障がい者の雇用創出と自立の促進は、現代社会の抱える大きな課題です。障がい者の雇用等に関する法律として、国は「障害者雇用促進法」(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)を定めています。
本記事では、障害者雇用促進法の背景や歴史、現状について、その概要をご紹介します。障がい者の雇用について考える上での基礎知識としてお役立てください。
まず、障害者雇用促進法の成立に至るまでの歴史的過程やその意義など、基本的な概要を解説します。
障害者雇用促進法が成立した背景や歴史について解説します。
障害者雇用促進法の歴史は約60年前まで遡ります。1960年、高度経済成長期を迎えた中で立案された「自立と完全雇用の達成」を目標とする経済計画や、障がい者の雇用を促進する国際的な流れを受け、「身体障害者雇用促進法」が最初に制定されました。これが現在の障害者雇用促進法の前身です。
身体障害者雇用促進法においては、事業主が雇用すべき障がい者の最低雇用率が初めて設定されました。しかし、その達成は努力目標に留まり、強制力の乏しいものでした。また、身体障害者雇用促進法は、その名の示す通り身体障がい者のみに対象を狭く限定したものでした。
しかし1976年、身体障害者雇用促進法は改正され、法定雇用率は実際に達成すべき義務として強制力を持つことになりました。合わせて雇用給付金制度が設置されました。
この制度は、障がい者の法定雇用率を達成していない企業から納付金を徴収し、それを財源として、障がい者雇用に積極的な企業に調整金や助成金を給付するというものです。
法定雇用率の義務化と雇用給付金制度は、現在の障害者雇用促進法の基本骨子でもあります。国による障がい者の雇用対策の原型はこのとき固まったのだと言えるでしょう。
その後1987年に、身体障害者雇用促進法は、現在に続く「障害者雇用促進法」へと改名され、法の対象となる障がい者の種類が拡張されます。1998年には知的障がい者が、2018年には精神障がい者が、この法の適用対象となったのです。
障害者雇用促進法は何度も改正され、事業主が障がい者を雇用する際の負担を軽減する各種助成金を設置するなど、障がい者の雇用安定化を図る取り組みが進められています。今後も社会状況の変化と共に、障害者雇用促進法の改正は続いていくことが予想されます。
さて、障害者雇用促進法の概要を辿ってきましたが、厚生労働省はこの法の目的を、「障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、職業リハビリテーションの措置等を通じて、障害者の職業の安定を図ること」と規定しています。
すなわち、障害者雇用促進法の目的とは、障がいのある人が障がいのない人と同様に、その能力と適性にもとづいて職業に就き、自立した生活を送れるようにすることにあります。そこには「共生社会の実現」が大きな理念として掲げられているのです。
また、障害者雇用促進法の第4条には、障がい者が「職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで,その能力の開発及び向上を図り,有為な職業人として自立するように努めなければならない」と書かれています。
つまり、国が目指す「共生社会」において障がい者は、自立した一人の社会人として企業や社会に貢献することが求められるのです。
障がい者が安全に働ける職場環境を整え、その能力の発揮を促すことは、労働環境の改善や人材活用の面からも企業や社会にとって大きな意義があります。
ここまでは障害者雇用促進法の概要をお伝えしてきましたが、この法の対象とはどのように規定されているのでしょうか。以下では、「雇用する企業」と「雇用される障がい者」に分けて解説します。
障害者雇用促進法では、すべての事業主に対して、規定の法定雇用率を超えて障がい者を雇用するように義務づけています。「事業主」とは、民間企業はもちろん、国や地方の自治体、各都道府県等の教育委員会も含まれます。
2024年3月までは、障がい者の雇用義務がある民間企業は45.5人以上の従業員を有する企業でした。しかし、2024年4月に法定雇用率の引き上げが行われ、現在は40.0人以上の従業員を雇用するすべての企業に障がい者の雇用が義務付けられています。
現在、障害者雇用促進法の対象(法定雇用率の算定基礎)となっている障がい者は、A)身体障がい者、B)知的障がい者、C)発達障がいを含む精神障がい者に大別できます。
ここでの注意点は、Aなら「身体障害者手帳」、Bなら「療育手帳」、Cなら「精神障害者保健福祉手帳」の所持者のみがこの法の対象となることです。これらの「手帳」を所持していない障がい者については、障がい者の雇用率の算定において数に含められません。
さらに、1級および2級の「身体障害者手帳」を持つ人は「重度身体障害者」、療育手帳の所持者のうち、児童相談所などの知的障がい者判定機関で重度と判定された人は「重度知的障害者」に区分されます。
精神障がい者については重度の区分はなく、就労可能な程度に症状が安定している方に限られます。事業主としては、障がい者の雇用率を計算する際にまず、各種の「手帳」の有無を確認することから始めるといいでしょう。
障害者雇用促進法は、企業に対して以下の4つの義務を課しています。
それぞれ詳しく解説していきます。
障害者雇用促進法では、企業が障がい者を雇用しなくてはいけない割合として、法定雇用率を定めています。
法定雇用率は5年おきに見直しがおこなわれます。直近では2023年4月に見直しがおこなわれ、2026年までの段階的な引き上げが決定しました。
それまで2.3%だった法定雇用率は2024年4月に2.5%に引き上げられ、さらに2026年7月には2.7%に引き上げられることが決まっています。
2024年10月現在は従業員数40.0人以上、2026年7月以降は従業員数37.5人以上のすべての企業が、法定雇用率以上の障がい者を雇用する義務を負うことになります。
雇用の分野において、障がいを理由とした差別的扱いは禁止されています。例えば、「バリアフリーに対応していない職場環境だから車いすを使用している方は採用しない」という考え方は差別にあたります。企業は、障がいの有無ではなく、個々人の能力に基づいて平等に雇用の機会を与えなくてはなりません。職場内の施設利用や福利厚生などに障がいを理由とした制限をかけることも差別にあたるため、禁止されています。
また、障がい者を雇用する企業は、障がい特性によって起こり得る支障を改善するための合理的配慮を提供しなくてはいけません。例えば、車いすを使用している方に合わせて床のコード類の配線を変える、机の高さを調整するなどが合理的配慮にあたります。また、耳からの情報の処理が苦手な方に対して図や文書を用いた説明をおこなうことも合理的配慮の一例です。これらは障がいのある方が働くうえで必要とされる配慮であり、企業はこれを求められた場合、または必要と考えられる場合には、適切に提供する義務があります。
障がい者を雇用する義務のあるすべての企業は年に一度、障害者雇用状況報告書を提出する必要があります。これは、毎年6月1日時点での障がい者雇用状況を7月15日までにハローワークに提出するもので、ロクイチ報告とも呼ばれています。ここでの報告結果がまとめられたものが毎年、障害者雇用状況の集計結果として報告されており、そこで全国の障害者雇用率が発表されます。
ロクイチ報告は、仮に障がい者の雇用人数が0人であっても、雇用義務のあるすべての企業が提出しなくてはいけません。
障害者職業生活相談員(以下相談員)とは、企業が雇用した障がい者の職業生活全般の相談役や指導役を担う企業内の担当者のことです。障がい者の職場定着と十分な能力発揮の実現を目的としています。具体的には、障がい者への業務の割り当てに加え、業務内容・職場環境・人間関係・余暇活動に関する相談を受けたり、指導をおこなったりします。
実人員で常時5名以上の障がい者を雇用する企業は、5名以上の障がい者を雇用した時点から3ヵ月以内に相談員を選任しなくてはなりません。選任後はすみやかにハローワークへ障害者職業生活相談員選任報告書を提出しましょう。
それでは、企業が障がい者を雇用する際に気をつけるべきポイントとしてはどのようなことが考えられるでしょうか。以下では、障がい者を雇用する企業がすべき主な注意点を解説していきます。
2024年4月に法定雇用率の引き上げが行われました。障害者雇用促進法が定める法定雇用率は、民間企業が「2.5%」、特殊法人や国・地方の自治体は「2.8%」、教育委員会が「2.7%」です。
この割合にもとづき、民間企業ならば40.0人以上の従業員を有する事業主は1人以上の障がい者を雇用する義務を負います。
この雇用率の計算は、「週30時間以上の常用労働者が1」、「週20時間以上30時間未満の短時間労働者が0.5」として為されます。法令上、障がい者を何人雇用すべきかは、「常用労働者数+(短時間労働者数×0.5)×法定雇用率」で求められます。
つまり、単純な人数として40人以上の従業員がいても、そのなかに短時間労働者が含まれている場合には、障がい者雇用の算定の基準となる従業員数は変わってくるということです。
自身の企業に障がい者雇用義務があるかどうか知りたい方は、常用労働者数と短時間労働者数を分けて計算し、40人以上になるかどうかを確認しましょう。計算の結果、40人以上の従業員を雇用している企業は、その人数に2.5%をかけることで、雇用しなくてはいけない障がい者の方の人数を求めることができます。
出典:厚生労働省|事業主のみなさまへ 障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について
各事業主に定められた法定雇用率や、その計算方法については「法定雇用率とは?障害者雇用率制度の現状、今後の動向や計算方法、除外率などを解説」の記事をご覧ください。
障がい者の雇用率の算定においてはいくつかの点に気をつける必要があります。というのも、障がいの種類や程度によって算定基準に違いが生じるからです。
まず、重度身体障がい者及び重度知的障がい者は、1人で2人分としてカウントされます。つまり、常用雇用なら2人、短時間雇用なら1人分として計算されます。
2024年4月より、短時間労働者よりもさらに短い時間で働く「週所定労働時間20時間未満」の労働者のうち、精神障がい者と重度身体障がい者、重度知的障がい者については0.5人として算定することが可能になりました。
精神障がいのある労働者には算定特例があり、当面の間、本来なら0.5人とされる「週所定労働時間20時間以上30時間未満」の短時間労働者であっても1人として算定できます。
また、すでにお伝えしたとおり、法改正に伴い、2024年4月1日以降、障がい者の法定雇用率が引き上げられていることにも注意が必要です。民間企業の場合は2.5%が最低雇用率となったため、40.0人以上の規模の企業には障がい者の雇用義務が発生しています。
これまで雇用義務の対象外だった企業であっても、この引き上げによって雇用義務が発生している可能性があるため、確認してみてください。
出典:厚生労働省|事業主のみなさまへ 障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について
出典:厚生労働省|精神障害者の算定特例の延長について
障がい者の雇用状況が上記の法定雇用率に満たない場合、障害者雇用納付金の納付義務が生じます。この納付義務は常用労働者が101人以上の企業に課せられ、法定雇用率に照らして、「不足する障がい者数1人につき毎月5万円」を国に納付する必要があります。この納付金は障がい者を積極的に雇用する企業に分配される調整金や助成金などの財源になります。
納付金制度については、「障害者雇用納付金制度とは?雇用調整金や助成金の種類についても解説」をご確認ください。
障がい者の法定雇用率を達成している企業には、調整金や助成金が支給されます。まず、常時雇用労働者数が 101名以上で、法定雇用率を超過した企業には「1人につき毎月2万9千円」の調整金が支給されます。
また、障がい者を多数雇用する中小企業には別途報奨金が支給されます。常用雇用労働者数が100人以下の中小企業で、「障がい者の雇用率が4%を超える場合、もしくは障がい者の雇用人数が義務数より6人を超える場合」、超過1人あたり2.1万円が報奨金として支給されます。
さらに、障がい者を雇用するにあたって特別な措置を講じる場合、その経済的負担に対して助成金が支給されます。例えば、障害に配慮した作業施設の設置や整備を行ったり、重度障がい者の雇用管理のために職場介助者を手配したり、などが挙げられます。
その他、障がい者を雇用したことがない事業主向けの「障害者職場実習支援事業」など、企業が障がい者を雇用しやすいように各種の助成が設置されています。障がい者が働きやすい職場づくりのために積極的に活用するといいでしょう。
障害者雇用促進法は現在でも法改正が積極的に進められ、2023年4月にも新たな内容が盛り込まれました。下記では、今回の改正内容がどのようなものかを解説します。
2023年4月の改正では、障がい者の職業能力の開発が事業主の責任のもとにあることの明確化や、多様なニーズを踏まえた障がい者の働き方の推進、企業による職場環境の整備のための助成金などの内容が盛り込まれました。
それらを実現していくための施策が、2023年4月以降順次施行されています。ここでは、企業に特に関わる4つの改定項目をご紹介します。
それぞれ詳しく解説します。
障害者雇用促進法では、障害者雇用率について少なくとも5年ごとに見直しを行うことが以前から定められています。そのため、2018年に2.3%への引き上げが行われてから5年が経った2023年のタイミングで、法定雇用率の再設定が行われました。
検討の結果、社会情勢などを踏まえ、2023年からの一般企業の障害者雇用率は2.7%と設定されました。ただし、企業が計画的に対応できるよう、2.7%にむけて段階的に引き上げられることとなりました。
具体的には、以下のようなスケジュールで一般企業の法定雇用率の引き上げが行われる計画が立てられました。
2024年4月に2.5%への引き上げが実施されたため、次の引き上げは2026年になります。その後、2023年から5年が経過する2028年に、その時代の状況を踏まえて法定雇用率の再設定が行われる予定です。
また、国と地方公共団体などは3.0%、教育委員会は2.9%に向けて、一般企業と同様に段階的な引き上げが行われています。
2024年3月まで、週所定労働時間が20時間未満の労働者は、たとえ障がい者として雇用していたとしても、障がい者雇用率の算定はできない制度でした。しかし、週に20時間働くためには、土日休みとした場合、平日1日4時間を毎日働かなくてはなりません。障がい特性により長時間の勤務が難しい方もいるため、そういった方々はこれまで特に労働の機会を得にくい状況がありました。
2023年の法改正ではこの点に着目し、長時間勤務に困難のある障がい者の雇用機会を増やすための改定が行われています。具体的には、2024年4月1日より、精神障がい者、重度身体障がい者、重度知的障がい者で、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の「特定短時間労働者」について、実雇用率上0.5人としてカウントできるようになりました。
なお、2024年3月31日までは特定短時間労働者を雇用している企業に対し特例給付金が支給されていましたが、雇用人数算定方法の変更にともない、2024年4月1日からは廃止されています。
労働者数が100人を超える企業に対しては、法定雇用率を超えて雇用している障がい者の人数に対して「障害者雇用調整金」が支払われます。また、労働者数が100人以下の企業において各月の雇用障がい者数の年度間合計数が一定数を超えている場合、超えている人数に対して「報奨金」が支払われます。
2023年の改定では、この調整金・報奨金の見直しが行われました。具体的には以下のように調整されています。
上記の内容を表にまとめると、以下のとおりです。
2023年3月31日まで | 2023年4月1日から | 2024年4月1日から | |
---|---|---|---|
調整金 | 1人あたり2万7,000円/月 | 1人あたり2万9,000円/月 | 支給対象人数10人以下:1人あたり2万9,000円/月 支給対象人数10人を超えた分:1人あたり2万3,000円 |
報奨金 | 1人あたり2万1,000円/月 | 変更なし | 支給対象人数35人以下:1人あたり2万1,000円/月 支給対象人数35人を超えた分:1人あたり1万6,000円 |
調整金、報奨金のどちらにおいても、支給人数が基準よりも多い企業に対して、超過している人数1人あたりの支給額を減額調整しています。
調整金・報奨金は、企業が障がい者を雇用する際に必要となる費用の助成という立ち位置で支給されてきました。しかし、企業の障がい者雇用の実態として、障がい者雇用人数が増えるほど雇用に要する1人あたりの費用負担は小さくなるという傾向にあります。それを踏まえて、一定の基準以上の障がい者を雇用している企業に対しては、超過分の人数に対する費用補助を減額して調整することになったのです。
調整金・報奨金を減額調整したことによって生まれた財源は助成金の充実に充てられ、事業主支援の強化を目指しています。
出典:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構|障害者雇用納付金制度の概要
出典:厚生労働省|障害者雇用調整金・報奨金の支給調整について
あらゆる立場の障がいのある方が雇用の機会を得やすくなるよう、障害者雇用納付金助成金の新設と拡充が行われました。
まず、加齢により職場に適応することが難しくなった35歳以上の障がい者の雇用継続のために、以下の助成が拡充されました。
また、助成金のわかりやすさなどを考慮し、障害者介助等助成金のメニューの整理や拡充を実施しました。これにより、事務仕事以外を行う視覚障がい者のための支援員など、それまで助成金支給の対象外だった介助者の配置も助成の対象となりました。
さらに、職場適応援助者助成金の増額、重度障害者等通勤対策助成金の拡充などを通して、障がいのある方が働きやすい職場環境を企業が整備しやすいにようにしています。
その他、中小企業等に対して採用や雇用管理に関する相談援助の事業を行う者への助成金(障害者雇用相談援助助成金)も創設されました。
国は長年、雇用施策と福祉施策を連携させながら障がい者就労支援に取り組んできました。その取り組みにより、障がい者雇用は着実に発展してきています。
障がい者雇用が発展するにつれ、多様な障がいをもつ方々が就職を志す時代になってきました。また、働き方の多様化や障がい者就労を取り巻く状況の変化、あたらしい生活様式の定着を見据えた取り組みなどにより、障がい者雇用の可能性は広がっていくことが予想されます。
一方、雇用施策と福祉施策の縦割り制度による弊害や、制度の谷間に陥って支援を受けられていない障がい者の存在など、さまざまな課題が残っています。障がい者がより働きやすい社会の実現のため、障がい者就労支援のさらなる充実と強化は必須とされ、課題解決に向けた具体的な対応策を検討していく必要が生じています。
そこで、2019年7月、厚生労働省において「障害者雇用・福祉連携強化プロジェクトチーム」が発足。障がい者就労支援のさらなる充実と強化に向けた課題の整理と今後の検討についての議論を重ねました。2020年11月からは、より具体的な施策を検討するため、それぞれの施策の有識者などを構成員とした「障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会」を開催。2021年6月にその報告書が提出されました。
この報告書をふまえ、障がい者の職業能力の開発や向上が事業主の責務であることの明確化、障がい者の多様な就労ニーズを踏まえた特定短時間労働者や精神障がい者の雇用率算方法の改定、企業による障がい者就労環境の整備などのための助成金の拡充などを盛り込み、障害者雇用促進法が改正されたのです。
障害者雇用促進法は2023年以前にも何度か改正を重ねてきました。
障害者雇用促進法の前身となる身体障害者雇用促進法が制定されたのは1960年ですが、このときの対象は身体障がい者に限られ、法定雇用率もあくまで努力目標として設定されていました。1976年には1.5%の法定雇用率の達成義務がスタートしましたが、この時点でもまだ対象は身体障がい者のみでした。障害者雇用促進法に名前が変わった1987年に対象が発達障がい者にまで拡充。さらに、知的障がい者は1998年に、精神障がい者は2018年に雇用が義務化されました。また、この間に法定雇用率は10~15年ごとに引き上げられてきました。
2020年の改正では、優良事業主の認定制度(もにす認定制度)の制定、特例給付金の設置、国および地方公共団体の障がい者雇用の促進への措置などが決定しました。日本の障がい者雇用制度の法律は60年以上の歴史のなかで改正を重ねており、共生社会の実現のため、これからも改正が続けられていくでしょう。
障害者雇用促進法においては、雇用義務に違反した場合、主に以下のように罰則を設け、法令の遵守を図っています。
従業員が45.5人以上の企業は、毎年6月1日時点の障がい者の雇用状況をハローワークに報告する義務があります。事業主がこの報告義務を果たさなかった場合、あるいは虚偽の報告をした場合は30万円以下の罰金が科せられます。
法定雇用率が未達成の事業主には、納付金の納付義務のほか、ハローワークから、障がい者の雇用に関する計画書の提出命令や、その計画の実施についての勧告等が為されます。これらの勧告に不当に従わなかった場合、企業名の公表も含めた特別指導が入ります。企業名の公表は社会的信用を低下させますので、指導が入ったら速やかに改善に努めましょう。
ここまで、障害者雇用促進法に関する大まかな概要を解説してきました。法律を遵守しつつ障がい者雇用を行うためには、しっかりとした雇用計画を立てることが求められます。
まず考えられるのは、職場環境の見直しです。雇用する障がい者の特性に応じて配慮すべきことは変わりますが、職場設備の整備や通勤への配慮、障がいの特性に配慮した業務分担などが挙げられます。必要に応じてハローワークやジョブコーチなどの意見も求め、助成金なども利用しながら、障がい者の働きやすい環境を整えることが大切です。
また、障がい者雇用の意義について企業全体でしっかり理解する必要があります。ここの意識が薄いと、雇用する障がい者を法定雇用率の達成のための単なる数合わせ要員として扱うことになりかねません。障がい者が従業員の一員として能力を発揮できるように、職場全体が一丸となって障がい者の雇用問題に高い関心を持ち、取り組んでいくことが求められます。
今回は障害者雇用促進法について、その成立や改正の背景から、実際に障がい者を雇用する際に気をつけるポイントまで、基本的な内容を解説してきました。
企業としてはまず法令を遵守し、規定の法定雇用率を充足することが求められますが、それだけでは十分ではありません。障がい者を職場に受け入れ、能力を十全に発揮してもらうには、職場環境の整備や当の障がい者に対する他の従業員の理解が必要です。
障がい者の雇用支援についてはここで記載した以外にも多くの助成があります。それらも活用しながら、障がい者の雇用対策に努めていきましょう。