更新日:2024年1月 5日
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障害者差別解消法とは、正式法律名を「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」といい、2016年(平成28年)4月から施行された法律です。名前の通り、障がいを理由とした差別の解消を目指すものとなっています。

どのような法律なのか、制定された背景などについて見ていきます。

障害者差別解消法とは

障害者差別解消法では、障害者基本法の基本的な理念を具体化するものとして位置づけられています。そのため、主な内容は、障害者基本法の第4条の3つの項目に基づいています。

3つの項目は、次の点です。

  • 障がいを理由とした差別的な行為を禁止すること。
  • 社会的なバリアを取り除かないために権利を侵害することを防ぐこと。
  • 国などによって障がいに関する啓発や知識を広げる取り組みをおこなうこと。

不当な差別的取扱いの禁止

障害者差別解消法で禁止されている不当な差別的取扱いについては、国・地方公共 団体、民間事業主全てが、法的義務を負っています。

不当な差別的取り扱いには、障がいがあるという理由で、サービスの提供を拒否や制限をすること、条件をつけることなどが含まれます。

例えば、障がい者の受付の対応を断ることや、障がいのある方から話しかけたり質問されたりしているのに、付添やサポートしている人だけに答える、学校の入学や受験を障がいのある方に対して拒否する、障がいのある方に対してサービスを提供しないなどが含まれます。

合理的配慮の提供

障害者差別解消法では、合理的配慮の提供が定められており、 国・地方公共団体は法的義務を負っています。民間事業者も、2024年4月1日から法的義務化されます。合理的配慮の提供では、障がい者から配慮を求められたときに、過度の負担にならない範囲で、合理的な配慮が求められています。

合理的配慮には、障がい者が社会的なバリアを感じることに対して、個々の必要に応じて行われる配慮が含まれます。

例えば、車椅子の人がいて移動が難しいような場合、段差があるような場所で車椅子を持ち上げたり、スロープがあるところへ誘導したりするなどです。

コミュニケーションが難しい場合には、筆談やタブレット端末などを使いながらコミュニケーションを図ることができるかもしれません。

改正障害者差別解消法

障害者差別解消法が改正され、先述の通り、2024年4月1日から民間事業者も合理的配慮の提供が法的義務化されます。

これまでの障害者差別解消法では、国・地方公共団体は法的義務を負っていますが、民間事業者は合理的配慮の提供が努力義務でした。そのため法律的な拘束力が弱いといった点が指摘されていました。

なお、不当な差別的取扱いの禁止については、国・地方公共 団体、民間事業主の全てが法的義務を負っています。また、障害者雇用促進法に基づき、雇用している障がい者に対する合理的配慮は現在も法的義務です。

障害者差別解消法の罰則について

障害者差別解消法の罰則については、2つ定められています。

1つ目は、障がい者や行政、関係機関・団体などから構成される、障害者差別解消支援地域協議会に関わる人が、そこで知り得た秘密を保持しなかったときの罰則です。これに違反すると1年以下の懲役、または50万円以下の罰金が課せられます。

2つ目は、民間事業者が、障がい者への不当な権利侵害や差別的な取り扱いが行われ、改善が見られない場合の罰則です。このようなことが見られた場合、事業者は行政などに対し報告を行った上で、助言や指導、勧告を受ける必要があります。しかし、報告をしない、虚偽の報告をおこなった場合などには、20万円以下の過料が課せられます。

障害者差別解消法が制定された理由

障害者差別解消法は、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として制定されました。

制定の背景には、障がい者の権利擁護に関する世界的な関心の高まりがあります。

権利条約(正式法律名「障害者の人権及び基本的自由の享有を確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進するための包括的かつ総合的な国際条約である障害者の権利に関する条約」)は、国連で2006年に採択されており、他の国々でも整備されました。

日本でも、2007年に権利条約に署名され、国内での法整備が進められています。障害者基本法の改正では、権利条約の趣旨が反映されています。

その例として、社会的障壁に関する定義には、障がい者の日常生活や社会生活を送る上で障壁となる社会にあるものや、制度、慣行、観念その他一切のものが含まれることが明示されました。

障害者差別解消法での障がい者の定義

対象となる障がい者は、障害者基本法第2条第1号に規定されている人です。

身体障がい、知的障がい、精神障がい(発達障がいを含む)や、その他の心身の機能の障がいがあり、障がいや社会的障壁の影響を受けて、日常生活や社会生活に相当な制限を受ける人が含まれます。

社会生活において受ける制限は、「社会モデル」という考え方に基づき、それぞれの障がいから影響を受けるものだけに限らずに、社会的なバリアとなるような障壁となる考え方や慣習なども入ります。

社会モデルは、障がい者が障がいを感じるのは、社会の障がいに対するバリア(物理的な場合や、心理的なものも含めて)がある影響のためで、それを排除することができれば、障がいやバリアを感じる必要はないという考え方に基づいています。そのため、ここで対象とされている障がい者は、障害者手帳を持っていない人も含まれます。

障害者差別解消法の対象となる事業者

障害者差別解消法の対象となる事業者は、事業を行うものとされており、営利・非営利、個人・法人は問われません。

会社やお店などでサービスを継続的に提供する場合は、事業者に含まれます。そのため、個人事業者や特定非営利活動法人(ボランティア等も含め)も対象となります。

対応要領と対応指針について

障害者差別解消法では、「対応要領」と「対応指針」が設けられています。

対応要領は、国・都道府県・市町村などの行政機関等において、そこで働く人が適切に障がい者に対応できるように作成します。行政機関等では、この対応要領を守っての対応が求められます。また、職員が遵守すべき服務規律の一つとしても見なされます。

なお、この対応要領は、作成に際して障がい者や障がい者団体などの意見を反映して、不当な差別的取扱いや合理的配慮の具体例を盛り込む必要があります。また、作成後には公表しなければなりません。

市役所などでは、対応要領を作成し、どれが差別に当たるのか、合理的配慮の対応として望ましい行動などの指針や具体的な事例を示して、市の職員が適切に対応します。

対応指針は、事業者が対応するために作成され、事業を所管する国の役所が作成します。対応指針も対応要領と同じく、障がい者や障がい者団体などからの意見を反映し、不当な差別的取扱いや合理的配慮の具体例を含んで作成します。

各事業者は、この作成された「対応指針」に基づき、障がい者差別の解消の取り組みを実施します。事業者が法律に違反している場合や、自主的に改善することが難しい場合には、国や行政から、事業者に対し、報告が求められること、助言や指導、勧告などを受けることがあります。

まとめ

障害者差別解消法とはどのような法律なのか、また、合理的配慮や罰則について見てきました。

障害者差別解消法では、不当な差別的取扱いの禁止と、合理的配慮の提供が定められています。合理的配慮の提供は、2024年4月1日から、国・地方公共団体に続き、民間事業者も法的義務となります。

また2023年3月には、政府全体の方針となる基本方針が改定され、行政機関や事業者と障がい者、双方の「建設的対話」と「相互理解」が重要であることが明記されるなど、障がい者に対する配慮が一層広がってきています。合理的配慮の提供を前提としたサービスや仕組みを考えていくことは、これからさらに求められていると言えるでしょう。
(参考:内閣府 障害者差別解消法に基づく基本方針の改定)
https://www.cao.go.jp/press/new_wave/20230331_00008.html

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