更新日:2024年3月28日
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特例子会社とは

障がい者の雇用は、それぞれの事業主に求められていることです。そのため親会社や関係会社があっても、障がい者雇用はそれぞれの会社で行っていく必要があります。

しかし、特例子会社として障がい者雇用を進めるにあたり、特別の配慮をした子会社を設立して、一定の要件を満たすと、特例子会社に雇用されている障がい者が親会社や関係会社に雇用されているものと見なされて、障がい者の雇用率として含めることができます。これが特例子会社と呼ばれる制度です。

特例子会社による雇用のメリット

特例子会社を設立することのメリットについて見ていきましょう。

独立した組織設計が可能

特例子会社を設立したときのメリットとしてあげられる点として、独立した組織設計が可能だということがあります。

例えば、就業規則や給与規定などを定める際に、親会社とは異なった障がい者雇用に合わせた制度設計がしやすくなります。

障がいの特性上、長時間勤務が難しい場合に、勤務時間の調整がしやすい勤務体系にしたり、通院があるときに特別休暇を取る制度を設けることなどができます。

設備投資の効率性が高まる

特例子会社にすることにより、障がい者をまとめてマネジメントや雇用管理できるため、設備的な面や管理面のところで効率化が図れるというメリットもあります。

障がい特性によっては、雇用するときに、それぞれの部署やグループに配属するよりも、障がい者数名に対して、スタッフが一緒に働くという仕事の体制をとったほうが、仕事が効率的に進められるということが見られます。

また、設備投資するときには、それぞれの障がい者が配属されているところの設備を改修したり、整備をおこなうよりも、全体的な効率化が図れるということも見られます。

採用でのアピールや職場定着率の効果が見込める

特例子会社は障がい者に配慮のある職場であるということが、障がい者雇用を目指す人にとっては、一定の割合で認知されています。そのため、採用する時に一般の企業で採用するよりも、特例子会社として募集をかけたほうが、採用しやすいことがあります。

また、特例子会社では、障がい者が多数働いているので、障がい者同士でコミュニケーションが図りやすく、お互いが良いライバル関係を築きやすいというメリットも見られます。

スタッフも一般の職場よりも多めに配置されていたり、会社によっては精神保健福祉士や障がいに関する知識や経験者を配置していることも多く、職場定着を図りやすい環境になっていることもあります。

特例子会社を設立するデメリット

特例子会社を設立することによって、障がい者雇用を進めやすくなる傾向はありますが、特例子会社を作ったからといって、障がい者雇用の問題が全て解決するわけではありません。

特例子会社は、障がい者雇用の仕組みの面では特例と言えますが、一般の企業とおなじように存続していくためには、企業として売上をあげて、継続的に運営できる体制を作っていくことが大切になります。

一方で、多くの特例子会社での主な業務は、親会社やグループ企業をサポートする業務をおこなっているところが多く、付加価値を生みにくい業務を行っています。このような場合、経営的な問題をどのように解決していくのかを考えていく必要がありますし、社員が仕事に慣れて、成長していくにつれて、キャリアアップをしたいと考えた時に物足りなさを感じさせてしまうというデメリットも生じさせてしまう可能性があります。

特例子会社に支給される助成金

障がい者雇用をしたときに活用できる助成金は、一般企業と同じように特例子会社でも活用することができます。

よく活用される助成金としては、特定求職者雇用開発助成金、トライアル雇用助成金、障害者雇用安定助成金、障害者雇用納付金制度に基づく施設等の整備や適切な雇用管理の措置に対する助成金などがあります。

過去と現在の助成金の違い

以前、障がい者を新たに雇用して、特例子会社や重度障害者多数雇用事業所を設立した企業に対し支給される助成金が、時限措置としてありました。

特例子会社等設立促進助成金という助成金で、障がい者を10人以上雇用し、設立した特例子会社の全常用労働者の20%以上を占めること、また、特例子会社の全常用労働者のうち、知的障がい者、精神障がい者及び重度身体障がい者の割合が30%以上であることなどの要件を満たすことにより、雇用する人数に応じて2000万円~5000万円の助成金が支払われていたこともありました。

現在は、国としての助成金はありませんが、各自治体において特例子会社の設立に関する助成金や補助金が準備されていることもあります。特例子会社の設立を検討しているときには、各自治体の労働や雇用を管轄する部門に問い合わせてみることができるでしょう。

特例子会社と一般企業での障がい者雇用の違い

特例子会社と一般企業での違いは、明確にはありません。

しかし、多くの場合、特例子会社は、障がい者が働きやすい職場について検討されているので、制度面やスタッフの配置、施設の充実などの点で、一般の職場よりも障がい者に配慮した働きやすい環境を整備しているところが多いと言えます。

ただし、特例子会社と言っても、運営している親会社の考え方や意向によって大きく違いますので、どのような方針で運営しているのかなどを参考に、いくつかの特例子会社を見学してみるとよいでしょう。

特例子会社の業種や職種は

特例子会社での業務内容は、親会社やグループ企業をサポートする業務をおこなっているところが多く見られます。オフィスや工場などの清掃、バックオフィスのサポート業務、メールの仕分け、名刺印刷やコピーなどの印刷関連、福利厚生施設の運営などです。また、製造業などでは、一部工場の組み立てや検品などをおこなっているところもあります。

株式会社野村総合研究所・コンサルティング事業本部が2018年に実施した「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査」 (以下、同調査)によると、業務内容について回答が得られた196社のうち、約8割の会社が「事務補助」と回答しています。

その次に多かったものが「清掃・管理業務」で約半数、3番目に多かった回答は「その他」で約3割の会社が該当しています。PCのキッティングや解体、フラワーギフト販売、各種管理台帳作成、データ入出力などが含まれます。

そのため特例子会社の業種は、サービス業や製造業が多くなります。業務内容は事務補助やサポート、軽作業などの業務に分類される仕事が多くなっています。

特例子会社での雇用形態は

特例子会社の雇用形態は、それぞれの企業によって異なりますが、多く見られるのは、契約社員として数年雇用されたあとに、正社員登用するという形態です。

ただし、親会社の組織文化などが影響されることも多くあり、製造業などでは、トライアル雇用修了後に、すぐに正社員として雇用しているところもあります。

障害別・雇用形態別の人員構成

野村総合研究所の同調査 によると、障害別・雇用形態別の人員構成は以下の表のようになっています。

身体障害 知的障害 精神障害 障害のない 合計
役員 7 0 0 455 462
定年制の正社員 2,385 3,422 1,067 3,433 10,307
契約社員・パート・アルバイト等 790 2,157 867 1,803 5,617
派遣労働者 0 9 1 287 297
重度障害者数 2,177 1,957 31 - 4,165
離職者数 165 157 206 193 721

身体障害・知的障害・精神障害、それぞれの種別において正社員の割合が最も多く、その次に契約社員やパート・アルバイトといった雇用形態の人員が多くなっています。また、重度障害者の数を見ると、身体障害では約7割の方が、知的障害では約3割の方が該当していることがわかります。

※重度障害者の数は役員〜派遣労働者までの数に含まれる人数
※離職者は2016年6月1日から2017年5月末までの離職者数

特例子会社で働く障害者の平均年齢・年収

同調査より、特例子会社で働く障害者の平均年齢・年収をご紹介します。

平均年齢

特例子会社で働く障害者の平均年齢は、回答が得られた198社のうち、31〜35歳と回答した会社が29.8%(59社)、26〜30歳と回答した会社が28.8%(57社)、36〜40歳と回答した会社が17.7%(35社)という結果でした。

約6割の会社の平均年齢が、20代後半から30代前半までに収まっているようです。

平均年収

特例子会社で働く障害者の平均年収は、回答が得られた198社のうち、151〜200万円と回答した会社が33.8%(67社)、201〜250万円と回答した会社が26.3%(52社)、101〜150万円と回答した会社が19.7%(39社)という結果でした。

151〜250万円までで約6割を占め、101〜150万円と回答した会社を含めると約8割に上ることがわかります。特例子会社で働く障害者の平均年収は、概ね101万円〜250万円の水準にあり、一部にはそれ以上の会社もあることが読み取れます。

特例子会社の役割の変化について

これまでの特例子会社の役割は、その多くが親会社・グループ企業のサポートをするものでした。新型コロナウイルス感染症の影響による働き方の変化、また社会が企業に求める機能の変化によって、特例子会社の業務内容や役割も変化の兆しを見せています。

野村総合研究所が2022年に実施した実態調査 では、特例子会社の抱える経営課題についての回答に「新規事業・サービス・商品の開発」と答える割合が増加傾向 にあります(2016年から9.8ポイント増加)。

また親会社に対して、障害者雇用や就労環境の環境整備におけるリーダーシップを発揮したい意向をもつ企業が約6割いる こともわかりました。上場企業よりも20ポイント多い数字であり、特例子会社に特有の傾向といえるでしょう。

特例子会社による雇用が向いている企業

特例子会社が向いている企業は、ある程度の障がい者を雇用する必要があり、定型的な業務を一定数切り出せると取り組みやすいかもしれません。

規模的なメリットを感じられる規模感がないと、別組織を作って経営していくための費用やスタッフが別途かかることになりますので、逆に負担となる場合もあるでしょう。全体にかかる費用と切り出せる仕事内容などをトータル的に検討することが必要です。

特例子会社設立の設立方法

特例子会社を設立するときには、次のような手順で進めていきます。

  • 社内で検討し、特例子会社の設立を決定。
  • 特例子会社設立の設立計画、事業計画書などを作成。
  • 役員会への提案準備。事業計画書や初期資金計画、業務内容や就業条件、出向者、役員などを決定。
  • 特例子会社設立準備室を設置。
  • 定款、会社設立登記などをおこない、会社設立。
  • 障がい者の募集、実習、採用。
  • 特例子会社の認定申請。

特例子会社の設立は、会社を設立し、障がい者を雇用してからの申請となります。特例子会社では、障がい者5名以上の採用が条件として定められています。雇用したあとに、特例子会社認定申請をし、約1ヶ月程度で認定されます。

特例子会社でも注目されている農業

特例子会社では、どのような仕事内容をするのかという点が、設立時にも、継続的に運営していくときにも大切になってきます。最近では、仕事内容の幅を広げるために農業に取り組む特例子会社も増えています。

農業と一言で言っても、いろいろな形態があります。特例子会社でレストランを運営しており、その食材として活用したり、地域の人に購入できるような販売所を設けているところもあります。また、人手不足の農家をサポートするような形で、業務の一部として展開しているところや、水耕栽培に取り組んでいるところもあります。

仕事内容に幅をもたせるように、地域のニーズや立地などから検討して、業務内容として成立するようであれば、農業に取り組むこともできるかもしれません。

まとめ

特例子会社について、設立することのメリットやデメリット、設立までに必要なことなどについて見てきました。

特例子会社を設立することのメリットとしては、特例子会社の制度が作りやすいことや、障がい者にとって働きやすい環境整備ができることなどがあげられます。一方で、特例子会社は、障がい者のカウントが親会社や関連会社と合わせてカウントできますが、一般の会社と同じように利益を上げること、雇用を継続していくための努力が求められることになります。

特例子会社を設立することは、障がい者の雇用率を達成することに貢献はしますが、安定的に経営・運営していけるかを検討した上で設立することが必要です。

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