれました。本来は1月に実施予定だったものが、新型コロナウイルス感染症の流行の影響で2ヵ月後ろ倒しの施行となりました。

その後、第123回労働政策審議会障害者雇用分科会にて、法定雇用率を2.7%まで引き上げることが決まりました。事業主の負担も踏まえ、段階的な引き上げがおこなわれています。

第一段階の引き上げは2024年4月1日に実施され、法定雇用率は0.2ポイント上乗せの2.5%になりました。これにより、従業員数40.0人以上のすべての事業主に適用されます。

2026年7月1日にはさらに引き上げ、法定雇用率は2.7%になる予定です。これが実施されると、障がい者の雇用義務は従業員数37.5人以上のすべての事業主にまで対象が拡大され、それまで雇用の義務がなかった事業主も対応を求められることになります。

参照:厚生労働省|事業主のみなさまへ 障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について

法定雇用率以外で変更された点

法定雇用率の引き上げが決定した2023年1月の第123回労働政策審議会障害者雇用分科会では、法定雇用率以外でも以下のような点が変更されました。

  1. 除外率の引き上げ
    2025年4月に障がい者雇用における除外率が一律10ポイント引き下げられました。
  2. 精神障がい者の算定特例(短時間雇用)の延長
    週所定労働時間20時間以上30時間未満の短時間労働にあたる精神障がい者について、雇用障がい者数のカウントにおいて0.5カウントではなく1カウントとする暫定措置を延長しています。
  3. 短時間労働者(10時間~20時間)の実雇用率への算定
    週所定労働時間10時間以上20時間未満と特に短い時間で労働にあたる精神障がい者、重度身体障がい者および重度知的障がい者について、0.5カウントとして実雇用率への算定が可能になりました。
  4. 報奨金・調整金の調整措置
    一定数以上の障がい者を雇用する事業主に支給される報奨金・調整金については、支給額の引き下げがおこなわれます。引き下げによって生じる財源を活用し、施設・設備費用などのための助成金が新設されます。

参照:厚生労働省|労働政策審議会(障害者雇用分科会)

参照:厚生労働省|第123回 労働政策審議会障害者雇用分科会 議事次第

法定雇用率以上に障がい者を雇用するメリット

企業にとって、障がい者を雇用することは、法定雇用率達成以上のメリットがあるのです。その大きなメリットを4つご紹介します。

企業イメージ・ブランディング向上

障がい者雇用に積極的に取り組んでいる企業には、社会的責任を果たす企業としてよい印象を持たれます。例えば、ユニクロを経営している株式会社ファーストリテイリングでは、1店舗につき1名以上の障がい者雇用を目標として掲げ、その目標をほぼ達成しています。障がい者雇用率は4.89%と高水準で、これを公表することで企業ブランディング向上にもつながっています。

参照:FAST RETAILING DIVERSITY & INCLUSION DISABILITIES

社内の多様性促進・組織活性化

社内で多様な人材がともに働き活躍することで、それまでになかった新しいアイディアや価値の創出に結びつきます。社内の多様性が促進されれば、人材不足の解消や組織の活性化にもつながり、企業の長期成長を後押しします。

障がい者雇用納付金制度による助成金活用

障がい者の雇用に対して必要な措置をおこなった場合、障がい者雇用納付金制度にもとづき助成金が支給されます。

具体的には、作業施設などの整備に関する費用の一部を助成する障害者作業施設設置等助成金、障害者福祉施設設置等助成金や、雇用管理のために必要な介助などをおこなった場合に支給される障害者介助等助成金などがあります。これらを活用することで、費用の負担を軽減しながら環境整備に取り組めます。

優良企業としての認定・表彰制度との関連

厚生労働省は、障がい者雇用の促進のため、特に積極的に取り組んでいる中小企業を優良企業として認定する、もにす認定制度と呼ばれる制度を設けています。もにす認定を受けると以下のようなメリットが得られます。

  • 障害者雇用優良中小事業主認定マーク(もにす)が使用できる
  • 日本政策金融公庫の低利融資対象となる
  • 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークのホームページに掲載される
  • 公共調達などの加点評価になる場合がある

もにす認定は、単に優良な取り組みをアピールできるだけでなく、企業の安定的な経営にも役立ちます。

参照:厚生労働省|障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)

法定雇用率が未達成の場合どうなる?リスクやペナルティは?

今まで障がい者を雇用したことのない企業にとって、障がい者雇用を始めるハードルは高いでしょう。しかし、だからといって障がい者雇用の努力をせず、法定雇用率の未達成が続いてしまうと、さまざまなリスクが生じてしまいます。

納付金の支払い

労働者が100名以上の民間企業で法定雇用率が未達成の場合、未達成の人数に応じた納付金を支払わなくてはなりません。具体的には、法定雇用障がい者数に対して不足している障がい者数1人あたり月額5万円を納付します。これは障がい者雇用に関する企業間の平等性を保つことを目的としており、集められた納付金は障害者雇用調整金や報奨金、各種助成金の財源となっています。

納付金については企業向けのこちらの記事もご覧ください。

障害者雇用納付金制度とは?

参照:厚生労働省|障害者雇用納付金制度の概要

行政指導

企業は毎年6月1日に障がい者の雇用状況をハローワークに報告することになっています。これを「ロクイチ報告」とよびます。この報告をもとに、以下の基準のいずれかに該当する企業には、ハローワークから障害者雇入れ計画作成命令が発出される場合があります。

<障害者雇入れ計画の作成発出基準>
実雇用率が全国平均未満であり、かつ不足数が5人以上実雇用率に関係なく、不足数10人以上雇用義務数が3~4人の企業で、雇用障がい者数が0人

障害者雇入れ計画作成命令が発出されたら、企業は翌年の1月1日から2年間の障害者雇入れ計画を作成しなければなりません。作成後は計画に基づいて障がい者の雇入れを進める必要がありますが、計画を怠っていると判断された場合などには、ハローワークから計画の適正実施勧告が出されます。

さらに雇入れが進まない場合、労働局と厚生労働省による9ヵ月間の特別指導がおこなわれ、特別指導を受けてもなお改善が見られない場合は、厚生労働省のホームページに障害者雇用率未達成の企業として企業名が掲載される可能性があります。

一度企業名が公表されると、その後障がい者雇用が進んだとしても過去のデータとして残り続けます。社名検索で上位に表示されてしまう恐れもあるなど、長期にわたって会社のイメージダウンに影響を及ぼすことがあります。

納付金の支払いは経済的負担になるうえ、企業名の公表は取引先や関係企業に対して大きくマイナスのイメージを植え付けるものです。そうした意味でも、企業は障がい者雇用に向けて積極的に取り組む必要があるのです。

納付金や障害者雇用義務違反についてはこちらの記事もご覧ください。

障害者雇用義務違反による企業名公表や行政指導について解説


企業向けのおすすめ資料です。ぜひご活用ください。 法制度・最新情報の資料

法定雇用率が未達成の場合の取り組み

雇用義務があるにも関わらず障がい者の採用が進まず、何から始めればいいのかわからないという事業主の方もいらっしゃるでしょう。

ここでは、障がい者雇用を進める際に効果的な方法を4つご紹介します。

ハローワークに相談する

障害者雇用に取り組む際、最初の相談先として有力なのがハローワークです。

ハローワークでは、障がい者雇用全般に関する相談を受け付けており、雇用に向けたさまざまな支援制度や助成金制度などの紹介も受けられます。また、求職中の障がい者へ向けた求人票の掲載も可能で、障がい者雇用に関する総合的なサポートを受けることができます。

転職サイトに求人を出す

障がい者雇用においても、一般的な採用活動と同様、転職サイトに求人を出すことは効果的な方法です。

特に、障がい者雇用に特化した求人サイトに掲載すると、仕事を探している障がいのある方にピンポイントで情報を届けることができます。

なお、一般的な求人サイトでも障がい者雇用の求人を掲載できます。その場合には、求人広告にわかりやすく「障がい者雇用」と明記しましょう。

特別支援学校や就労移行支援事業所と連携する

特別支援学校の高等部では、主に知的障がいや身体障がいなどのある高校生が障がい者就労に特化した作業を中心に学んでいます。毎年一定数の生徒が特別支援学校を卒業後に就労を目指しているため、こういった学校と連携することで、若く作業が得意な人材の雇用につなげられます。

また、就労移行支援事業所では、就労を目指すさまざまな年代の障がいのある方が就業のための訓練をしています。専門知識をもった支援員も在籍しているため、企業で活躍できる可能性のある人材を紹介してもらうことも可能です。

障がい者雇用支援サービスを利用する

障がい者雇用をどう進めたらいいかわからないと感じている場合には、障がい者雇用支援サービスを活用することも一つの手段です。障がい者雇用に特化した専門家が、障がい者雇用のための業務創出や採用についてサポートします。

また、サービスによっては雇用継続のためのサポートも充実しているため、採用後も安心して雇用ができます。

まとめ

ノーマライゼーションの推進を背景に、法定雇用率は段階的に引き上げられています。障がい者が働きやすいよう、また企業が雇用をしやすいよう、障害者雇用制度については審議会で何度も議論されており、企業はますます雇用の促進が求められていくと考えられます。

もし現在、法定雇用率を達成できていなければ、さまざまなサポートを活用しながら、早期に法定雇用率の達成を実現できるよう着手していきましょう。