障がい者雇用は企業の義務として法律で定められており、法律に違反することは納付金の納付義務や行政指導、社名公表といった法的リスクを孕んでいます。これらは金銭的な負担だけでなく、企業の社会的信用にも関わるものとなります。
ここでは、障がい者雇用における企業の義務と法的リスクの考え方、具体的な内容や対策について解説します。
障がい者雇用について定めた法律は、障害者雇用促進法と呼ばれます(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)。この法律では、企業の義務として以下の内容が明記されています。
障がい者雇用は、事業主が共同で達成していく社会連帯責任として定められています。企業が障がい者雇用に取り組むうえで生じうる負担は平等であるべきという考え方のもと、これらの義務を達成しない企業には納付金の納付義務や行政指導が課せられます。
参照:厚生労働省|事業主の方へ
事業主が障害者雇用促進法に違反することで生じるリスクとしては、以下が挙げられます。
納付金の納付義務については、単にペナルティとして課しているのではなく、企業が障がい者雇用を進めるうえで発生しうる負担を平等化するための処置として、国が定めているものになります。
障がい者を雇用する義務のあるすべての事業主は、毎年6月1日時点の障がい者雇用状況をハローワークに報告しなくてはなりません。これはロクイチ報告とも呼ばれています。
ロクイチ報告を行わなかった場合、または虚偽の報告をおこなった場合は、30万円以下の罰金の対象となります(障害者雇用促進法第86条第1号)。
法定雇用率とは、常時雇用する労働者のうち障がい者を雇用すべき人数の割合のことを指します。2025年4月現在、民間企業の法定雇用率は2.5%で、常時雇用40.0人以上の労働者を雇用しているすべての事業主は法定雇用率相当の障がい者を雇用しなくてはなりません。法定雇用率を達成しない企業に対しては以下項目が課せられます。
障がい者雇用を進める際には、設備整備や環境整備などが必要な場合が多く、経済的な負担を伴います。法定雇用率を達成している企業とそうでない企業で、経済的負担に差が生じることとなります。この経済的負担を調整しながら、障がい者を雇用する企業に対して助成や援助を行うことで、障がい者の雇用促進と職業の安定を図るために設けられているのが、障害者雇用納付金制度です。
常時雇用する労働者が100人を超える事業主のうち、法定雇用率未達成の事業主からは、その企業が雇用すべき障がい者数に対して不足している人数1人あたり月額5万円を障害者雇用納付金として納める決まりとなっています。これを財源に、障がい者を多く雇用している事業主に対して調整金や報奨金などを支給することで、経済的負担を平等にしています。
法定雇用率未達成で、達成への取組が足りないと判断された企業に対しては、ハローワークからの行政指導が入ります。
行政指導では、まず2年の障がい者雇入れ計画の作成が命令されます(障害者雇用促進法第46条1項)。この命令を受けた企業は、雇入れ計画を作成し、命令発令後の1月1日より計画に沿って雇入れを推進していかなくてはなりません。その年の12月時点で計画が進んでいないと判断された場合、ハローワークより計画適性実施の勧告を受けることになります(障害者雇用促進法第46条6項)。
2年間の計画実施後の状況が著しく悪い企業に対しては、企業名公表を前提とした特別指導がおこなわれます。
特別指導をうけてもなお雇用率が達成できていない企業は、企業名が公表されます(障害者雇用促進法第47条)。企業名公表後も特別指導が続き、雇用が進んでいないと判断された場合には、企業名が再公表されることもあります。
ロクイチ報告の義務を怠った場合、または虚偽の報告をおこなった場合は、それがわかった時点で罰金の対象となります。
障害者雇用納付金は、常時雇用する労働者が100人を超える場合、その企業が雇用すべき障がい者数に対して不足している人数1人分から発生します。さらに、以下のいずれかの基準に該当する場合は、行政指導として障害者雇入れ計画の作成命令が発令されます。
雇入れ計画を作成したら、1月1日より計画を実施します。その年の12月時点で以下のいずれかに該当する場合は特別指導の対象となり、企業名公表につながります。
障がい者雇用にはさまざまなノウハウや費用が必要となり、自社内のみの取組みで法定雇用率を達成することが難しい場合も少なくありません。
調整金や報奨金といった補助金制度をうまく利用しながら、法定雇用率達成のための取り組みを行うことが大切です。
具体的な対応としては、以下のようなものがあります。
障がい者雇用に係る金銭的な負担を解消するためには、助成金制度を積極的に活用しましょう。
雇入れに関する助成金としては、特定求職者雇用開発助成金やトライアル雇用助成金などがあります。また、施設の整備などをおこなった場合にその費用の一部を助成する制度や、障がい者を非正規雇用から正規雇用に転換した場合に支給されるキャリアアップ助成金などもあります。
そのほか、法人税・所得税・事業所税については税制優遇措置を受けることも可能です。こうした助成金や補助金、税制優遇措置を活用することで、障がい者雇用に関する経済的負担や不安感を軽減できるでしょう。
障がい者雇用をサポートしてくれる機関を活用しましょう。代表的な機関としては、ハローワークが挙げられます。ハローワークでは障がい者専用の求人票を掲載できるほか、雇用についての助言や専門機関の紹介、助成金の案内などを受けることができます。また、障がい者雇用のための就職面接会も開催されています。
ハローワーク以外にも障がい者雇用をサポートしてもらえる機関はいくつかあります。地域障害者職業センターでは、雇用管理に関する専門的な助言のほか、ジョブコーチの派遣による支援をうけることも可能です。また、障害者就業・生活支援センターでは、障がい者の就業面・生活面における支援をおこなっています。
これらの専門機関のサポートの多くは無料で受けられます。障がい者雇用に取り組もうとしている企業の担当者の方はぜひ相談してみてください。
障がい者雇用支援サービスを提供している民間の専門業者もあります。社内に切り出せる業務がない、障がい者雇用に割ける人員的・時間的余裕がないとお悩みの場合には、障がい者雇用を専門に行う支援サービスを活用するのも一つの方法です。
こうしたサービスでは、障がい者雇用の理解を深めるところから、業務の創出、採用後の雇用継続のためのフォローまで支援を受けることができます。障がい者が活躍するための新たな業務を創出することも可能です。
障がい者雇用は、すべての事業主が共同で取り組むべき社会連帯責任です。障がい者雇用に積極的に取り組んでいる企業だけが追加で一定の負担を負うことは、社会連帯責任としての障がい者雇用の在り方とは異なります。障がい者を多く雇用している事業主の負担を軽減し、事業主間の負担の公平を図りつつ、障がい者雇用の水準を高めることを目的として導入されているのが、障がい者雇用への取組が不十分な企業に対する納付金の納付義務や行政指導です。
障がい者雇用率における企業の義務を果たすためには、助成金を活用すること、公的機関の支援を受けること、障がい者雇用支援サービスを活用することなどといった方法があります。それぞれの企業に合った支援を受けながら障がい者雇用を進めることで、法定雇用率の達成だけに留まらず、よりよい形での障がい者雇用が実現できるでしょう。