特例子会社とは、障がい者の雇用について一定の要件を満たし、厚生労働大臣の認定を受けた子会社のことです。特例子会社で雇用する障がい者は親会社等で雇用されているとみなされ、親会社等の障がい者の実雇用率の算定の際にカウントすることができます。
ここでは、特例子会社を設立することのメリットやデメリット、実際の雇用状況、設立方法について解説します。
障害者雇用率制度は原則として事業主事に課せられる制度です。そのため、親会社であっても子会社であっても、それぞれの会社で障がい者雇用に取り組む必要があります。
しかし、障がい者の雇用管理について特別の配慮を行う子会社が、一定の基準を満たして厚生労働大臣の認定を受けると、その子会社で雇用されている障がい者を親会社等で雇用されているものとみなすことができ、親会社等の障がい者雇用率に算入することが可能になります。これが「特例子会社」の仕組みです。
特例子会社制度は、1987年の「障害者の雇用の促進等に関する法律(旧身体障害者雇用促進法)」の改正より導入された制度です。 同年の改正は、それまで身体障がい者を中心としていた法定雇用率制度に知的障がい者も対象として加えるなど、 制度の対象範囲が大きく広がりました。
当時の障がい者雇用を取り巻く状況をみると、1976年に身体障がい者の雇用が義務付けられ、 1980年には知的障がい者の雇用対策強化と法定雇用率の引き上げがおこなわれています。 障がい者雇用の根本的な見直しと拡充が始まった時期といえるでしょう。
しかし、障がい者雇用が企業の社会的責任と義務であるという認識が広がり始めた一方、 業種や職種によっては雇用が難しい実態もありました。 そこで、障がい者雇用の方法の選択肢を増やすために「特例子会社制度」が整備されました。
2002年には、特例子会社で働く障がい者の人数を親会社だけでなく、ほかの子会社を含めたグループ企業全体で算定できるようになり、 設置数が大幅に増加しました。2025年6月には631社が特例子会社として登録されています。
厚生労働省が提示している特例子会社の要件は、以下の4つです。
このほかに、親会社に対しては以下の要件を提示しています。
厚生労働省が公表している障害者雇用状況報告書によると、 令和元年度から令和7年度までの特例子会社の会社数とそこで働く障がい者数の推移は以下のようになっています。
(障害者雇用状況の集計結果をもとにエスプールプラスで作成)
特例子会社数とそこで働く障がい者数は、年々増加しています。 今後も法定雇用率が引き上げられることが決定しているなか、特例子会社数はさらに増加していくことが予想されます。
参照:
就職を考えている障がいのある方や、特例子会社の設立を考えている企業の担当者の方のなかには、 特例子会社と一般企業の違いを知りたい方も多いでしょう。
前述の通り、特例子会社には認定のための要件がありますが、それ以外の部分について、制度上全く異なる仕組みではありません。たとえば、一般企業の障がい者枠において障がいをオープンにして働いていれば、そこでの仕事内容や配慮の状況は、特例子会社とほとんど変わらない場合もあります。
このように、両者に大きな違いはありませんが、実際の運営面では障がい者の割合やサポート体制、設備環境などに違いが出るケースが多く、働き方や業務内容にも影響することがあります。
一般的によくある特例子会社と一般企業の障がい者雇用の違いは以下のようなものです。
特例子会社の場合
一般企業の場合
ただし、特例子会社といっても、運営している親会社の考え方によって働く環境は大きく違いますので、どのような方針で運営しているのかなどを参考に、可能であればいくつかの特例子会社を見学してみるとよいでしょう。
続いて、特例子会社を設立することのメリットについて見ていきましょう。
特例子会社の認定を受けた場合、そこではたらく労働者の数を親会社(および一定の条件を満たす関係会社)に合算して実雇用率を算定できます。
特例子会社は「全従業員のうち20%以上が障がい者であること」などの要件があるため 、一般企業に比べて障がい者雇用数が多くなる傾向があります。その人数をそのまま親会社の障がい者雇用の数として算定できるため、親会社が法定雇用率を達成しやすくなるのです。
特例子会社は独立した組織として運営されるため、就業規則や給与制度、勤務体系などを障がい者雇用に合わせて柔軟に設計しやすい点もメリットです。
たとえば、障がいの特性上、長時間勤務が難しい場合に勤務時間の調整がしやすい勤務体系にしたり、通院があるときに特別休暇を取る制度を設けたりできます。また、障がいがある方が多く働くことが前提となるため、その目線で設備を整えやすくなります。このような、ソフト面・ハード面両方での職場環境の整備は、独立した組織だからこそできるものです。
人事評価についても、障がい特性や職務能力を前提として定めることができるため、適正な評価がしやすくなり、スキルアップの機会も提供しやすくなります。
特例子会社では障がい者をまとめてマネジメントできるため、設備面や管理面で効率化が図れるメリットもあります。
障がい特性によっては、それぞれの部署やグループに配属するよりも、障がい者数名に対してスタッフが一緒に働く体制をとったほうが、仕事が効率的に進められる場合があります。設備投資をする際も、障がい者が配属された部署ごとに設備を改修・整備するよりも全体的な効率化が図れるでしょう。
特例子会社は「障がい者に配慮した働きやすい職場」であるというイメージが比較的認知されており、一般企業よりも応募が集まりやすいケースがあります。
また、
•障がいのある方同士のコミュニケーションが生まれやすい
•支援スタッフや専門知識を持つ人材が配置されている場合が多い
といった理由から、職場定着につながりやすい環境が構築されるケースも少なくありません。
特例子会社で得られたノウハウはそのまま障がい者雇用のノウハウとなり、トラブルや問題点を都度改善していけば、障がい者雇用の取り組みをより良くしていくための貴重な経験値となります。
法定雇用率はこれからも定期的に引き上げられていくことが予想されます。一方、高齢化がすすむ現代の日本では、今後ますます人材不足が深刻になっていくと考えられます。人材確保の観点からも、これからの会社経営において障がい者雇用が重要になっていくことは間違いありません。早い段階で障がい者雇用のノウハウを蓄積していけば、会社経営の安定化や健全化につながっていくはずです。
特例子会社を設立すれば障がい者雇用を進めやすくなる傾向はありますが、 特例子会社を作ったからといって障がい者雇用の課題がすべて解決するわけではありません。
特例子会社は、障がい者雇用の仕組みの面では特例といえますが、一般の企業と同じように存続していくためには、企業として売上をあげ、継続的に運営できる体制を作っていくことが大切になります。
多くの特例子会社では、親会社やグループ企業をサポートする業務をおこなっています。このような場合、経営状態が親会社に左右されたり、社員が成長し、仕事に慣れ、キャリアアップをしたいと考えた時に、その希望に沿った仕事が提供できず、障がい者が物足りなさを感じてしまったりする恐れもあります。
ただし、ただし、こうした点は「特例子会社という制度そのものの問題」というより、どのような方針で運営し、どのような役割を担わせるのか という企業の設計次第で大きく変わります。制度のメリットを活かすためには、親会社も含めた長期的な運営設計が重要です。
障がい者雇用をしたときに活用できる助成金は、一般企業と同じように特例子会社でも活用できます。よく活用される助成金としては以下のようなものがあります。
これらの助成金について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:障がい者雇用の助成金・補助金の条件や種類について解説
以前、障がい者を新たに雇用して特例子会社や重度障がい者多数雇用事業所を設立した企業に対し、時限措置として助成金が支給されていました。「特例子会社等設立促進助成金」という助成金で、障がい者を10人以上雇用し、設立した特例子会社の全常用労働者の20%以上を占めること、また、特例子会社の全常用労働者のうち、知的障がい者、精神障がい者及び重度身体障がい者の割合が30%以上であることなどの要件を満たすことにより、雇用する人数に応じて2,000万円~5,000万円の助成金が支払われていたこともありました。
現在は国としての助成金はありませんが、各自治体において特例子会社の設立に関する助成金や補助金が準備されていることもあります。特例子会社の設立を検討する際は、各自治体の労働や雇用を管轄する部門に問い合わせてみましょう。
特例子会社での業務内容は、親会社やグループ企業をサポートする業務であるケースが多く見られます。 例えば、以下のような業務があります。
株式会社野村総合研究所・コンサルティング事業本部が2018年に実施した「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査」 (以下、同調査)によると、特例子会社の業務内容について回答が得られた196社のうち、約8割の会社が「事務補助」と回答しています。その次に多かったのが「清掃・管理業務」で約半数、3番目に多かった回答は約3割が回答した「その他」でした。ここには、PCのキッティングや解体、フラワーギフト販売、各種管理台帳作成、データ入出力などが含まれます。
この結果から、特例子会社の業務内容の多くは、事務補助やサポート、軽作業などに分類されることがわかります。これを踏まえると、定型的な業務を一定数切り出せる企業が特例子会社の設置に向いているといえるでしょう。
特例子会社はあくまで親会社とは別組織であり、障がい者を雇用しつつ、健全に経営をしていく必要があります。まとまった人数の障がい者を雇用するメリットを感じられる規模感がないと、経営のための費用を鑑みたときに、逆に負担となる場合もあるでしょう。全体にかかる費用と切り出せる仕事内容をトータル的に検討することが必要です。
特例子会社での雇用形態はそれぞれの企業によって異なりますが、多く見られるのは、契約社員として数年雇用されたあとに正社員登用する流れです。ただし、親会社の組織文化などに影響されることも多く、製造業などではトライアル雇用修了後にすぐに正社員として雇用するケースもあります。
野村総合研究所の同調査によると、特例子会社における障がい別・雇用形態別の人員構成は以下の表のようになっています。
| 身体障がい | 知的障がい | 精神障がい | 障がいなし | 合計 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 役員 | 7人 | 0人 | 0人 | 455人 | 462人 |
| 定年制の正社員 | 2,385人 | 3,422人 | 1,067人 | 3,433人 | 10,307人 |
| 契約社員・パート・アルバイト等 | 790人 | 2,157人 | 867人 | 1,803人 | 5,617人 |
| 派遣労働者 | 0人 | 9人 | 1人 | 287人 | 297人 |
| 重度障がい者数 | 2,177人 | 1,957人 | 31人 | ― | 4,165人 |
| 離職者数 | 165人 | 157人 | 206人 | 193人 | 721人 |
雇用形態では、多くの方が定年制の正社員で働いていることがわかります。次いで多いのが契約社員・パート・アルバイト等です。
障がい種別にみると、もっとも多いのが知的障がいです。次いで身体障がい、精神障がいと続きます。また、重度障がい者数を見ると、身体障がいでは約7割の方が、知的障がいでは約3割の方が該当していることがわかります。
離職率は、身体障がいが5.1%、知的障がいが2.8%、精神障がいが10.6%です。これは、一般的な障がい者雇用に比べて低い水準にあります。
※重度障がい者数は役員〜派遣労働者までの数に含まれる人数
※離職者は2016年6月1日から2017年5月末までの離職者数
続いて、同調査より、特例子会社で働く障がい者の平均年齢・年収をご紹介します。
回答が得られた198社における、働く障がい者の平均年齢についての回答を表にまとめました。
| 21~25歳 | 9.1%(18社) |
|---|---|
| 26~30歳 | 28.8%(57社) |
| 31~35歳 | 29.8%(59社) |
| 36~40歳 | 17.7%(35社) |
| 41~45歳 | 11.6%(23社) |
| 46~50歳 | 2.5%(5社) |
| 51~55歳 | 0.5%(1社) |
これをみると、6割以上の会社が、平均年齢で20代後半から30代前半までに収まっています。
特例子会社は配慮があり働きやすいと考える障がい者の方も多くいらっしゃいます。そのため、比較的人気の職場でもあります。なかには支援学校卒業後や就労移行支援事業所を出てすぐに就職する障がい者の方もいるため、平均年齢が比較的低くなっていると考えられます。
回答が得られた198社における、働く障がい者の平均年収について表にまとめました。
| 1~50万円 | 0.5%(1社) |
|---|---|
| 101~150万円 | 19.7%(39社) |
| 151~200万円 | 33.8%(67社) |
| 201~250万円 | 26.3%(52社) |
| 251~300万円 | 10.6%(21社) |
| 301~350万円 | 6.1%(12社) |
| 351~400万円 | 2.0%(4社) |
| 401~450万円 | 0.5%(1社) |
| 451~500万円 | 0.5%(1社) |
151万円〜250万円までで約6割を占め、101〜150万円と回答した会社を含めると約8割に上ります。このことから、特例子会社で働く障がい者の平均年収はおおむね101万円〜250万円の水準にあることがわかります。ただし、一部にはそれ以上の会社もあります。
特例子会社は、認定を受ける要件として、障がい者の雇用と定着の取組や指導員の配置などをクリアしなくてはいけません。また、「全従業員のうち障がい者の割合が20%以上」等の基準もあります。
つまり、特例子会社は、障がい者雇用に関してひと際注力している会社といえます。障がい者に対するサポート体制も充実しており、働きやすい環境が整っています。
また、働く障がい者として仲間が多い点も心強いポイントでしょう。お互いの特性を理解しながら、フォローし合って働く雰囲気の会社が多い傾向にあります。
特例子会社の仕事は、親会社のサポート業務が多い傾向にあります。そのため、変化が少なく単調な仕事になってしまうこともあります。スキルアップや昇給が難しい場合もあり、能力を持て余してしまうかもしれません。
2023年12月に野村総合研究所が発表した調査結果によると、特例子会社において合理的配慮を実施することで良い影響をもたらすと思う指標について、一番多かった回答は、「定着率・勤続年数」でした。次いで「心理的安全性の確保」「仕事内容への満足度」の回答が多くなっています。一方、「売上高」や「利益率」など、会社の財務指標についての回答は少ない傾向にあります。
今後の労働力不足が予想されるなか、障がいの有無に関わらず誰もが活躍できる社会を実現するためには、障がい者雇用を企業の成長と関連付けて実践することが重要となります。特例子会社自体が社会的役割を果たし、親会社を支える役割を担っていくことが求められます。
特例子会社となるためには、会社を設立し、障がい者を雇用してから申請する必要があります。具体的には次のような手順で進められます。
まずは特例子会社を設立するかどうかを社内で検討します。特例子会社といっても、会社をひとつ作るため、それなりの準備やコストがかかります。本当にその子会社が必要か、またそれが特例子会社である必要はあるかを含めて検討しましょう。
ここでは、特例子会社が親会社にもたらすものは何かという目的、達成すべき障がい者の雇用数などのすり合わせが重要になります。
特例子会社設立が決まったら、計画書を作成します。この計画書は、役員会への提案や融資相談などの際に重要な役割を担う書類となるため、客観的にわかりやすく作成することを心がけます。会社の設立や障がい者雇用のおおよそのスケジュールや資金計画がわかるように作成しましょう。これらの作成の際はハローワークや障害者職業センターで相談することも可能なので、サポートを積極的に利用しましょう。
またこのときに、子会社をどのような会社にするか、その概要書類も作成します。この概要書類は、子会社設立申請時にも必要になります。
計画書が整ったら役員会で提案し、承認を得ます。特例子会社である前に「子会社の設立」であるため、通常の子会社設立と同様に、社内での正式な意思決定が必要になります。
役員会で承認を得たら、子会社設置の本格的な準備に入ります。
社内に設立準備を担当する部門(準備室など)を設置し、定款作成や設立手続き書類の作成、体制づくりを進めます。
などを進め、法務局で会社設立登記を行います。
会社ができたら、税務署や労働基準監督署などへ必要書類を提出します。また、就業規則や人事評価制度などの社内規則も同時に作成します。
会社の基盤ができたら、いよいよ障がい者の採用活動をおこないます。採用活動にあたっては、ハローワークに専用の相談窓口があり、フォローが受けられます。また、就労移行支援事業所や特別支援学校などと連携することも効果的です。
特例子会社の認定要件を満たす人員を確保し、その他の要件もクリアできたら、ハローワークを通じて申請をおこないます。実務としてはハローワークが窓口になりますが、認定は厚生労働省(都道府県労働局)が行います。
設立に当たっては、子会社特例認定申請書と、親事業主および子会社の概要を提出する必要があります。また、定款や法人登記謄本、親会社の障害者雇用報告書、子会社の障害者受入れ通知書など、多くの添付書類が必要となります。申請書の書き方や添付書類については、ハローワークに相談することで詳しい様式がもらえます。ひとつひとつ丁寧に確認しながら準備しましょう。
特例子会社では、どのような仕事をするのかという点が、設立時にも、継続的に運営していく際にも大切です。最近では、仕事内容のひとつとして、農業を選択する特例子会社も増えています。
SMBC日興証券株式会社様の特例子会社である「日興みらん株式会社」も、2015年から、農園を活用した障がい者雇用に取り組んでいます。
詳細はこちら: 導入事例|日興みらん株式会社様
特例子会社を設立することのメリットには、特例子会社独自の制度が作りやすいことや、障がい者にとって働きやすい環境整備ができることなどがあげられます。また、実雇用率の算定の際に子会社の障がい者雇用数を親会社の数としてカウントでき、法定雇用率の達成に大きく貢献します。一方、特例子会社といえどもひとつの組織として経営していく必要があるため、目的を整理したうえで進めることが重要です。
安定的に経営・運営していけるかを十分に検討し、可能だと判断できれば、特例子会社を設立することは、障がい者雇用を含めた経営戦略の一環として企業の発展につながる可能性が十分にある取り組みといえます。