近年、障がい者雇用の現場で注目されている制度に、みなし雇用制度があります。企業が障がいのある方に仕事を外注した場合、それを法定雇用率に換算するという仕組みで、実現すれば法定雇用率達成や障がい者雇用の可能性が広がると期待されています。ただし、一方では課題やデメリットもあります。
ここでは、障がい者のみなし雇用制度の概要とメリット・デメリットなどを解説します。
障がい者のみなし雇用という制度をご存じでしょうか。
みなし雇用制度は、企業が就労継続支援事業所などに業務を発注したときに、一定の基準を満たすことで法定雇用率に換算できる、制度化が検討されている仕組みです。2026年3月現在、法律上ではまだ制度化されていません。
障がい者の雇用は難しいもの、また、人事管理、業務管理が大変と考える企業にとっては、このみなし雇用を活用したいと考えている企業もあるようです。また、障がい者の働く選択肢が広がる効果も期待されます。
一方、障害者雇用率を達成している企業は全体の5割を下回っています。みなし雇用制度が導入されると直接雇用に消極的になるのではないか、企業で働く機会が減るのではないかという懸念点もあげられています。
みなし雇用については、制度化こそされていませんが、2021年10月の労働政策審議会障害者雇用分科会で言及されるなどしており、議論が高まりつつあります。その背景には、以下のような要因があると考えられます。
法定雇用率は現在段階的に引き上げられており、2026年7月には民間企業の法定雇用率が2.7%になることが決まっています。これにより、それまで障がい者雇用の対象ではなかった企業も雇用の対象になる場合があり、企業は障がい者雇用の取り組みをさらに強化する必要にせまられています。
業務上・設備上の問題などで障がい者の直接雇用が難しい企業も存在します。以前はそうした企業を対象に除外率制度が設定されていましたが、この制度は2002年の法改正で廃止が決まり、2004年から段階的に引き下げられている状況です。いずれはすべての企業から除外率の設定がなくなることになります。
つまり、障がい者の直接雇用が難しい企業も工夫して障がい者雇用に取り組むことが求められている状況です。
コロナ禍以降、出勤をしないで在宅などで仕事をおこなうテレワークが浸透し、多様な働き方が認められるようになってきています。これにより、障がい特性上の理由で出勤が難しい方であってもパソコン一台で仕事ができるケースが増え、社会参加しやすくなりました。フリーランスなど、直接雇用ではない業務委託の形ではたらく障がい者の方も一定数存在します。
リモートや外注できる仕事を障がいのある方に任せ、それを障がい者の雇用数としてカウントできれば、障がい者雇用の幅が広がり、法定雇用率も達成しやすくなるとして、みなし雇用が注目されています。
現在の障がい者雇用制度は、企業が直接障がいのある方と雇用契約を結ぶ直接雇用が原則です。
直接雇用はそれ以外の働き方に比べて安定し、雇用条件によって社会保障などを受けることも可能です。また、雇用契約を結んでいる障がいのある方に対して合理的配慮を提供すること、また、そういった環境を整える責任が企業にはあります。
こういった雇用の安定や責任の所在の明確化は、直接雇用の大原則です。しかし、みなし雇用が制度として認められた場合、その整合性がずれてしまう恐れがあります。また、直接雇用よりも容易な外注という仕組みをみなし雇用として認めた場合、法定雇用率の達成のためだけの数合わせに利用される可能性もあります。
雇用という責任を負わなくて済むようになると、企業が障がい者雇用にかける熱量も低くなってしまうかもしれません。それが雇用の質の低下に直結し、障がい者雇用の本来の目的からそれてしまう恐れもあります。
以上のような理由から、みなし雇用制度は日本でまだ制度化されていないのです。
現状制度化されていないみなし雇用ですが、仮に制度化された場合、メリットとして考えられる点がいくつかあります。
企業側からみると、直接雇用に縛られず、障がい者雇用の幅が広がり、それによって障がい者雇用が進めやすくなることが考えられます。また、特例調整金や特例報奨金などの助成金が支給されることなどもメリットのひとつです。これらの点について詳しく見ていきます。
現在、企業が障がい者雇用をしているとしてカウントできるのは、障がい者を直接雇用する場合や、特例子会社制度を用いて子会社や関係会社で雇用している場合に限られます。しかし、みなし雇用として企業が就労継続支援事業所などに仕事を依頼し法定雇用率に換算されることになれば、直接雇用以外の方法でも障がい者を雇用できることになります。これにより法定雇用率を達成する企業もあるでしょう。
障がい者を雇用する際には職場環境の整備が必須となります。特に設備面においては、スロープやエレベーターを設置するなどのために投資が必要なケースもあるでしょう。この負担が要因となり、障がい者雇用を進めにくくなっている企業もあるかもしれません。
しかし、みなし雇用の場合は、必ずしも障がいのある方が会社やオフィスで働く必要はありません。そのためハード面での職場環境の整備も必要なくなります。このことだけでも障がい者雇用のハードルはぐっと下がるでしょう。
障害者雇用納付金制度の中には、在宅で働いている障がい者や在宅就業支援団体を通して仕事を発注し支払いをした事業主を対象に、障害者雇用納付金制度に基づいた助成金を支払う制度があります。これらは特例調整金または特例報奨金と呼ばれるもので、現在でもすでに適用されています。
在宅就業障害者特例調整金は、障害者雇用納付金申告、もしくは障害者雇用調整金申請事業主を対象として、前年度に在宅就業障害者や在宅就業支援団体に仕事を発注し、業務の対価を支払った場合に支給されるものです。法定雇用率未達成企業については、在宅就業障害者特例調整金の額に応じて、障害者雇用納付金が減額されることになります。
また、在宅就業者特例報奨金は、報奨金申請事業主を対象に、前年度に在宅就業障害者や在宅就業支援団体に仕事を発注し業務の対価を支払った場合に支給されるものです。
みなし雇用が制度化されると、これらの調整金、報奨金に加えて法定雇用率の換算も実現することになります。
みなし雇用制度は企業だけでなく、働く障がい者側にもメリットのある制度です。その理由のひとつに、多様な働き方が認められやすくなる点があげられます。
障がい者雇用のカウント方法は一般的に、1人雇用しているとカウントするには30時間以上(重度の場合には2カウント)、短時間で20時間以上雇用している場合には0.5カウント(重度の場合には1カウント)となります。
以前は20時間未満の雇用では法定雇用率にカウントできませんでしたが、2024年4月からは週10時間以上20時間未満で働く重度身体障がい者・重度知的障がい者・精神障がい者について0.5カウントとして算定できるようになりました。しかし、対象は限定的であり、すべての障がい者が対象ではありません。
一方で、就労継続支援事業所などで働く場合も法定雇用率のカウント対象となれば、企業が前向きに仕事を発注する機会が増えると考えられます。また、はじめは20時間以上の勤務が難しい場合でも、個々の障がい者にあった勤務時間で仕事ができる、時間を調整しながら働ける、などの体制を整えられるのであれば、働くことの可能性が広がる障がい者はさらに増えるでしょう。
みなし雇用制度があれば、従来の障がい者雇用の枠組みでは働くことが難しかった人たちにも働く方法の選択肢を与えることができるのです。
ここまで、みなし雇用のメリットについてみてきましたが、デメリットとしてはどのようなことがあげられるのでしょうか。
障がい者雇用を企業で進めることが難しいことを理由にみなし雇用で法定雇用率を達成しようと考える企業が増えると、企業の直接雇用が減ってしまう懸念があります。
もちろん、みなし雇用により障がい者雇用の選択肢が広がることは望ましいことです。しかし障がい者にとっては、みなし雇用ではなく企業で直接雇用されたほうが、一定の収入が保障され、安定した生活につながりやすくなることもあります。
そのため、みなし雇用は企業の障がい者雇用の促進を止めてしまうのではないかという懸念の声があり、制度化は慎重に考えるべきだとの意見があるのです。
みなし雇用の制度化はまだ不透明であり、企業はほかの方法で法定雇用率の達成を目指す必要があります。以下のような取り組みを進めていきましょう。
みなし雇用が制度化されることに期待している企業の方もいらっしゃるかもしれませんが、先行きはまだ不透明です。まずは自社での直接雇用を進めていきましょう。職場環境の整備や業務の切り出し、労働条件の決定など決めることも多く大変ですが、一度ノウハウができると推進しやすくなります。課題をひとつひとつ洗い出し、解決しながら、少しずつでも直接雇用を増やしていきましょう。
みなし雇用制度よりも柔軟な制度として、現行の制度に、特例子会社制度があります。これは、条件を満たした子会社(特例子会社)で雇用している障がい者数を親会社の算定にカウントできる制度です。
特例子会社制度をうまく活用すると、親会社のなかの業務の一部を子会社に外注しているような形で任せることができます。既存の会社のなかで障がい者雇用の枠を増やすよりも、障がい者雇用に特化した特例子会社を新設するほうが、長い目でみて効率的な場合もあります。社内での直接雇用がどうしても難しい、長期的にすすめていける障がい者雇用の仕組みを取り入れたいという場合は、特例子会社の活用を検討してみましょう。
自社だけの障がい者雇用に難しさを感じているのであれば、外部支援サービスを活用するのもひとつの方法です。ハローワークなどの公共の窓口では基本的に無料での相談が可能で、制度面だけでなく、実際の雇用へ向けた取り組み方法も教えてくれます。
また、民間の障がい者雇用支援サービスもあります。エスプールプラスでは、貸農園を活用した障がい者雇用支援サービスを提供しています。エスプールプラスが運営する農園を企業が借り、そこを障がい者の雇用の場とするサービスです。障がい者は、障がい特性が考慮された屋内・屋外の農園で農作業に従事することになります。
このサービスを活用すると、職場環境の整備や既存業務からの切り出しなど、企業が感じやすい課題の解消につながります。障がいのある方が育てた野菜は社内販売や社食で活用でき、福利厚生の充実と法定雇用率の達成という2つの恩恵が受けられます。さらに、独自の採用ラインによる障がい者人材の確保、専門知識をもったスタッフによる雇用継続支援など、一貫したサポートが受けられるのもメリットです。
エスプールプラスの貸農園は全国各地にあります。本社に近い農園を借りれば本社社員と障がい者の交流も可能となり、社員のノーマライゼーション意識の向上にも寄与します。
みなし雇用とは、企業が業務を就労継続支援事業所などに発注したとき、一定の基準を満たすことで法定雇用率に換算する仕組みのことです。まだ法律上は制度化されていませんが、業務を就労継続支援事業所などに発注することで特例調整金や特例報奨金が支給される制度はすでに始まっています。
みなし雇用は企業側・障がいのある労働者側双方にメリットがあり、実現されれば障がい者雇用の幅が広がります。しかし解決すべき課題やデメリットもあり、制度導入が実現するかは不透明です。みなし雇用に関心のある企業の方は、導入されるのを待つよりも、直接雇用に積極的にチャレンジする、特例子会社の立ち上げを検討するなど、現状では別のやり方を進めていくほうが現実的でしょう。
障がい者雇用については、ハローワークなどの公共機関のほか、支援サービスを提供する民間企業もあります。自社の課題を分析しながら必要な支援を受け、法定雇用率が達成できる障がい者雇用の仕組みを作っていきましょう。

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障がい者雇用率が未達成の企業向けに、まず確認すべきポイント(雇用義務の対象か、未達成の経緯)と、未達成が続きやすい原因(業務切り出し・定着フォロー・社内体制)、具体的な対策(雇用計画策定・現場連携・公的機関への相談・外部支援の活用)をわかりやすく解説。よくある質問として未達成企業の割合・業種規模別の偏り・対策検討のタイミングもカバー。
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2026年7月に実施される、民間企業の法定雇用率「2.7%」への引き上げについて徹底解説します。今回の改定により、障がい者雇用の義務対象が「従業員数37.5人以上」の企業へ拡大。引き上げの背景、雇用すべき人数の計算方法、未達成時の「納付金」や「企業名公表」のリスク、そして円滑に雇用を進めるための外部機関や支援サービスの活用法まで、人事担当者が今すぐ知っておくべき情報を網羅しました。
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