障がい者雇用を進めるために採用活動を行うことも大切ですが、せっかく採用してもすぐに退職になってしまうと、それまでの採用にかかったコストや労力が無駄になってしまいます。また、退職した障がい者にとっても、精神的な負担や早期退職の経歴につながってしまいます。そのため、雇用した障がい者の職場定着を考えることは、とても大切です。
ここでは、障がい者雇用の離職率について、業種別、企業規模別、障がい別にみていきます。障がい者雇用の離職状況やどのような理由で退職しているのかを知ることによって、対応を考えやすくなるでしょう。障がいのある方の目線で退職理由をまとめた記事もございますので、ぜひご覧ください。(参考リンク:障がい者雇用の退職・転職の理由は?)
障がい者の業種別の離職率については、3ヶ月後と1年後の定着率から知ることができます。
就職先企業の産業別にみた職場定着率の推移と構成割合
業界 | 職場定着率 | 人数の構成割合 | ||
---|---|---|---|---|
3か月 | 1年 | 人数 | 構成割合 | |
医療・福祉 | 80.5% | 61.7% | 665 | 20.3% | 卸売・小売業 | 77.1% | 57.6% | 665 | 20.3% |
製造業 | 76.9% | 60.2% | 445 | 13.6% | サービス業(その他) | 72.7% | 56.1% | 444 | 13.6% |
運輸・郵便業 | 68.5% | 54.3% | 197 | 6.0% | 宿泊・飲食サービス業 | 68.1% | 47.8% | 182 | 5.6% |
生活関連サービス・娯楽業 | 79.8% | 62.1% | 124 | 3.8% | 建設業 | 66.4% | 44.8% | 116 | 3.5% |
情報通信業 | 77.1% | 60.2% | 83 | 2.5% | 公務(他に分類を除く) | 79.5% | 46.2% | 78 | 2.4% |
金融・保険業 | 93.2% | 85.1% | 74 | 2.3% | 不動産・物品賃貸業 | 80.6% | 62.9% | 62 | 1.9% |
研究・専門技術サービス業 | 84.7% | 67.8% | 59 | 1.8% | 複合サービス業 | 86.0% | 68.4% | 57 | 1.7% |
教育・学習支援業 | 81.1% | 64.2% | 53 | 1.6% | 農業・林業 | 52,6% | 36.8% | 19 | 0.6% |
分類不能の産業 | 69.2% | 53.8% | 13 | 0.4% | 電気・ガス・熱供給・水道業 | 80.0% | 60.0% | 5 | 0.2% |
鉱業・採石・砂利採取 | 50.0% | 50.0% | 2 | 0.1% | 不明 | 100.0% | 100.0% | 1 | 0.0% |
合計 | 76.5% | 58.4% | 3 | 100.0% |
出典:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者の就業状況等に関する調査研究」をもとに株式会社エスプールプラスにて表を作成
この表をみると、1年後の離職率がもっとも高い業種は「農業・林業」で、63.2%の人が離職していることがわかります。また、離職率がもっとも低い業種は「金融・保険業」で、離職率は14.9%です。
続いて、全障がい種別における企業規模ごとの職場定着率の推移から離職率をみていきましょう。
出典:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者の就業状況等に関する調査研究」をもとに株式会社エスプールプラスにて表を作成
全体的な傾向として、企業規模が小さいほど1年後の職場定着率が低く、離職率が高いことがわかります。特に従業員数50人未満の小企業においては、1年後の職場定着率は46.9%で、半数以上の障がい者が離職しているという結果になりました。
大きな企業になるほど定着率は高くなりますが、従業員数1,000人以上の大企業においても1年後の離職率は44.2%と、半数近い障がい者が離職している状況です。
障がい種別の離職率については、こちらも障害者職業総合センターが行った調査から知ることができます。
就職後3ヶ月時点の定着率を障がい種別にみると、身体障がい 77.8%、知的障がい 85.3%、精神障がい 69.9%、発達障がい 84.7%、就職後1年時点の定着率は、身体障がい 60.8%、知的障がい 68.0%、精神障がい 49.3%、発達障がい 71.5%となっています。
出典:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者の就業状況等に関する調査研究」をもとに株式会社エスプールプラスにて表を作成
精神障がいのある方の定着率については、50%を切っています。一般的に精神障がいのある方は定着率が低いといわれていますが、この調査結果からは、精神障がいのある方とともに身体障がいのある方の定着率も低くなっていることがわかります。
この理由として考えられるのは、身体障がいのある方や精神障がいのある方は、一般求人で障がい非開示や一般求人で障がいを開示して採用されている割合が高くなっているため、職場の人に障がい者と認識されておらず、したがって障がい配慮がなされていない職場環境にあったということです。
一方、定着率の高い知的障がいのある方や発達障がいのある方は、障がい者求人で採用されている割合が高くなっており、採用されるときから障がい者と認識されていることの影響が大きいと考えられます。
障がい者雇用における離職理由にはどのようなものが挙げられるのでしょうか。厚生労働省の「平成25年度障害者雇用実態調査※1」から見ていきたいと思います。なお、この調査は身体障がい、精神障がいが対象となっており、知的障がいは含まれていません。
※1 障害者雇用実態調査は令和5年度の結果も公表されていますが、離職理由に関する公表はありませんでした。(令和5年度障害者雇用実態調査)
障がい者が離職する理由としては、次のようなものが上位に挙げられています。
身体障がいと精神障がい、それぞれの障がい種別で見てみると、離職する理由は違っています。それぞれ詳しく説明します。
身体障がい者の離職理由としては、以下のようなものが挙げられています。
身体障がい者でもっとも多い離職理由は「賃金、労働条件に不満」でした。また、身体障がい者の方の5人に1人が、「会社の配慮が不十分」なことを離職理由として挙げています。
身体障がい者は、障がい上の特性により、移動や出勤などに関する配慮がより必要なケースが多くあります。そうした配慮が足りないと感じ離職する方が多いと考えられます。
精神障がい者の離職理由として多いのは以下のようなものでした。
もっとも多い離職理由は「職場の雰囲気・人間関係」で、3人に1人がこの理由を挙げています。また、4人に1人が「疲れやすく体力意欲が続かなかった」「症状が悪化(再発)した」と回答しています。精神障がい者のなかには、障がい特性との折り合いをつけながら仕事を続けることに大変さを感じる方も多いようです。
その他、職場の雰囲気や人間関係、労働条件への不満などのストレスにより症状が悪化してしまい、離職につながることもあります。
仕事を続ける上でどのような改善があったら仕事を続けることができたのかという点では、次のような点が上位に挙げられました。
身体障がいと精神障がい、それぞれの障がい別でみていきます。
身体障がいで仕事を続ける上で必要なこととして挙げられた点は、次の点でした。
精神障がいで仕事を続ける上で必要なこととして挙げられた点は、次の点でした。
ここまで、障がい者が離職をする理由や、障がい者が企業に求めることについてみてきました。
障がい者を雇用する企業としては、障がい者の定着率を高めて、戦力となる人材を育てたいところでしょう。しかし、初めて障がい者を雇用する企業にとっては、雇用後のイメージがしにくく、ハードルが高いと感じることも多いかもしれません。
「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」によると、障がい者を雇用するにあたり、多くの企業は以下のような課題を感じているとされています。
実際に障がい者を雇用するとなると、これらをどのようにクリアしたらよいのか、他の業務でも手一杯なのにどのように解決したらよいのかと悩む採用担当者も多いことでしょう。
障がい者雇用は法律によって一定以上の規模の企業に義務付けられているものではありますが、企業がやるべきこと、支援機関に協力してもらうことと、役割を決めて取り組むこともできます。支援機関では採用後のフォローまで対応してくれることも多く、企業の負担を減らすことができます。
障がい者雇用の離職率を下げるためのポイントは、コミュニケーションと、支援機関の連携です。
厚生労働省が公表した「平成25年度障害者雇用実態調査」でも見てきましたが、障がい者の離職理由の上位は「職場の雰囲気・人間関係」が挙げられています。この理由は、精神障がい者で1位、身体障がい者で2位となっており、大きな理由となっていることがわかります。
障がい者雇用の社内体制が充実してきて、障がい者雇用も進んでいるものの、採用されても、人間関係で悩み、辞めてしまう人が多いのは残念なことです。いくら制度があっても、雇用されて働き続けるためには、企業側、そして働く障がい者がお互いに理解し、必要な配慮をすることが求められています。
そのために必要なことは、コミュニケーションです。コミュニケーションとは、対人的なやり取りにおいて、お互いの意思疎通をスムーズにすることで、一方的に何かを伝えるだけではなく、相手の意見も聞きながら、お互いに理解し合うことが求められます。
また、コミュニケーションは、相手が変わればその人に合わせてコミュニケーションのとり方を工夫することも必要です。例えば、上司、お客様、友達、子ども、外国人など、コミュニケーションを取る相手が変われば、コミュニケーションの取り方は変わってくるでしょう。
障がい者とコミュニケーションをとるときに、障がい特性によってコミュニケーションの配慮が必要な場合には、その配慮を忘れないようにしてください。
障がい者雇用を進めていくときに活用したいのが、障がい者雇用に関わる支援機関です。採用された障がい者の多くは、職場で働くことを不安に感じています。このようなときに、第三者的な立場から支援機関にサポートしてもらうことは、働く障がい者にとっても、企業側にとっても役に立ちます。
支援機関はさまざまなものがありますが、よく活用される支援機関をいくつか紹介します。
障がい者を採用しても、障がい特性にあった業務内容や適切な雇用管理がないと、離職につながってしまうケースも少なくありません。そのため、採用後の業務内容や障がい特性に応じたサポートをすることが必要であり、継続的な雇用につながるポイントになります。
エスプールプラスでは、2010年に生み出した農園型障がい者雇用支援サービス「わーくはぴねす農園」 を通じて、障がいのある方が企業に貢献できるしくみづくりを支援しており、定着率は92%を超えています。エスプールプラスのサービス内容については、こちらをご覧ください。
障がい者雇用の離職率はどれくらいなのか、職場定着のポイントについて解説してきました。障がい者が離職する理由として挙げられる点は、「職場の雰囲気・人間関係」、「賃金、労働条件」、「仕事内容があわない」ということです。これらを解決するためのポイントは、障がいのある社員とコミュニケーションをとり、支援機関と連携を取ることが大切です。障がい特性にあった業務内容や配慮のある雇用管理があれば、職場定着を実現することも十分に可能です。
障がい者雇用の努力をしているにも関わらず、「適した業務が見つからない」、「採用してもすぐ辞めてしまう」、「現場の負担が大きい」場合は、一度、エスプールプラスにお問い合わせください。