障がい者の「みなし雇用」という制度についてご存じでしょうか。
みなし雇用制度は、企業が業務を就労継続支援事業所などに発注したときに、一定の基準を満たすと、法定雇用率に換算するという仕組みです。日本ではまだ制度化されていませんが、注目されている制度です。
障がい者の雇用は難しいもの、また、人事管理、業務管理が大変と考える企業にとっては、このみなし雇用を活用したいと考えている企業もあるようです。また、障がい者の働く選択肢が広がったり、雇用の負担を感じる企業にとっても軽減されるという効果が期待されているところもあります。
一方で、企業の障害者雇用率を達成している企業は全体の5割程度です。みなし雇用制度が導入されると、直接雇用に消極的になるのではないか、企業で働く機会が減るのではないかという懸念点もあげられています。
次に、みなし雇用制度のメリットはについて見ていきたいと思います。
みなし雇用のメリットとして考えられる点がいくつかあります。
例えば、直接企業で雇用する以外の方法で雇用すること、また、障がい者が働きやすい環境で働ける可能性があること、特例調整金や特例報奨金などの助成金が支給されることなどです。これらの点について、詳しく見ていきます。
現在、企業が障がい者雇用をしているとカウントできるのは、直接障がい者を雇用していたり、特例子会社制度を用いて、子会社や関係会社で雇用している場合に限られています。しかし、みなし雇用として、企業が就労継続支援事業所などに仕事を依頼することで、法定雇用率に換算されることになれば、直接雇用以外の方法でも障がい者を雇用できることになります。つまり、みなし雇用制度を活用した法定雇用率の達成をすることができるということになります。
就職することは、障がい者の方にとって1つの目標となっていることが多いものの、企業が障がい者雇用しているとカウントできるのは、週に20~30時間以上雇用できる場合となっています。
障がい者雇用のカウント方法は、一般的に1人雇用しているとカウントするには30時間以上(重度の場合には、2カウント)、短時間で20時間以上雇用している場合には、0.5カウント(重度の場合には1カウント)となります。20時間未満の雇用では、障がい者を雇用しているとカウントすることはできません。
そのため20時間以上の働くことができない障がい者にとっては、企業に雇用してもらえる機会がぐっと減ってしまいます。2020年から特例給付金制度が設けられ、20時間未満の短時間雇用のときに支給される給付金制度が作られましたが、障害者雇用率の達成が必要な企業にとっては、雇用率につながらない雇用は、あまり魅力を感じるものでなく、ハードルが高いと言えるかもしれません。
しかし、みなし雇用で、就労継続支援事業所などで、働くことになります。企業で働くことが難しい人であっても、就労継続支援事業所などの障がいに対する配慮が示されやすい場所や、理解のあるスタッフがいる場所であれば、働けるという人もいることでしょう。
また、はじめは20時間以上の勤務が難しい場合もで、個々の障がい者にあった勤務時間から仕事ができたり、時間を調整しながら働ける体制を整えられるのであれば、働ける可能性の広がる障がい者はさらに増えるでしょう。
みなし制度があれば、従来の障がい者雇用の枠組みでは働くことが難しかった人たちにも、働く方法の選択肢が広がることになります。
障害者雇用納付金制度の中には、在宅で働いている障がい者や、または在宅就業支援団体を通して仕事を発注し、支払いをした事業主を対象に、障害者雇用納付金制度に基づいた助成金を支払う制度があります。これらは、特例調整金、または特例報奨金と呼ばれるもので、現在でもすでに適用されている制度です。
在宅就業障害者特例調整金は、障害者雇用納付金申告、もしくは障害者雇用調整金申請事業主を対象として、前年度に在宅就業障害者や在宅就業支援団体に仕事を発注し、業務の対価を支払った場合に支給されるものです。法定雇用率未達成企業については、在宅就業障害者特例調整金の額に応じて、障害者雇用納付金が減額されることになります。
また、在宅就業者特例報奨金は、報奨金申請事業主を対象として、前年度に在宅就業障害者や在宅就業支援団体に仕事を発注し、業務の対価を支払った場合に支給されるものです。
現在はみなし雇用の制度はありませんので、これらの調整金、報奨金の受給のみとなっています。しかし、みなし雇用が制度化されると、これに加えて法定雇用率にも換算することができます。
今までみなし雇用のメリットについてみてきましたが、デメリットとしてはどのようなことがあげられるのでしょうか。
障がい者雇用を企業で進めることが難しい、そのためみなし雇用で障がい者雇用を進めようという考え方をする企業が増えると、企業の直接の雇用が減ってしまうのではないかという懸念がされています。
もちろん、みなし雇用という方法で障がい者雇用の選択肢が広がることは望ましいことです。しかし、みなし雇用を利用せずに企業で直接雇用されることで、一定の収入が保障され、安定した雇用につながりやすくなることもあります。
そのため障がい者が安定して長期的に働くためには、みなし雇用よりも直接企業で雇用するほうがよい、むしろ導入することによって、企業の障がい者雇用の促進を止めてしまう恐れがあるのではないか、と慎重に考えるべきだという意見もあります。
みなし雇用制度について、どのような制度なのか、また、メリットやデメリットはどんな点なのかを考えてきました。
みなし雇用制度は、企業が業務を就労継続支援事業所などに発注したときに、一定の基準を満たすと、法定雇用率に換算するという仕組みのことです。企業で直接障がい者を雇用する以外でも、雇用率にカウントすることができるということになります。
日本では、このみなし雇用は制度化されていませんが、業務を就労継続支援事業所などに発注すると、特例調整金や特例報奨金が支給される制度はすでに始まっています。
障がい者雇用の現場では、仕事を作り出すために、社内のバックヤード的な業務や、清掃、メールの分別などを集約したり、外部に発注していた業務を社内に取り込んでいるところが多くあります。これらの方法については、効率の悪い仕事を社内に残すという見方をされたり、外部に発注するほうが企業にとってメリットがあり、経営効率に貢献するという考えもあります。また、一方で、コスト削減に役立っていると評価する企業もあります。
これらは、それぞれの企業の障がい者雇用の方針や取り組み方によって、評価は異なるものですし、もし、みなし雇用制度が導入されたとしても、その評価も企業毎によって変わるものでしょう。
現在、みなし雇用の制度については、「就労継続支援A型事業所全国協議会(全Aネット)」が、企業での就労が難しい障がい者が多様な働き方を実現することができるようにという趣旨のもと、企業での直接雇用にカウントすることや、福祉事業所等への仕事の発注を推進することを提言しています。一方、厚生労働省は、福祉的雇用から一般雇用の移行が進まなく可能性もあるので、検討していないことを明らかにしています。
みなし雇用については、すぐに結論がでて、導入されるものではないと思いますが、障がい者雇用の中で、このような議論が行われていることや、これからどうなっていくのかについては注目しておくとよいかもしれません。