世界的に関心が高まっているダイバーシティ経営。自社にこの経営戦略を取り入れたいと考える企業が増えています。
ダイバーシティ経営は、企業の持続的な成長を図るうえで重要な取り組みですが、実践の過程でさまざまな課題に直面するケースが多々あります。今回は、ダイバーシティ経営で企業がぶつかりやすい壁とその解決のヒントを解説します。
「ダイバーシティ(diversity)」とは、多様性を表す言葉で、 さまざまな人材が活躍できるようにする考え方です。 ここでいう多様性には、性別、年齢、人種、障がいの有無だけでなく、人生観や宗教的な考え方、性自認や性的指向など、目には見えにくい違いも含まれます。
こうした多様性を企業経営に活かすことを、「ダイバーシティ経営」と呼びます。
経済産業省はダイバーシティ経営を、「多様な人材が力を発揮し、イノベーションや価値創造につなげる経営」と定義しています。今、世界的にこの考え方が重視されており、日本でも関心が高まっています。
ダイバーシティ経営について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
企業の持続的な成長のためにぜひとも推進したいダイバーシティ経営。しかし、実践の段階になって課題に直面してしまうケースも少なくありません。
ここでは、ダイバーシティ経営で直面しやすい代表的な4つの課題を解説します。
ダイバーシティ経営の実現には多様な人材を採用するだけでは不十分であり、多様な人材を活かすための環境の整備や仕組みづくりが欠かせません。しかし、これこそがダイバーシティ経営の一番の難しさでもあります。
画一的な業務やスキームは一見わかりやすく感じますが、多様な人材がいる環境においては、すべての従業員にフィットしない場合もあります。あらゆるバックグラウンドをもつ人材が活躍するためには、それぞれの特性に配慮した環境の整備や仕組みづくりが必要となります。
具体的には、時短勤務やリモートワークなどの柔軟な働き方で能力を最大限発揮できる環境をつくることや、個々のキャリアや強みに即した業務を割り当てることなどが挙げられます。
ダイバーシティ経営は現場にまつわる取り組みと考えられがちですが、それ以上にマネジメント層の理解・意識改革が非常に重要です。
ダイバーシティ経営が成功するかどうかは会社の風土によって異なります。その風土は経営陣の考え方や振る舞いの影響を強く受けるため、ダイバーシティ経営の成否の鍵はマネジメント層が握っていると言っても過言ではないでしょう。
しかし、ダイバーシティ経営は比較的新しい考え方であるため、経営陣が自ら学び、考え方をアップデートする必要があり、浸透させるまでに時間がかかるケースもあります
多様な人材が活躍する組織で見直す必要があるのが、評価制度や人事制度です。
それぞれが個の能力を発揮できる環境を目指すダイバーシティの現場では、一律の評価基準では適切に能力を評価することが難しく、環境に即した評価制度が求められます。これらの制度の整備が追いつかないと、従業員が能力を十分に発揮できなかったり、既存の評価軸にとらわれてパフォーマンスが落ちてしまったりして、ダイバーシティ推進の効果を十分に得られない恐れがあります。
ダイバーシティ経営では、お互いの違いを認め合いながらそれぞれが存分に能力を発揮できることが理想です。
しかし、価値観や考え方の違いが大きかったり、お互いを理解する意識が低かったりすると、すれ違いや誤解が生じやすくなります。そうした要素は、職場のストレスやトラブルの原因になりかねません。
この状況を回避するためには、ダイバーシティ経営に対する正確な知識をもち、現場を監督する人材の配置が効果的です。
ダイバーシティ経営にはさまざまな課題があります。その課題を解決しないまま推進すると、逆効果になってしまう場合があります。
ここでは、ダイバーシティ推進で生じやすい問題点と、予想される具体的な失敗事例を解説します。
ダイバーシティ経営に取り組む際は、まず多様な人材を採用することから始めることになりますが、多様な人材を採用するだけではダイバーシティ経営は実現しません。
制度や環境の整備が伴わない取り組みは、現場でのすれ違いや不満感の増幅につながり、人材の流出など負の影響につながる恐れがあります。ダイバーシティ経営の本質は多様な人材がそれぞれの能力を発揮できるようにする点にあることを忘れてはいけません。
ダイバーシティ経営では、働く人それぞれの事情に応じた働き方を柔軟に認めることも大切です。例えば、子育てや介護中でも働きやすいように時短勤務やリモートワークを認めたり、障がいのある方に合理的配慮を提供したりすることが挙げられます。これらはダイバーシティ経営において欠かせない取り組みです。
しかし、制度を利用しない従業員が不公平感を抱くこともあります。「自分だけ負担が増えている」と感じる状況が続くと、不満につながる可能性があります。 お互いに認め合い、フォローし合い、高め合う文化ができていない場合、この問題は深刻化します。
ダイバーシティ経営の大きなメリットは、多様な人材の活躍により新たな価値の創出やイノベーションが生み出されることです。しかし、企業の目標の明確な提示や、その目標を達成する意欲が社内に育っていないと、組織の一体感は損なわれてしまいます。
これを防ぐためには、経営陣を含めた会社全体の風土づくりが必須です。風土づくりやインクルージョン教育が不十分だと、従業員が同じ方向を向けず、企業の成長は見込めなくなってしまうでしょう。
ダイバーシティ経営は、現場だけの取り組みだけではなく、経営方針として会社全体で推進していかなければならない取り組みです。
例えば、近年、多様性の実現として女性管理職を登用し、企業の抱える問題の解決や業務の遂行に新たな視点を導入しようとする企業が増えています。しかし、女性の管理職の登用が形骸化し、登用しただけで活躍の場が少ないケースも少なくありません。名前だけの登用ではなく、管理職としての権限をもたせ、のびのびと活躍できるようにしなければ、本当の意味での多様性とは言えません。
外国籍の方を積極的に採用することもダイバーシティの観点からいえば有効です。しかし外国籍の方は、言語や宗教、生活習慣に違いがあることも多く、雇用後のフォローが求められます。このフォローが不十分な場合、定着率の低下につながります。
こうしたことから、経営戦略として掲げた方針と実際の運用の間にギャップが生まれる問題も発生しています。
ダイバーシティ経営における課題を乗り越えるためにはいくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。ここでは、特に押さえておきたい4つのポイントを解説します。
ダイバーシティの推進は現場の課題と捉えられがちですが、実際には経営層の姿勢が大きく影響します。なぜなら、多様性の根幹は組織の文化や風土にあり、それを形成するのは経営層の方針や価値観だからです。
したがって、まずは誰よりも経営層がダイバーシティ推進に強い意志を持ち、先頭に立って取り組む姿勢を示すことが大切です。トップとして社内外に明確なメッセージを発信したり、人事制度の見直しなどを通じて多様性を重視する方針を経営戦略に組み込んだりして、全社的な意識改革を促すことが欠かせません。
さらに、現場で進められるダイバーシティ推進の取り組みを経営層が確認する姿勢を持つことも重要です。
ダイバーシティ経営は企業風土を変える取り組みであり、単純に数値だけで評価できるものではありません。しかし、組織として明確な目標や指標を設定することは、経営の方向性を示すうえで非常に重要です。
たとえば、取締役会や執行役員に占める女性の割合、採用時の男女比、育児休業の取得率(男女別)、外国籍従業員の人数、障がいのある社員の雇用率など、多様性を測るための指標は多数あります。こうしたデータを基に具体的な到達点を定めることで、組織全体の意識を共有しやすくなります。
ただし、ここで注意したいのは、数字はあくまで目安である点です。数値の達成を目的化してしまうと、形だけの取り組みに陥る恐れがあります。ダイバーシティ経営の本質を忘れないようにしながら、データをうまく活用し、組織文化そのものの変革につなげていくことが求められます。
日本企業は同質性が高く、そのことがインクルージョンの欠如に繋がっているという指摘があります。インクルージョンとは包括や包含といった意味をもつ言葉ですが、ダイバーシティ経営においては、整備された制度を組織全体で活用できる風土のことを指します。
ダイバーシティ経営を効果的に推進していくためには、経営陣を筆頭にインクルージョンの視点をもつことが欠かせません。そのためには、社内での学習会や講師を招いた講演会などを実施し、経営陣から現場まで一貫した理解を深めることが重要です。
企業風土の変革は、全社を挙げて取り組まなければ実現しません。ダイバーシティ経営におけるインクルージョンの重要性とその実現方法の理解を、足並みを揃えて深めることが求められます。
ダイバーシティ推進の最終的な目標は、経営上の成果につなげることです。成果としては以下のようなものが考えられます。
これらのうち、①と②は企業の利益に直接的な効果を与えるもの、③と④は間接的な効果を与えるものです。いずれも、企業の長期成長につながります。これらを実現するためにどのような仕組みを作るべきか考えると、推進の道筋も作りやすくなるでしょう。例としては、社員の能力に応じて適材適所で配置することや、業務の割り振りを工夫することなどが考えられます。
ダイバーシティ経営は、人材不足や障がい者雇用など、企業の抱える課題を解決する有効な経営戦略であり、企業の長期成長に欠かせない取り組みです。しかし、比較的新しい考え方であり、具体的な手順やノウハウが十分に浸透していません。ダイバーシティ経営に課題点や問題点を抱える企業が多い背景にはそうした要因もあるでしょう。
経済産業省などではダイバーシティ経営に役立つ資料やデータが数多く公開されています。こうした情報を参考にしつつ、本記事で解説したポイントも押さえて取り組みを進めることで、ダイバーシティ経営の推進を図っていきましょう。
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この記事では、「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」の基本的な意味から、DE&Iとの違いまでを解説します。労働人口の減少やイノベーション創出といった社会的な背景からD&Iがなぜ重要視されるのか、そして企業がD&Iに取り組むことで得られる人材不足の解消や企業ブランド向上などの具体的なメリットを掘り下げます。さらに、D&Iを推進するための具体的な取り組み例と、実践的な5つのステップを紹介します。
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障がい者を雇用することは企業の果たすべき責任として義務付けられており、法定雇用...
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この記事では、企業経営において重要性が増している「ダイバーシティ(多様性)」について、その基本的な意味から、なぜ今注目されているのかを解説します。ダイバーシティを推進することが企業にもたらす具体的なメリットや、推進する上での課題、そして実際に取り組むためのポイントを分かりやすくまとめています。