事業主は毎年6月1日、障害者雇用促進法の定めにより、高齢者や障がい者の雇用に関する状況を報告する義務があります。これを「高年齢者・障害者雇用状況報告書」といい、一般にロクイチ報告と呼ばれています。障がい者を1人以上雇用する義務がある事業主は、たとえ実際に雇用している障がい者が0人でも、この報告をおこなわなければなりません。
ここでは、高年齢者・障害者雇用状況報告書の書き方や注意点などを解説します。
障害者雇用促進法では、事業主に対して、毎年6月1日現在の高年齢者および障がい者の雇用に関する状況を、本社所在地を管轄するハローワークに報告することが義務づけられています。
この報告が「高年齢者・障害者雇用状況報告書」であり、一般的に「ロクイチ報告」と呼ばれています。この調査により行政は、各企業が高年齢者および障がい者を何人雇用しているのかを把握し、障がい者雇用率の集計や行政指導、支援策の検討などに活用しています。
障がい者におけるロクイチ報告の対象となるのは、法定雇用率が適用されるすべての民間企業 です。
1人でも障がい者雇用の義務がある事業主は、実際の雇用障がい者数が0人であってもロクイチ報告をしなくてはなりません。
なお、高年齢者におけるロクイチ報告は、従業員20人以上規模の事業主が対象となっています。
ロクイチ報告では、高年齢者雇用状況報告書および障害者雇用状況報告書を提出することで、高年齢者および障がい者の雇用に関する状況を報告する仕組みとなっています。これらはそれぞれ、高年齢者雇用安定法と障害者雇用促進法によって定められています。対象となる事業所には、厚生労働省(ハローワーク)から報告用紙が郵送で届きます。
この報告の目的は、高年齢者や障がい者の雇用状況の把握のほか、回答内容をもとにハローワークが各企業に対して助言や指導、調査などを行うための基本情報として用いることです。集計結果については、例年12月末ごろに公表されています。
提出先は企業の主たる事業所を管轄するハローワークです。郵送または持参のほか、電子申請にも対応しています。
高年齢者・障害者雇用状況報告書には、具体的にどのようなことを記入するのでしょうか。ここではその記入内容について解説します。
高年齢者雇用状況報告書では、以下のようなことを報告書に記載します。
障害者雇用状況報告書では、主に以下のことを報告書に記載します。
障がい者雇用のカウントルールについては、以下の記事で詳しく解説しています。
障がい者雇用の短時間勤務もカウント可能?週20時間未満の雇用率算定特例も解説
高年齢者・障害者雇用状況報告書が郵送で届く際には、書き方のフォーマットが同封されています。ここでは、報告書を書く際に注意すべきポイントを解説します。
高年齢者雇用状況報告書には、高年齢者の雇用の規則について細かく記入する必要があります。必ず就業規則を確認しながら記入してください。
高年齢者の雇用について、定年年齢を65歳未満に定めている企業は、65歳までの定年の引上げ・65歳までの継続雇用制度の導入・定年制度の廃止のいずれかの措置を実施する義務があります。これらについて就業規則に明記されていない場合、早急に規則の改定をおこなう必要があり、それについても報告書に記載します。
そのほか、細かい点ですが、雇用の状況について記入する際、内訳として女性の人数を記入する必要があります。また、定年到達者数の記載をする際、規則で定める制度の上限年齢によって記入する欄が異なるため、記入例をよく読み、注意して記入しましょう。
障害者雇用状況報告書において一番気を付けるべきことは、障がい者のカウント方法です。
常時雇用する労働者数(常用雇用労働者数)に含まれるのは、1週間の労働時間が20時間以上で1年以上雇用される見込みのある人の数です。このうち週所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者は、短時間労働者として「1人につき0.5人」でカウントし、常用雇用労働者に算定します。
また、雇用障がい者数については以下のカウントルールで人数を数えます。
【障がい者一人当たりのカウント数(カッコ内は重度障がい者の場合)】
| 週所定労働者数 | 30時間以上 | 20時間以上 30時間未満 |
10時間以上 20時間未満 |
|---|---|---|---|
| 身体障がい者 | 1 (2) | 0.5 (1) | 0 (0.5) |
| 知的障がい者 | 1 (2) | 0.5 (1) | 0 (0.5) |
| 精神障がい者 | 1 | 1 | 0.5 |
なお、報告書の作成にあたっては障がい種別や程度を把握する必要がありますが、これらの情報の扱いについては充分に注意が必要です。情報の管理者は必要最小限に限定したうえで、守秘義務をふくめた個人情報保護法に関する内部規定の整備などをおこなう必要があります。
参照:厚生労働省「障害者雇用率制度について」
参照:厚生労働省「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドラインの概要」
高年齢者・障害者雇用状況報告書は毎年5月下旬~6月初旬ごろに企業に書類が郵送で届き、7月15日までに提出することになっています。書類が届いたら、6月1日時点の雇用人数等を集計し、書類作成に取り掛かりましょう。
提出は、持参・郵送・電子申請にて行います。持参か郵送の場合は管轄のハローワークを調べて提出しましょう。電子申請の場合には、1つのIDで複数の行政サービスが利用できる共通認証システム、GビズIDを利用します。電子署名が不要なGビズIDプライムを利用する場合は申請書や印鑑証明書などを提出して登録をしますが、登録申請から承認までの審査で数週間かかることがあるため注意しましょう。審査が不要なGビズIDエントリーや、GビズIDを利用せずにe-Govアカウントを利用して申請することも可能ですが、その場合は有料の電子署名が必要となります。
参照:厚生労働省「2 障害者雇用状況報告」高齢者雇用状況報告書については、出し遅れについて法定の罰則はありません。一方、障害者雇用状況報告書は、報告をしていないとみなされた場合や虚偽の報告をした場合、30万円以下の罰金の対象となります(障害者雇用促進法 第86条第1号)。
期限内に提出できるよう、スケジュールに余裕を持って対応することを心掛けましょう。
参照:厚生労働省「2 障害者雇用状況報告」
2024年4月の法定雇用率の引き上げにより、それまで障がい者雇用の義務がなかった企業に新たに義務が課せられたケースもあります。しかし、法定雇用率の引き上げが把握できていないと、意図せず法定雇用率未達成企業になってしまう恐れがあります。
障害者雇用状況報告書で基準を満たしていない状況が続くと、以下に解説するような行政指導の対象となる場合があります。
法定雇用率が達成できず、一定の基準を超えると、ハローワークから、障害者雇入れ計画書の作成・提出が命じられます。
障害者雇入れ計画書は、今後2年間の障がい者雇用の計画を記入するものです。計画書は提出して終わりではなく、計画通りに目標が達成できているか、一定期間チェックが入ります。
<障害者雇入れ計画の作成発出基準>
雇入れ計画が予定通りに進んでいない場合は、雇入れ計画の適正実施勧告や特別指導が行われます。それでも改善が見られない場合は、企業名が公表される恐れがあります。
障がい者雇用数が未達成の場合には、障害者雇用納付金の支払いが求められます。障害者雇用納付金は、不足人数1名に対し、月額5万円、年額60万円の支払いが必要です。
ただし、障害者雇用納付金を支払ったとしても、障がい者雇用の義務はなくなりません。障がい者雇用の不足数が多い場合、支払う雇用納付金も多額になり、雇入れ計画書の作成も必要となるため、障がい者の早急な雇用に取り組むべきです。
納付金については、以下の記事で詳しく解説しています。
障害者雇用納付金制度とは?助成金の種類についても解説
障がい者雇用については、障害者雇用促進法などの法律のほか、条例や特例措置も存在します。ここではその一例をご紹介します。
各自治体では、条例などを設けて障がい者雇用を進める動きが見られます。
例えば、徳島県では、障がい者雇用に関する条例を次のように定めています。
【徳島県】障がい者の雇用の促進等に関する条例
障がい者の雇用を取り巻く状況は、障がい者に対する理解と関心の増進により改善が見られる一方で、まだ多くの障がい者が働く場を求めており、依然として厳しいものとなっている。
このような状況を改善するためには、事業主はもとより、県民全てが障がい者の雇用について理解を深めることにより、働く意欲のある障がい者が、その特性に応じて能力を発揮し、地域社会の一員となる機会が確保されることが不可欠である。
こうした認識の下、障がい者の働きたいという思いの実現に向けて、県、事業主、障がい者雇用関係団体及び県民が、障がい者に対する理解を深め、相互に連携を図りながら協力することにより、障がい者の雇用の気運を醸成し、一人でも多くの障がい者の雇用の場が確保されることを目指し、この条例を制定する。
また2015年には、障がいのある人もない人も暮らしやすい徳島づくり条例が制定され、障がい者の社会参加に向けた施策を積極的に推し進めています。さらに、2020年度から2024年度までの5年間には、徳島県障がい者活躍推進計画を策定・実施しました。毎年度、計画に定める取り組みの状況をホームページに公開し、検証・分析をおこなうなど、障がい者雇用に独自に取り組んでいます。
障害者優先調達推進法が2013年4月から施行されています。この法律は、国や地方公共団体などに対して、障がい者就労施設などから優先的に物品などを調達することを定めたものです。また、調達に努めるために基本方針を定めることや、毎年の実績を公表することなどが求められています。
障害者優先調達推進法の目的は、企業が障がい者雇用の支援や障がい者が就労する施設などの仕事の確保です。対象には次の施設が含まれます。
ただし、これらの施設において提供できるサービスは限定的であり、活用は限られているのが実状です。そこで、各自治体では、官公需における特例措置を設けることにより、競争入札参加資格の等級格付けの時に加点がされたり、委託を発注・入札する際に特定の業務を委託し、受託業者に対して障がい者の従事の条件をつけ、障がい者雇用をしている企業を優遇する措置を設けています。
例えば、次のような事例があります。
【大分県】大分市障がい者就労応援企業として認定されている企業に対する特例措置
物品の購入、製造の請負、物件の借入れおよび施設維持管理委託業務の契約
● 指名競争入札において、1者を追加指名するように努める
● 随意契約において
1)2人以上の者から、見積書を徴するときは、1者追加選定するよう努める。
2)1人の者から、見積書を徴するときは、選定機会が多くなるよう努める。
建設工事および測量・建設コンサルタント業務等
● 一般競争入札(建設工事のみ)において、入札参加制限対象工事の入札公告日において、手持工事(共同企業体にあっては、その構成員の手持工事をいう。)を2件から3件までとする
● 指名競争入札において、1者を追加指名するように努める
【兵庫県】障害者雇用促進企業等認定企業に対する特例措置
障害者雇用促進企業等認定をうけている企業は、兵庫県の発注する物品購入や借入れ、役務の調達についての指名競争入札などで以下のように優先されます。
● 指名競争入札や随意契約の発注の場合、通常の指名業者や見積もり依頼業者に追加して指定されることがある
● 障がい者を多数雇用する企業は、清掃業務や情報サービス提供業務などの発注の際に限定的に随意契約をおこなうことができる(一定限度額の範囲内において)
法定雇用率の引き上げは2026年7月にもあり、障がい者雇用に関するロクイチ報告の対象事業主の範囲も拡大されることになります。それにより、ロクイチ報告をおこなう事業主も増えることになります。
ロクイチ報告の用紙は、記入例も同封された状態で郵送にて送られてきます。就業規則や障がい者のカウントルールを確認しながら、正確な内容で期日内に報告できるようにしましょう。また、報告のために知り得た情報の管理にも十分に気を使いましょう。
また、障がい者雇用を推進することで、障害者優先調達推進法の特例措置などの項目に該当する場合もあります。有効な特例が得られる可能性もあるので、ぜひ確認してみてください。
