2022年以降、障害者雇用政策では、雇用人数の確保だけでなく、障がいのある方の能力発揮や成長、雇用の安定といった「雇用の質」も、より重視されるようになっています。
農園やサテライトオフィスなど、(企業本社とは異なる就業場所を活用する)障害者雇用支援サービスについても、その運用のあり方をめぐり、さまざまな議論が行われています。
本記事では、2022年から現在に至る政策の流れを整理した上で、エスプールプラスがどのように捉えているかをお伝えします。
障害者雇用をめぐっては、法定雇用率の達成に向けた雇用人数の確保が重要な課題とされる一方、
障がいのある方が雇用後にどのように能力を発揮し、活躍し続けられるかについても、より一層重視する必要性が指摘されるようになりました。
こうした中、2022年6月に取りまとめられた労働政策審議会障害者雇用分科会意見書では、「雇用の数に加えて、障害者が個々に持てる能力を発揮して活き活きと活躍し、その雇用の安定につながるよう、障害者雇用の質を向上させることが求められる」との考え方が示されました。
こうした議論を受け、2022年12月に障害者雇用促進法が改正され、2023年4月に施行されました。
事業主の責務として、従来からの「適正な雇用管理」等に加え、「職業能力の開発及び向上」が明記されました。
雇用人数の確保に加え、障がいのある方の能力発揮や成長を支えることまで、事業主に求められる役割が法律上明確になった転換点といえます。
2023年4月、第128回労働政策審議会障害者雇用分科会において、農園やサテライトオフィスなどの就業場所や業務を提供する障害者雇用ビジネスについて、厚生労働省による実態把握の結果が初めて公表されました。
この実態把握では、23事業者、125か所の就業場所、利用企業1,081社以上、就労者6568人以上を確認しています。
大部分について明らかな法令違反は確認されなかった一方、利用企業による雇用管理や、支援事業者によるサービス提供のあり方について、疑義のある事例も報告されました。
同年6月には「障害者が活躍できる職場づくりのための望ましい取組のポイント」がリーフレットとして公表され、雇用主が主体となり、
の重要性が示されています。
こうした実態把握や、リーフレットでは、主に次のような課題意識が示されています。
障害者雇用の質や雇用率制度の在り方をめぐる議論が進む中、厚生労働省は2024年12月、「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」を設置しました。
研究会では、障害者団体・支援関係者・企業団体等へのヒアリングを実施しながら、主に次の2つのテーマで議論が進められました。
なお、法定雇用率が2024年4月から段階的に引き上げられる中、企業にとって障害者雇用数の確保が一層重要な経営課題となっています。
こうした状況を背景に、障害者雇用ビジネスへの参入や利用も拡大しており、厚生労働省が把握した事業者数は、2023年3月末の23事業者から、2025年10月末には46事業者へと倍増しました。
サービスを利用して働く障がいのある方も、約6,600人から約11,100人へ増加しています。
こうした市場の拡大を踏まえ、行政が利用実態を把握し、適正なサービス運営と雇用の質をどのように確保するかが、研究会における重要な論点となりました。
2026年2月6日、厚生労働省の研究会報告書が公表されました。
報告書では農園やサテライトオフィスなどを活用した障害者雇用ビジネスを一律に禁止する方向ではなく、雇用の質の向上と適正な運用の確保に向け、利用実態の把握やガイドラインの整備等について、今後さらに検討を深めていく方向性が示されました。
主な検討内容は次の4点です。
報告書では、「雇用の質」として特に重視すべき5つの要素を法令上に明示するとともに、事業主が障害者雇用の質を高めるために目指すべき取り組みを、ガイドライン等で示す方向で検討が進められます。一方で、法令上の規定は障害者雇用をこれから進める事業主を萎縮させかねないとして、慎重な検討を求める意見も併記されています。
「雇用の質」を雇用主に求めるだけでなく、質の高い障害者雇用に取り組む事業主を適切に評価し、その取り組みを後押しする仕組みも必要とされています。
このため、現行では常用労働者300人以下の中小企業等を対象としている「もにす認定制度」について、大企業を含む全ての企業を対象とし、認定基準を見直すことで、研究会の意見が概ね一致しました。
現在、行政は障害者雇用支援サービスの利用実態を十分に把握できておらず、必要な指導等につなげにくい状況にあります。
このため、毎年6月1日時点の障害者雇用状況を報告する「ロクイチ報告」の枠組みを活用し、利用企業に対して、
を求める案が提示されました。
どのようなサービスを報告対象とするのか、利用企業の事務負担をどのように考えるのかなど、具体的な内容については、今後さらに検討されます。
障害者雇用ビジネスの適正な運営を促すため、支援事業者が遵守すべき事項や望ましい取り組みを示すガイドラインを整備する方向性が示されました。
支援事業者に対しては、障害特性の十分な理解を含め、障害者雇用に精通した一定の資格者等の配置や、支援に従事するスタッフへの教育訓練に加え、利用企業への支援として、
などを、ガイドラインに盛り込む内容として検討されています。
支援事業者については、ガイドラインに沿った運営状況を定期的に情報開示することで、利用企業が支援事業者を適切に選定できるようにする考え方も示されています。
なお、対象となるサービスの定義や範囲、具体的な基準については、今後さらに検討されていきます。
これらはいずれも、現時点では研究会報告書で示された検討の方向性であり、具体的なルール、要件、施行時期が決定したものではありません。
今後、労働政策審議会障害者雇用分科会において、制度の具体化に向けた議論が進められます。
ここまで見てきたとおり、障害者雇用政策では、雇用人数の確保に加え、障がいのある方の能力発揮や成長、成果の活用、適正な雇用管理、雇用の安定といった「雇用の質」が、より重視されるようになっています。
ここからは、研究会報告書で示されている5つの要素に沿って、エスプールプラスの「わーくはぴねす農園」の仕組みと取り組みを確認します。
単に障がいのある方を雇用するだけではなく、一人ひとりが能力を発揮し、その成果が企業の中で活用・評価され、安定して働き続けられる環境をつくることが求められています。
ここからは、この5つの要素に沿って、わーくはぴねす農園の仕組みと取り組みを確認します。
一つ目は、本人の特性や希望に応じた職務を選定・創出し、OJTや教育訓練等を通じて、能力の発揮と向上を支えることです。
野菜づくりは、作業工程を細かく分けやすく、一人ひとりの障がい特性や習熟度に応じた役割を設計しやすい業務です。
農園では、利用企業が雇用する管理者が日々の作業を段階的に伝え、できることを増やしていくことで、本人の能力発揮や成長につなげています。
エスプールプラスは、農園における就業環境の提供や専門アドバイザーによる相談対応を通じて、利用企業と管理者による業務設計や育成を支援しています。
二つ目は、障がいのある方が仕事を通じて生み出した成果を、企業の事業活動や組織運営の中で有意義に活用することです。
農園で収穫された野菜は、従業員への配布による福利厚生や健康経営、ノベルティ、地域への寄付、販売など、社内外でさまざまに活用されています。
また、収穫物の配布や農園見学、社内報等を通じて農園での取り組みを伝えることは、農園で働く従業員の仕事や貢献を社内に広げる機会にもなります。
「同じ会社に、農園で働いている仲間がいる」ということを他の従業員が知ることで、障がい者雇用への理解が深まり、ダイバーシティ&インクルージョンを企業文化として育てていくことにもつながります。
エスプールプラスでは、産直ECサービス「食べチョク」を活用した販売など、成果物の活用先を広げる取り組みも進めています。
収穫物を単に消費するのではなく、農園で働く方の仕事や貢献を、企業や社会の中でどのような価値につなげるかを、利用企業とともに考えていきます。
三つ目は、採用、配置、勤怠管理、面談、育成、合理的配慮等を、雇用主である企業が主体的に行うことです。
農園で働く障がいのある方と管理者は、利用企業に雇用された従業員です。
利用企業は、雇用契約、勤怠管理、面談、評価、処遇等を自社の雇用管理として行い、
エスプールプラスは、安心・安全な就業環境の提供や専門アドバイザーによる相談対応を通じて、雇用主が主体となる雇用管理を支援しています。
また、農園が本社や事業所から離れている場合でも、利用企業が定期的に本人や農園に常駐している管理者と対話し、働きぶりや課題を把握することが重要です。
エスプールプラスでは、利用企業から共有された状況や相談内容を踏まえ、必要に応じてケース会議への同席、雇用管理上の助言等を行い、利用企業が雇用主として適切に対応できるよう支えています。
四つ目は、障がいのある方が発揮した能力や日々の働きぶりを適切に捉え、その成長や貢献を、職務、配置、育成、処遇等につなげることです。
農園においても、出勤状況や作業量だけでなく、担当できる工程が増えたこと、作業の正確性が高まったこと、周囲と協力して業務を進められるようになったことなど、本人の成長や貢献を具体的に捉えることが重要です。
処遇や配置等は、雇用主である利用企業が、自社の人事制度や方針に基づいて判断します。
エスプールプラスでは、利用企業が農園での働きぶりや成長を把握し、本人へのフィードバックや今後の育成につなげられるよう、成長や変化を捉える際の考え方や参考例の提供を進めています。
一律の基準を当てはめるのではなく、本人の特性や希望、これまでの経過を踏まえながら、一人ひとりの成長や貢献を適切に認め、次の役割や機会につなげていくことが大切です。
五つ目は、安定した雇用契約を確保するとともに、障がいのある方が安心して働き続けられる環境を整えることです。
エスプールプラスでは、専門アドバイザーによる相談対応、障がい者雇用に関する研修、必要に応じたケース会議への同席等を通じて、利用企業による雇用継続を支援しています。
体調面や人間関係、業務上の困りごと等が生じた場合には、利用企業から共有された状況を踏まえ、必要な対応を利用企業とともに検討します。
日々の変化を早期に捉え、大きな課題になる前に対応することが、安心して働き続けられる環境づくりにつながります。
また、雇用契約の取扱いについては、利用企業が法令や自社の方針に基づいて適切に判断することが必要です。
エスプールプラスは、障がいのある方が長く安定して働き続けられるよう、利用企業による雇用管理を支えています。
5つの要素に沿って見ると、エスプールプラスの「わーくはぴねす農園」は、障がいのある方に働く機会を提供するだけの仕組みではありません。
農園という環境と野菜づくりの特性を生かし、一人ひとりに応じた役割をつくることで、障がいのある方の能力発揮や成長を支えます。
さらに、そこで生み出された野菜や仕事の成果を、企業の事業活動や組織づくりに生かすことで、本人の貢献を企業の価値につなげることができます。
収穫物は、福利厚生、健康経営、販売、地域貢献など、企業のさまざまな活動に活用できます。
また、農園で働く従業員の仕事や貢献を社内に伝えることは、障がい者雇用への理解を深め、ダイバーシティ&インクルージョンの組織文化を育てることにもつながります。
エスプールプラスは、就業環境の提供に加え、雇用管理や育成に関する知見、専門アドバイザーによる相談対応等を通じて、利用企業が安心して障がい者雇用に取り組める環境を支えています。
障がいのある方の能力発揮と成長、その成果による企業への貢献を一つの流れとしてつくることで、雇用の質と企業価値の双方を高めていきます。
研究会報告書では、障害者雇用支援サービスについて、主に「企業の雇用責任の希薄化」「能力開発・スキルアップへの懸念」「成果の事業活動への十分な活用」に関する課題が示されています。
エスプールプラスの「わーくはぴねす農園」では、これまでも、
などを、サービスの基本として取り組んできました。
これらは、研究会で新たに示されたから始めたものではなく、エスプールプラスがこれまでも大切にしてきた考え方です。
一方で、現在の取り組みを完成形とは捉えず、研究会で示された
という3つの課題も踏まえ、雇用の質と利用企業への提供価値をさらに高めるため、次の3つを今後の強化方針としています。
農園が企業の本社や事業所から離れている場合でも、農園で働く方が同じ企業の一員であることに変わりはありません。
エスプールプラスでは、利用企業が定期的に農園を訪問し、本人や管理者と対話する機会を持てるよう支援しています。
また、農園見学、社内報、収穫物の配布、社内イベントなどを通じて、農園で働く方の仕事や貢献を、他の従業員にも伝える取り組みを進めています。
さらに、利用企業同士が障がい者雇用に関する取り組みや雇用管理上の工夫を共有する意見交換会等も実施しています。
農園を企業から切り離された就業場所とするのではなく、利用企業の組織や従業員との接点を増やし、障がいのある方が企業の一員として働いていることを実感できる環境づくりを強化していきます。
野菜づくりは、一人ひとりの特性や習熟度に応じて役割を設計しやすい業務です。一方で、本人の成長や希望に応じて、担当する役割や工程の幅を広げていくことも重要です。
エスプールプラスでは、産直ECサービス「食べチョク」の活用を通じて、野菜づくりを栽培だけで終わらせず、販売に向けた準備や梱包、発送等へ工程を広げ、一人ひとりが担える役割を増やす取り組みを進めています。
また、暑さにより屋外での作業が難しくなる夏季には、野菜づくりの延長線上で取り組める紙漉き等の工程を取り入れています。
農園での仕事を栽培だけに限定せず、季節に応じて担える工程や役割を広げています。
本人の特性や習熟度、希望に応じて新たな役割に挑戦できる機会を増やし、「できること」をさらに広げていける環境づくりを進めます。
農園で収穫された野菜は、従業員への配布による福利厚生や健康経営、ノベルティ、地域への寄付など、これまでもさまざまな形で活用されてきました。
近年は、販売、地域連携、社内啓発など、活用の幅がさらに広がっており、利用企業ごとの目的や組織課題に応じた事例も蓄積されています。
エスプールプラスでは、これまでも、こうした活用事例を利用企業同士で共有し、各社の工夫を他の企業にも展開してきました。
今後は、事例の蓄積と共有をさらに強化し、それぞれの企業に合った成果物の活用を、より広く実現できるよう支援していきます。
重要なのは、成果物の活用先を増やすことだけではありません。農園で働く方が生み出した成果が企業や社会で活用され、その貢献が本人にも伝わることで、仕事の意義や次の挑戦への意欲につながります。
成果物の活用を、企業価値の向上と本人の成長が循環する仕組みへと、さらに発展させていきます。
利用企業や他の従業員とのつながり、能力発揮・成長の機会、成果物の事業活動への活用を、より高い水準で実現していくためには、障害者雇用支援サービス事業者自身も、専門性と支援の質を継続的に高める必要があります。
エスプールプラスは、2026年2月に日本障がい者雇用促進事業者協会へ加盟しました。
業界団体における議論や情報共有を通じて、障害者雇用支援サービスの適正な運営と、より良い雇用管理のあり方を業界全体で高めていきます。
また、東京大学・長井教授との連携のもと、VRゴーグルを活用し、発達障害のある方の特性理解を深める教育・研修スキームの研究開発を進めています。
大学や外部専門家の知見を、利用企業への研修や農園での支援に生かし、一人ひとりの特性を踏まえた雇用管理や育成を、より高い水準で支えられる体制を目指します。
こうした外部連携に加え、専門アドバイザーによる相談対応、必要に応じたケース会議への同席、利用企業同士の意見交換等を通じて、利用企業が雇用主として主体的に障がい者雇用に取り組める環境を、今後さらに強化していきます。
障害者雇用をめぐる制度の議論は、今後も続きます。
しかし、雇用主に求められる本質は、制度の変更を待つことではありません。
障がいのある方が能力を発揮し、成長し、その成果が企業の事業活動に生かされ、安心して働き続けられる雇用を実現することです。
エスプールプラスが目指しているのは、農園という就業場所を提供することだけではありません。
制度や社会環境が変化しても、利用企業が「自社の障がい者雇用に自信がある」と言える状態をつくるため、エスプールプラスは、わーくはぴねす農園の価値をさらに高め続けていきます。
現在の障がい者雇用の取り組みを見直したい、雇用管理や能力開発をより充実させたい、今後の制度変更に備えたいとお考えの企業様は、ぜひエスプールプラスへご相談ください。
貴社の状況に応じて、今後の取り組みをともに検討します。
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