現在、障害者雇用促進法により、一定の従業員数を上回る企業には、法定雇用率に基づく数の障がい者を雇用する義務があります。令和6年4月現在、従業員を40.0人以上雇用している事業主は1人以上の障がい者を雇用し、実雇用率が2.5%を上回るようにしなければなりません。
しかし、職務の性質上、この雇用率を適用することになじまない業種もあります。そうした職業に対し、政府は「除外率制度」を適用し、障がい者の雇用義務を軽減しています。
除外率制度とは、障がい者の就業が一般的に困難と認められる業種について適用される制度です。雇用労働者数を計算する際に、除外率に相当する労働者数が控除され、障がい者の雇用義務が軽減されます。
ただし、ノーマライゼーションの考え方に基づき、この除外率制度は平成14年の障害者雇用促進法の改正で廃止が決定しました。現在は完全廃止へむけた経過措置として段階的縮小が行われている状況です。
(参考:厚生労働省|障がい者雇用率制度・納付金制度について関係資料 除外率制度について)
除外率の設定は、業種ごと細かく分類されています。以下の表は令和6年4月現在の除外率設定業種とその除外率です。
除外率設定業種 | 除外率 |
---|---|
非鉄金属製造業(非鉄金属第一次精製業を除く) 倉庫業 船舶製造・修理業、船用機関製造業 航空運輸業 国内電気通信業(電気通信回線設備を設置して行うものに限る) |
5% |
採石業、砂・砂利・玉石採取業 水運業 窯行原料用鉱物鉱業(耐火物・陶磁器・ガラス・セメント原料用に限る) その他の鉱業 |
10% |
非鉄金属第一次精錬・精製業 貨物運送取扱業(集配利用運送業を除く) |
15% |
建設業 鉄鋼業 道路貨物運送業 郵便業(信書便事業を含む) |
20% |
港湾運送業 | 25% |
鉄道業 医療業 高等教育機関 |
30% |
林業(狩猟業を除く) | 35% |
金属鉱業 児童福祉事業 |
40% |
特別支援学校(もっぱら視覚障害者に対する教育を行う学校を除く) | 45% |
石炭・亜炭鉱業 | 50% |
道路旅客運送業 小学校 |
55% |
幼稚園 幼保連携型認定こども園 |
60% |
船員等による船舶運航等の事業 | 80% |
除外率が設定される業種は、船舶運航業や学校、医療業、貨物運送業などさまざまです。業務にあたり免許・資格等が必要であること、安全面での懸念があることなどが考慮されています。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が2021年に発表した調査 によると、除外率対象職種に障がい者を配置する場合、「人的支援」と「本人・周囲の安全確保」の2点が課題となっていることがわかっています。また同調査では、除外率対象職種における障がい者は身体障がい者が8割を占め、知的障がい者・精神障がい者はあまり増えていないことも明らかになりました。専門的な資格や知識を必要とする業種で知的障がい者・精神障がい者が就業するには困難が伴うことがわかります。
しかし、企業の障害者雇用率を上げるためには、知的障がい者・精神障がい者の雇用の促進は特に重要とされています。除外率制度が廃止に向けて動くなか、除外率対象職種においても障がい者雇用の難しさが続く見込みです。
除外率対象職種における除外率は、常用労働者数から設定された割合の労働者数が引かれ、その数に法定雇用率をかけて障がい者の雇用義務数が計算されます。例えば、常用労働者数2,000人、除外率25%の業種の企業の場合、
となり、雇用義務のある障がい者数は37人となります(小数点以下切り捨て)。一方、除外制度がない場合は、
となり、雇用義務のある障がい者数は50人であるため、13人分の雇用義務が免除されることになります。
前述のとおり、除外率制度は平成14年の障害者雇用促進法の改正により廃止が決定されました。以後、現在に至るまで、段階的に2度の引き下げが行われています。
最初の引き下げは平成16年4月で、それまで除外率設定の対象であった業種のうち、タイヤ・チューブ製造業などを含む6業種が対象外となりました。 その後、平成20年の除外率設定業種全体を対象にした調査では、実雇用率は1.56%から1.74%へと0.2ポイント上昇しています。
平成19年12月の労働政策審議会では、除外率制度の廃止を目指すために除外率のさらなる引き下げが提言され、平成22年7月に引き下げを実施。これにより有機化学工業製品製造業を含む5業種が除外率設定対象外となっています。
(参考:厚生労働省|障害者雇用率制度における除外率制度の見直しについて)
平成22年の引き下げ以来、除外率の引き下げは10年以上行われてきませんでした。しかし、令和4年5月の労働政策審議会において、これを問題視する意見が取り上げられます。企業全体および除外率設定業種の障害者雇用率が年々上昇傾向にあることも踏まえ、法定雇用率の再設定のタイミングにおける除外率の引き下げが提言されました。
その後、令和5年1月の労働政策審議会で除外率の引き下げが決定し、令和7年4月に実施されることが発表されました。それによると、除外設定業種の除外率は以下の表のようになります。
除外率設定業種及び除外率(令和7年4月以降予定)
除外率設定業種 | 除外率 |
---|---|
非鉄金属製造業(非鉄金属第一次精製業を除く) 倉庫業 船舶製造・修理業、船用機関製造業 航空運輸業 国内電気通信業(電気通信回線設備を設置して行うものに限る) |
廃止 |
採石業、砂・砂利・玉石採取業 水運業 窯行原料用鉱物鉱業(耐火物・陶磁器・ガラス・セメント原料用に限る) その他の鉱業 |
廃止 |
非鉄金属第一次精錬・精製業 貨物運送取扱業(集配利用運送業を除く) |
5% |
建設業 鉄鋼業 道路貨物運送業 郵便業(信書便事業を含む) |
10% |
港湾運送業 | 15% |
鉄道業 医療業 高等教育機関 |
20% |
林業(狩猟業を除く) | 25% |
金属鉱業 児童福祉事業 |
30% |
特別支援学校(もっぱら視覚障害者に対する教育を行う学校を除く) | 35% |
石炭・亜炭鉱業 | 40% |
道路旅客運送業 小学校 |
45% |
幼稚園 幼保連携型認定こども園 |
50% |
船員等による船舶運航等の事業 | 70% |
(参考:厚生労働省|除外率制度について)
今後も段階的な引き下げを経て最終的に廃止されることが決定していますが、具体的なスケジュールや廃止のタイミングなどは未定となっています。
(参考:厚生労働省|第118回労働政策審議会障害者雇用分科会 資料1 「雇用の質の向上、除外率制度に関する対応について 関係資料」)
(参考:厚生労働省|第123回労働政策審議会障害者雇用分科会 資料1-1「令和5年度からの障害者雇用率の設定等について」)
国内企業全体の障害者雇用率は年々上昇しています。除外率設定企業における障害者雇用率も上昇していますが、業種によっては雇用を増やすことが難しい場合もあるでしょう。今まで除外率が高かった業種では、さまざまな取り組みが必要となるはずです。
除外率制度がなくなっても法定雇用率を達成していくためには、身体障がい者だけでなく知的障がい者や精神障がい者も雇用できるような業務の切り出しや、新たな部署の創設などの工夫が必要となります。
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