障がい者を雇用する場合、障がい者はどれくらいの給与を受け取っているのでしょうか。「障害者雇用実態調査結果」に障がい別の給与の調査結果がありますので、そこから見ていきましょう。
まずは、一覧で平均給与を確認してみましょう。
身体障がい者 | 知的障がい者 | 精神障がい者 | |
---|---|---|---|
平均賃金 | 215,000円 | 117,000円 | 125,000円 |
30時間以上労働 | 248,000円 | 137,000円 | 189,000円 |
20時間~30時間労働 | 86,000円 | 82,000円 | 74,000円 |
20時間未満労働 | 67,000円 | 51,000円 | 51,000円 |
身体障がい者の1ヵ月の平均賃金は、21万5千円(超過勤務手当を除く所定内給与額は20万4千円)です。
週所定労働時間別にみると、通常(30時間以上)が24万8千円、20時間以上30時間未満が8万6千円、20時間未満が6万7千円となっています。
知的障がい者の1ヵ月の平均賃金は、11万7千円(超過勤務手当を除く所定内給与額は11万4千円)です。
週所定労働時間別にみると、通常(30時間以上)が 13万7千円、20時間以上30時間未満が8万2千円、20時間未満が5万1千円となっています。
精神障がい者の1ヵ月の平均賃金は、12万5千円(超過勤務手当を除く所定内給与額は12 万2千円)です。
週所定労働時間別にみると、通常(30 時間以上)が 18万9千円、20時間以上30時間未満が7万4千円、20時間未満が5万1千円となっています。
出典:厚生労働省「平成30年度障害者雇用実態調査結果」
障がい別の給与についてみていきました。年収については、実態調査からは出ていませんが、月額給与を12ヶ月かけたものに、賞与(企業、業績により異なる1ヶ月~4ヶ月程度)をあわせたものが見込まれます。
障がい者雇用枠で就業するには、原則として障害者手帳を所有している必要があります。
一般雇用と障がい者雇用の給料を単純に比較すると、一般雇用者の給与が高くなります。それは、障がい者雇用される場合の多くが、職種が限られており、専門性やスキルの求められることが少ない仕事内容に携わることが多いからです。
一方で、障がい者雇用をしている企業の多くは、職場環境の整備、障がい特性に配慮したツールの導入、人材確保などで一般の職場よりも、働く環境を配慮していることが多くあります。しかし、障がい者にとってこれらの配慮がされることは、働きやすい環境が提供されることにつながりますが、企業にとってはコストがかかることになります。
障がい者が働き方の方法としてあるのが、障がい者であることをオープンにして就職する方法と、障がい者であることを就職先に伝えないで、一般求職者と同じ条件で就職するクローズの方法です。障がい者雇用と一般雇用のメリットとデメリットの差が、給与の差につながっています。
障がい者雇用で働くメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
障がい者雇用で働くデメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
一般雇用で働くメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
一般雇用で働くデメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
オープン就労とクローズ就労、障がいの種別ごとの就労のポイントは、以下の記事で詳しく解説しています。
障がいのある方が就職する際のポイントとは?
障がい者雇用の給料については、配慮と処遇のバランスを理解した上で決めていく必要がありますが、具体的にはどのように決めていけばよいのでしょうか。
基本的には、一般雇用枠での給与体系と同じ考え方で決めていきます。つまり、企業の賃金体系をもとに、労働条件と業務にあわせて決定していきます。
給料を決める上で、主にポイントとなる点は次の点です。
正社員、嘱託、期間雇い、パートタイム雇用など
労働時間、業務内容、勤務場所、勤務体系、合理的配慮の提供内容、社会保険の加入、企業年金・退職金、賞与
一般的な労働市場を見ても、正規社員と非正規社員の給料を比べると、非正規社員の給料が低くなっています。障がい者雇用で働く人の内訳を見ると、この給与が低い非正規雇用で働いている人が多いということが、障がい者雇用の給料を低くしている原因の一つとなっています。
「平成30年度障害者雇用実態調査」を見ると、障がい者数82万1,000人(従業員規模が5人以上の事業所に限定)のうち、正規雇用されている割合が示されています。これによると、身体障がい者は52.5%、知的障がい者は19.8%、精神障がい者は25.5%、発達障がい者は22.7%です。つまり、身体障がいは半分ほど、知的障がいは8割、精神・発達障がいは7.5割の人が非正規社員ということになります。
また、障がいの特性上できる仕事の範囲に制限があるということも、給与を低くする原因となっています。障がい者雇用で働くということは、特性上、何らかの配慮を求めることが多く、一般雇用と比べると、仕事内容や勤務時間などで制限もあります。仕事にさまざまな制限がかかることにより、昇進や昇格、給与アップが見込みづらくなってしまうのです。
障がい者雇用での職種を見ると、事務補助や清掃、軽作業などの業務が多く、これらの職種は一般雇用でも給与は高くありません。
障がい者雇用の職種については、以下の記事で解説しています。
障がい者雇用にはどんな仕事がある?職種や雇用形態について解説
日本の労働において、最低賃金を定める法律(最低賃金法)が設けられています。そのため、障がい者雇用においても、この最低賃金を遵守する必要があります。
最低賃金とは、最低賃金制度によって定められている1時間あたりの賃金で、国が賃金の最低限度を決めるものとされています。これには、割増賃金や精皆勤手当、通勤手当、家族手当などは含まれていません。
最低賃金をクリアしているかどうかは、時給制で支払われる場合はわかりやすいですが、月給や日給、出来高払い制などでの支配になっているときには、時間に換算して時給を算出して見ていく必要があります。
例えば、月給や日給の場合には、基本給を所定労働時間や平均労働時間で割り算して求めることになりますし、出来高払い制やその他の請負制の場合には、当該賃金計算期間に労働した総労働時間数で賃金を割り算して求めることになります。
なお、地域別最低賃金は、都道府県別に定められており、産業や職種にかかわらず、すべての労働者と使用者に適用されるものです。具体的にいくらになるかは、下記のような要素から総合的に判断されます。
それぞれの地域の最低賃金については、厚生労働省のサイトなどからご確認ください。
地域別最低賃金の全国一覧(厚生労働省)最低賃金制度には、減額の特例許可制度があります。減額特例があるのは、労働能力が基準に達していない場合に、労働者の雇用機会が減らさないようにするためです。
減額特例が認められるのは、次のようなケースです。
障がい者雇用をするときにも適用されることがありますが、減額特例の許可を受けるには、事業所がある管轄の労働基準監督署に許可申請書を提出する必要があります。
また、減額特例が許可された場合でも、許可された業務以外の業務を行う場合は、一般の労働者と同じ最低賃金額が適用されるため、適切な賃金を支払う必要があります。
減額特例許可は申請すれば許可されるというものではなく、減額する理由を明確にし、どのくらい減額するのかを明らかにする必要があります。
事業主が、ある労働者の労働能力が低いと思うだけでは、減額は許可されません。障がい者が手帳を持っている場合は、その手帳の写しや、業務遂行に対する支障があることを示すことが求められます。客観的な視点からの情報が必要になるので、例えば、同じ職場で同じような業務を行っている人と比較するなどです。
障がい者の賃金も一般雇用と同じように賃金体系、労働条件によって決められるものです。最低賃金を確認し、法律や現状に合った障がい者の給与を決めることが大切です。
給与制度のことで悩んだら、障がい者雇用の状況は地域によって違いますので、地域のハローワークや労働局に聞いてみるとよいでしょう。
障がい者の給料や最低賃金法、減額特例許可制度について、解説してきました。
障がい者の給料は、一般的な給料よりも低いことが多いですが、障がい者雇用をされる場合の多くが、職種が限られており、専門性やスキルの求められることが少ない仕事内容に携わることが多いからです。また、企業では、障がい者を雇用する場合に、働きやすい環境を提供するため、コストがかかることも少なくありません。
最低賃金法、減額特例許可制度などについても知った上で、それぞれの企業における賃金体系を検討するようにしてください。