写真:株式会社サンスタッフ 

多様な人材の活躍を担う企業と農園スタッフの自立~SDGsの追求~

株式会社サンスタッフ 

代表取締役社長 丸山 恭一 様、取締役 コーポレートサービス部長 鈴木 恭子 様

イメージ:株式会社サンスタッフ インタビュー
利用目的
  • 法定雇用率達成に向けた新たな職域の創出
抱えていた課題
  • 障がい者雇用率が法定数値に届いていなかった
  • 派遣業界特有の事情で、本業採用に限界があった
  • SDGsに取り組んでいる中、具体的な策を模索していた
利用効果
  • 雇用率の安定的な達成
  • 会社としてのSDGs活動のシンボルの一つに成長した
  • 野菜を通じた交流で、社内ノーマライゼーション意識が向上した

株式会社サンスタッフは、豊田自動織機グループの一員として、「総合人材サービス」「プロフェッショナルサービス」「生活環境・地域サービス」など、人材や生活に関わるさまざまなサービスを東海エリアで提供しています。同社は、昨年創立30周年を迎えたのを機に「2030年ビジョン」を設定し、「多彩なライフスタイルに応じた最適な働き方の実現と社会の持続的な発展への貢献」に向かって歩み始めました。そんな個性や障がい、国籍などを超えた多彩な働き方の実現にチャレンジする、同社のSDGs活動の象徴のひとつが「わーくはぴねす農園 あいち東海」ファーム。開園に際しては、社長自らが率先して本プロジェクトを導かれたとか。豊田綱領「温情友愛」「研究と創造」を今に受け継ぐ同社が考える農園運営の意義を、代表取締役の丸山恭一様、取締役の鈴木恭子様にお聞きしました。

「本業のみで雇用率を達成する難しさ。
人材派遣業特有の悩み解決を農園に託す」(丸山様)

社長ご自身がファームの導入を積極的に推進された背景を教えてください

弊社の親会社である豊田自動織機は、全トヨタグループの中でも、障がい者雇用にとりわけ積極的に取り組んできました。全従業員数約67000人の会社で長年にわたって法定雇用率をクリアしているのみならず、各福祉機関や学校などとも良い関係を保ちながら、基本的に本業分野で障がい者雇用を継続し、常に法定雇用率を達成しています。

しかし、残念ながら弊社は人材派遣業ならではの特殊な事情もあり、雇用への努力は続けていたものの近年の雇用率の達成が叶いませんでした。本社内などに約100名の内勤社員がおりますが、それ以外に常時500名を越える派遣スタッフを有しています。また繁忙期には、スタッフ数は急増します。社会の動向や時節によって雇用人数が大きく変化するのが派遣業界の特徴です。常時MAX人数に見合った障がい者の雇用は、正直至難の業なのです。

仮に雇用したとしても、いきなり本業である派遣業務に就労させるのは少々厳しい。スキルやコミュニケーション能力の検討、受入体制など派遣先企業との事前コンセンサスは必須であり、実現は難しい。しかし豊田綱領「温情友愛」「研究と創造」を実践する弊社としては、この事態に正面から向き合う必要がありました。

「農園で働くみなさんの明るさ、礼儀正しさに感銘。
エスプールプラス社のフォローアップに感謝」(丸山様)

そんなおり、部下からエスプールプラス社 わーくはぴねす農園の話を聞き、私は「これだ!」と直感。早速豊明ファームを訪問させていただきました。実際に拝見した農園の様子は、想像以上に素晴らしいものでした。まず、農園スタッフの明るい働きぶりと礼儀正しさに感心。誰からともなく「おはようございます」と交わされる、自然なあいさつが実に心地良かったですね。また、エスプールプラス社スタッフの意識の高さにも驚かされました。

そして多くの企業が、農園を障がい者にとって働きがいのある職場として活用すると同時に、企業の成長の一助として有効活用している事実を知ったのです。その時点では、豊明ファームに空きがなく、残念な思いをしました。その後、新聞で東海市とエスプールプラス社の協定記事を目にし、近隣でファームが開設されることを知り、早速申し込みをしました。

もっとも、導入検討期間には「障害者雇用のポイントをお金で買うのではないかというイメージがあり、抵抗感がある」などと、社内から厳しい意見もでました。
最終的な決め手は、社内の役員に農園を見学してもらったことでしょうか。まさに百聞は一見に如かず。実際に農園の仕組みを目にすると、私同様すぐに有用性に気付き感銘を受けた様子で、その後の農園導入プロジェクトはとんとん拍子に進むことになりました。

「農園スタッフは私たちが考えている以上に熱心に仕事に向き合い、
ファームは自立した社会人として自分で働いてお金を稼ぐ喜びにあふれています」(鈴木様)

現在のファーム運営概要をお聞かせ下さい

開園して約2年になります。農場長と農園スタッフ3名を1チームとし、現在2チームで運営しています。農園スタッフは全員が男性、様々な年代で構成されています。障がい種別は重度の知的障がいから軽度の自閉症や精神障害までさまざまですが、ほとんどのスタッフは日常のコミュニケーションに支障はありません。言葉を発するのが難しいスタッフが1名いるので、普段の意志伝達はサインを出し合ったり、腕の上げ下げでイエス・ノーを教えるなどの工夫を凝らして、少しでも働きやすい環境になるように取り組んでいます。

エスプールプラス社の管理者の皆さん、雇用継続アドバイザー、農業顧問などが常駐され、今でも弊社の気づかないところまで目を配り、しっかりと弊社ファームを支えてくれていることにも感謝しています。

栽培している野菜は多種多様です。水菜、エンドウ、小松菜などの定番から葉ブロッコリー、島サンチュなどの変り種まで。農場長と農園スタッフが相談し、育てる野菜を決めています。技術の習熟につれて、難易度の高い野菜への挑戦が増え、今年は小玉すいかやメロンを栽培しました。

新しいことに挑戦するときは、エスプールプラス社が設定するレギュレーションを参考にしています。例えば背の高い野菜は、もしスタッフが倒れた際、発見まで時間がかかる可能性があるといった、障がい者雇用のプロフェッショナルならではの多くの知見をお持ちなのでアドバイスをいただいています。

農場長は両名ともエスプールプラス社より紹介していただきました。どちらも農業のプロではありません。ファームのスタート時は、農園スタッフ、農場長、会社の全員が野菜作りの初心者でした。何も知らない関係から短期間でここまでファームがまとまったのは、農場長の手腕に依るところも大きいと感じています。

農園スタッフのご家族とも、毎日の就労レポートを通じてコミュニケーションをとっています。本人が今日の出来事を記載し、農場長がコメントをつけ、それをご家族が目を通され返事をいただきます。ご家族とは、時に電話で直接やり取りをするケースもありますが、これまで大きな問題は発生していません。農園スタッフは、私たちが思っている以上に大人です。ファームは仕事場であって学校ではありません。彼らは自分たちの恵まれた立場をよく理解しています。さまざまな経験を経て入社した彼らですが、今では自分で働いてお金を稼ぎ、社会人として自立する喜びを知り、イキイキと輝いています。

「収穫された野菜がつなぐ、人と人との交流」(鈴木様)

ファーム取り組みの成果を具体的に教えて下さい

農園の存在とその意義が社内に認識され、社員間に明らかにノーマライゼーション意識の向上が見られました。収穫された野菜は、農園スタッフがメッセージカードや絵手紙などをつけて本社などのスタッフに配布しています。社員からは毎回多くのありがとうメッセージが農園に寄せられ、そんな心のやり取りは、彼らのモチベーションアップに大いに貢献しています。両者の素敵な関係をつなぐ存在が、月間の社内報に掲載されている「わーくはぴねすだより」です。農園のメンバー紹介や成長の報告、収穫の様子などを広報スタッフが実際に取材し掲載しています。この交流は、「働く意欲を持った多様な人々に対し、さまざまな働き方が実現出来るよう支援する」と考える弊社の象徴になっています。

収穫物はもちろん農園スタッフが自宅に持ち帰り、家族にもふるまわれます。視察の際には、メンバーから直接野菜をプレゼントすることもあります。彼らにとって大変緊張する場面ですが、自分の気持ちを相手に伝える良い勉強の場となっています。みんな緊張しながら頑張っていますよ。
新型コロナ禍による緊急事態宣言下では、2チームを隔日出勤体制にシフトし、密を避ける工夫を施していましたが、現在は通常の勤務状態に戻り、農園は以前のような明るさを取り戻しつつあります。

「2チーム構成で生まれるメリットを最大限に活用」(鈴木様)

実は弊社の場合、法定雇用率自体は1チーム(4カウント)でクリア出来ていたのですが、多くのメリットが得られる2チーム(8カウント)構成にすることを敢えて選択しました。1チームですと、農場長が病欠などの際に休園を検討しないといけなくなり、スタッフやご家族に余計な心配をかけてしまいます。しかし2チームであれば農場長同士のフォローアップが可能で、業務への支障が最低限に抑えられます。また、人数的に余裕を持った採用は、派遣業界特有の雇用人数が大きく変化することに対する効果的な事前対策となっています。 なにより、法定雇用率の達成は、法令順守の観点からも当たり前で社会的責任を果たすべきと考える弊社としては、結果として投資金額に見合う大きなメリットを得られたと考えています。

「農園スタッフの才能をより活用したい」(丸山様)

1ヶ月に最低2回は農園を訪れ、コミュニケーションを心掛けています。先日はちょうど芋虫が発生していた時期だったので、早速駆除を手伝ったのですが、見落としだらけでスタッフが笑いながらフォローしてくれました。お世話に行ったつもりが、逆に世話を焼かれてしまったんです(笑)。農園スタッフは、私たちが思っている以上に成長しています。中には、絵画や書道に才能を発揮する人材も現われています。彼らの才能を上手に活用して、社内外のパートナーシップをさらに発展させるための一助としたいですね。

「業績に左右されない農園継続の仕組みを構築」(丸山様)

サンスタッフが考える、これからのSDGsとファームの素敵な関係

ファームの運営は順調ですが、成功したというにはまだまだ早い。現在よりも高度なレベルで計画生産、安定供給を実現し、野菜のより効果的な利用方法を模索せねばなりません。例えば、親会社の食堂に有償で納めるなど、農園自体の経済的な自立の道も探って行きたいですね。現状利益を生み出していない部署であるファームの社内的立場は、決して強いとはいえません。先年のリーマンショック、あるいは新型コロナ禍のような激震に再び襲われた時、会社的に農園の存続を断念せざるを得ないような状況は絶対に避けたいと考えています。それだけにファームの自立化は必須です。定量的な効果、定数的な価値を社内外にアピールし、弊社にとって欠かせない存在に農園を育て上げなくてはなりません。弊社のSDGs活動の象徴のひとつとして、これからのファームが担う社会的役割は、さらに大きいものになると認識しています。

「スタッフの人生にも持続可能な目標を」(鈴木様)

スタッフは入社時に就業前教育を受けています。仕事に対する心構え、安全第一の周知徹底などを教わりますが、基本的な処遇は一般社員と変わりません。入社式も農園で行い、社長訓示の後辞令を授与しました。中には新調したばかりのスーツに身を固めたスタッフもいて、全員が新しい人生の節目を実感した新鮮な体験となりました。特に同席されたご家族の期待をひしひしと感じ、迎える側の身も心も引き締まりました。「私たちがいなくなった後、この子の人生はどうなってしまうのか」。ご家族全員に共通する想いに応えるためにも、ファームでの人間教育をおろそかには出来ないのです。

「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」など全部で17の目標がSDGsでは掲げられていますが、ファームの運営は実に多くのSDGsと直結しています。農園スタッフの「多彩なライフスタイルに応じた最適な働き方の実現」を、ファームを核にこれからも持続して行きたい。そして「誰ひとり取り残さない」会社と社会の発展に貢献出来るファームに育てたいと願っています。

現在は若いスタッフばかりですが、いずれ彼らも歳を重ねます。ご家族との関係に変化が訪れ、否応なしに自立しなければいけない瞬間がやって来ます。その時彼らが、社会人として生きて行くための人生のノウハウも、見守りながら教えて行きたいですね。「いやな作業ならしなくていいよ」ではなく、挑戦する心を育む。社会人としての常識を、農園での就労を通じて学んでもらう。ファームは彼らの人生に持続可能な目標を与え、成長を助ける存在でもあるのです。

2021年10月28日インタビュー
本文中の企業名、役職、数値情報等は、インタービュー当時のものです。

会社名 株式会社サンスタッフ 
事業内容 総合人材サービス
URL https://www.sunstaff.co.jp/