障がい者の雇用は、それぞれの事業主に求められていることです。そのため親会社や関係会社があっても、障がい者雇用はそれぞれの会社で行っていく必要があります。
しかし、特例子会社として障がい者雇用を進めるにあたり、特別の配慮をした子会社を設立して、一定の要件を満たすと、特例子会社に雇用されている障がい者が親会社や関係会社に雇用されているものと見なされて、障がい者の雇用率として含めることができます。これが特例子会社と呼ばれる制度です。
厚生労働省が公表している障害者雇用状況報告書によると、令和元年度から令和5年度までの特例子会社の会社数とそこで働く障がい者数の推移は以下のようになっています。
(障害者雇用状況の集計結果をもとにエスプールプラスで作成)
特例子会社数とそこで働く障がい者数は、年々増加しています。法定雇用率の引き上げが決定しているなか、特例子会社数は今後さらに増加していくことが予想されます。
参照
厚生労働省|令和元年度障害者雇用状況の集計結果
厚生労働省|令和2年度障害者雇用状況の集計結果
厚生労働省|令和3年度障害者雇用状況の集計結果
厚生労働省|令和4年度障害者雇用状況の集計結果
厚生労働省|令和5年度障害者雇用状況の集計結果
特例子会社を設立することのメリットについて見ていきましょう。
特例子会社を設立したときのメリットとしてあげられる点として、独立した組織設計が可能だということがあります。
例えば、就業規則や給与規定などを定める際に、親会社とは異なった障がい者雇用に合わせた制度設計がしやすくなります。
障がいの特性上、長時間勤務が難しい場合に、勤務時間の調整がしやすい勤務体系にしたり、通院があるときに特別休暇を取る制度を設けることなどができます。
特例子会社にすることにより、障がい者をまとめてマネジメントや雇用管理できるため、設備的な面や管理面のところで効率化が図れるというメリットもあります。
障がい特性によっては、雇用するときに、それぞれの部署やグループに配属するよりも、障がい者数名に対して、スタッフが一緒に働くという仕事の体制をとったほうが、仕事が効率的に進められるということが見られます。
また、設備投資するときには、それぞれの障がい者が配属されているところの設備を改修したり、整備をおこなうよりも、全体的な効率化が図れるということも見られます。
特例子会社は障がい者に配慮のある職場であるということが、障がい者雇用を目指す人にとっては、一定の割合で認知されています。そのため、採用する時に一般の企業で採用するよりも、特例子会社として募集をかけたほうが、採用しやすいことがあります。
また、特例子会社では、障がい者が多数働いているので、障がい者同士でコミュニケーションが図りやすく、お互いが良いライバル関係を築きやすいというメリットも見られます。
スタッフも一般の職場よりも多めに配置されていたり、会社によっては精神保健福祉士や障がいに関する知識や経験者を配置していることも多く、職場定着を図りやすい環境になっていることもあります。
障がい者を多数雇用できる特例子会社をもつことで、障がい者雇用のノウハウを集中的に貯めることができます。特例子会社で得られたノウハウはそのまま障がい者雇用のノウハウとなり、トラブルや問題点を都度改善していけば、障がい者雇用の取り組みをより良くしていくための貴重な経験値となります。
法定雇用率はこれからも定期的に引き上げられていくことが予想されます。一方、高齢化がすすむ現代日本では、今後ますます人材不足が深刻になっていくでしょう。人材確保という観点からも、これからの会社経営において障がい者雇用が重要になっていくことは間違いありません。早い段階で障がい者雇用のノウハウを貯めていくことは、会社経営の安定化や健全化につながっていくはずです。
特例子会社を設立することによって、障がい者雇用を進めやすくなる傾向はありますが、特例子会社を作ったからといって、障がい者雇用の問題が全て解決するわけではありません。
特例子会社は、障がい者雇用の仕組みの面では特例と言えますが、一般の企業と同じように存続していくためには、企業として売上をあげて、継続的に運営できる体制を作っていくことが大切になります。
一方で、多くの特例子会社での主な業務は、親会社やグループ企業をサポートする業務をおこなっているところが多いです。このような場合、経営的な問題をどのように解決していくのかを考えていく必要がありますし、社員が仕事に慣れて、成長していくにつれて、キャリアアップをしたいと考えた時に物足りなさを感じさせてしまうというデメリットも生じさせてしまう可能性があります。
障がい者雇用をしたときに活用できる助成金は、一般企業と同じように特例子会社でも活用することができます。
よく活用される助成金としては、トライアル雇用助成金、障害者雇用安定助成金、障害者雇用納付金制度に基づく施設等の整備や適切な雇用管理の措置に対する助成金などがあります。
以前、障がい者を新たに雇用して、特例子会社や重度障がい者多数雇用事業所を設立した企業に対し支給される助成金が、時限措置としてありました。
特例子会社等設立促進助成金という助成金で、障がい者を10人以上雇用し、設立した特例子会社の全常用労働者の20%以上を占めること、また、特例子会社の全常用労働者のうち、知的障がい者、精神障がい者及び重度身体障がい者の割合が30%以上であることなどの要件を満たすことにより、雇用する人数に応じて2000万円~5000万円の助成金が支払われていたこともありました。
現在は、国としての助成金はありませんが、各自治体において特例子会社の設立に関する助成金や補助金が準備されていることもあります。特例子会社の設立を検討しているときには、各自治体の労働や雇用を管轄する部門に問い合わせてみることができるでしょう。
特例子会社と一般企業での違いは、明確にはありません。
しかし、多くの場合、特例子会社は、障がい者が働きやすい職場について検討されているので、制度面やスタッフの配置、施設の充実などの点で、一般の職場よりも障がい者に配慮した働きやすい環境を整備しているところが多いと言えます。
ただし、特例子会社と言っても、運営している親会社の考え方や意向によって大きく違いますので、どのような方針で運営しているのかなどを参考に、いくつかの特例子会社を見学してみるとよいでしょう。
特例子会社での業務内容は、親会社やグループ企業をサポートする業務をおこなっているところが多く見られます。オフィスや工場などの清掃、バックオフィスのサポート業務、メールの仕分け、名刺印刷やコピーなどの印刷関連、福利厚生施設の運営などです。また、製造業などでは、一部工場の組み立てや検品などをおこなっているところもあります。
株式会社野村総合研究所・コンサルティング事業本部が2018年に実施した「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査」 (以下、同調査)によると、特例子会社の業務内容について回答が得られた196社のうち、約8割の会社が「事務補助」と回答しています。
その次に多かったものが「清掃・管理業務」で約半数、3番目に多かった回答は「その他」で約3割の会社が該当しています。PCのキッティングや解体、フラワーギフト販売、各種管理台帳作成、データ入出力などが含まれます。
そのため特例子会社の業種は、サービス業や製造業が多くなります。業務内容は事務補助やサポート、軽作業などの業務に分類される仕事が多くなっています。
特例子会社の雇用形態は、それぞれの企業によって異なりますが、多く見られるのは、契約社員として数年雇用されたあとに、正社員登用するという形態です。
ただし、親会社の組織文化などが影響されることも多くあり、製造業などでは、トライアル雇用修了後に、すぐに正社員として雇用しているところもあります。
野村総合研究所の同調査 によると、特例子会社における障がい別・雇用形態別の人員構成は以下の表のようになっています。
身体障がい | 知的障がい | 精神障がい | 障がいのない | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|
役員 | 7人 | 0人 | 0人 | 455人 | 462人 |
定年制の正社員 | 2,385人 | 3,422人 | 1,067人 | 3,433人 | 10,307人 |
契約社員・パート・アルバイト等 | 790人 | 2,157人 | 867人 | 1,803人 | 5,617人 |
派遣労働者 | 0人 | 9人 | 1人 | 287人 | 297人 |
重度障がい者数 | 2,177人 | 1,957人 | 31人 | - | 4,165人 |
離職者数 | 165人 | 157人 | 206人 | 193人 | 721人 |
雇用形態では、多くの方が定年制の正社員で働いていることがわかります。次いで多いのが契約社員・パート・アルバイト等の雇用形態です。
障がい種別にみると、もっとも多いのが知的障がいの方です。次いで身体障がい、精神障がいと続きます。また、重度障がい者の数を見ると、身体障がいでは約7割の方が、知的障がいでは約3割の方が該当していることがわかります。
離職率は、身体障がい者が5.1%、知的障がい者が2.8%、精神障がい者が10.6%です。これは、一般的な障がい者雇用に比べて低い水準にあります。
※重度障がい者の数は役員〜派遣労働者までの数に含まれる人数
※離職者は2016年6月1日から2017年5月末までの離職者数
続いて、同調査より、特例子会社で働く障がい者の平均年齢・年収をご紹介します。
特例子会社で働く障がい者の平均年齢は、回答が得られた198社のうち、31〜35歳と回答した会社が29.8%(59社)、26〜30歳と回答した会社が28.8%(57社)、36〜40歳と回答した会社が17.7%(35社)という結果でした。
約6割の会社の平均年齢が、20代後半から30代前半までに収まっているようです。
特例子会社は配慮があり働きやすいと考える障がい者の方も多くいらっしゃいます。そのため、比較的人気の職場でもあります。なかには支援学校卒業後や就労移行支援事業所を出てすぐに就職する10代~20代の障がい者の方もいて、平均年齢が比較的低くなっています。
特例子会社で働く障がい者の平均年収は、回答が得られた198社のうち、151〜200万円と回答した会社が33.8%(67社)、201〜250万円と回答した会社が26.3%(52社)、101〜150万円と回答した会社が19.7%(39社)という結果でした。
151〜250万円までで約6割を占め、101〜150万円と回答した会社を含めると約8割に上ることがわかります。特例子会社で働く障がい者の平均年収は、概ね101万円〜250万円の水準にあり、一部にはそれ以上の会社もあることが読み取れます。
2023年12月に野村総合研究所が発表した調査結果によると、特例子会社において合理的配慮を実施することで良い影響をもたらすと思う指標について、一番多かった回答は「定着率・勤続年数」でした。次いで「心理的安全性の確保」「仕事内容への満足度」の回答が多くなっています。一方、「売上高」や「利益率」など、会社の財務指標についての回答は少ない傾向にあります。
今後、労働力不足が予想されるなか、障がい者雇用の価値は、障がいの有無に関わらず、誰もが活躍できる社会の実現にあります。そのためには、障がい者雇用を企業の成長と関連付けたものとして実践していくことが重要になります。特例子会社自体が、社会的役割や親会社と支え合って成長していけるような役割を担っていくことが求められます。
特例子会社が向いている企業は、ある程度の障がい者を雇用する必要があり、定型的な業務を一定数切り出せると取り組みやすいかもしれません。
規模的なメリットを感じられる規模感がないと、別組織を作って経営していくための費用やスタッフが別途かかることになりますので、逆に負担となる場合もあるでしょう。全体にかかる費用と切り出せる仕事内容などをトータル的に検討することが必要です。
厚生労働省が提示している特例子会社の要件は、以下の4つです。
このほかに、親会社に対しては以下の要件を提示しています。
特例子会社を設立するときには、次のような手順で進めていきます。
特例子会社の設立は、会社を設立し、障がい者を雇用してからの申請となります。特例子会社では、障がい者5名以上の採用が条件として定められています。雇用したあとに、特例子会社認定申請をし、約1ヶ月程度で認定されます。
特例子会社では、どのような仕事内容をするのかという点が、設立時にも、継続的に運営していくときにも大切になってきます。最近では、仕事内容の幅を広げるために農業に取り組む特例子会社も増えています。
農業と一言で言っても、いろいろな形態があります。特例子会社でレストランを運営しており、その食材として活用したり、地域の人に購入できるような販売所を設けているところもあります。また、人手不足の農家をサポートするような形で、業務の一部として展開しているところや、水耕栽培に取り組んでいるところもあります。
仕事内容に幅をもたせるように、地域のニーズや立地などから検討して、業務内容として成立するようであれば、農業に取り組むこともできるかもしれません。
特例子会社について、設立することのメリットやデメリット、設立までに必要なことなどについて見てきました。
特例子会社を設立することのメリットとしては、特例子会社の制度が作りやすいことや、障がい者にとって働きやすい環境整備ができることなどがあげられます。一方で、特例子会社は、障がい者のカウントが親会社や関連会社と合わせてカウントできますが、一般の会社と同じように利益を上げること、雇用を継続していくための努力が求められることになります。
特例子会社を設立することは、障がい者の雇用率を達成することに貢献はしますが、安定的に経営・運営していけるかを検討した上で設立することが必要です。