株式会社グループセブ ジャパン
代表取締役社長 アンドリュー・ブバラ 様、営業本部本部長 石塚雅章 様
「株式会社グループセブ ジャパン」は、「ティファール」に代表される有名調理器具・小型家電のブランドを世界約150ヶ国で展開する、グローバルカンパニーの日本法人です。食文化に関わる企業として、同社は千葉県の柏市でのファーム運営も積極的に推進し、障がい者雇用を通じた持続的なダイバーシティマネジメントに取り組んでいます。障がい者雇用の場として、ファームの活用が生んだ成果と未来の可能性をお聞きしました。
ー現在のファーム運営概要と、導入前に抱えていた課題を教えて下さい
ファームは、千葉県柏市でエスプールプラス社が運営する、「わーくはぴねす農園」内に2017年12月に開園しました。今年で4年目を迎えましたが、開園以来農場長1名、障がい者スタッフ3名の規模で運営しています。スタッフは身体障がい者が1名、知的障がい者が2名。チームで6レーンを活用して、日々旬の野菜作りにいそしんでいます。栽培している野菜は多種多様です。ルッコラ、サニーレタス、パプリカ、ほうれんそう、ズッキーニ、水菜などの季節の野菜を、エスプールプラス社の農業顧問からアドバイスをいただきながら、楽しく育てています。最近ではコールラビなど、フランス系の会社らしい洋野菜への挑戦も始めました。
2017年当時は2018年4月からの法定雇用率の引き上げを目前にして、試行錯誤の日々を過ごしていました。他社の例を多数研究しましたが、障がい者雇用の離職率が高さなど難しさを耳にする機会が多くありました。
成長を続ける会社としては、より安定した雇用を求めたいのが正直な気持ちです。また、外資系の会社ですので、採用は即戦力の中途採用が基本となるプロフェッショナルチームです。このような環境に障がい者の方を迎え入れることが、果たしてお互いのためになるのだろうか。社風にマッチした障がい者の方を見つける方法も、見当がつきません。ハードルは予想以上に高いと感じていました。
ーファーム導入の決め手となった最大の要因、実際の運営に当たっての不安は?
「わーくはぴねす農園」の存在を知ったのは、全くの偶然。たまたま新聞に挟み込まれた、エスプールプラス社のチラシに目が留まりました。障がい者の雇用の場としてファームを活用するアイデアは、食文化を担う当社のベクトルと一致すると直感しました。早速ファームを見学し、開放的で清潔な環境に感心しました。何から何まで初めての経験でしたが、エスプールプラス社の体制は信頼のおけるものでしたので、チャレンジしてみようとの決断に到りました。「なぜ農園なのか?」 他社では議論を呼ぶテーマでしょうが、当社では特に問題になりませんでした。むしろ弊社とファームの出会いは自然なこととして、社員から大変好意的に受け入れられました。
しかしファームがある柏と、本社がある青山は大変遠い。行って帰るだけで一日が終わってしまいます。本社が積極的に関わりたくても、現実的に担当者は月に2回程度通うのがせいいっぱい。それだけに、障がい者スタッフを管理する農場長の重要性に留意しました。ファームも独立した組織ですので、農場長には農業の経験以上に管理者としてのスキルが求められます。障がい者スタッフの業務を日々管理しながら、本社への毎日の報告を怠らない。農園全体を管理するエスプールプラス社とのコミュニケーションも欠かせません。農場長が障がい者、本社、エスプールプラス社のトライアングルの中心で機能して、初めてファームの健全な運営は実現するのだと学びました。幸い弊社の農場長はまさに適役で、運営は順調であると認識しています。
ーファームが生み出した具体的な成果をお聞かせ下さい
定期的にファームに顔を出していますが、収穫期に当る時には社内で募った応援スタッフを同行します。全員が送られてきた野菜を家庭で味わっていますから、ファームへの好意や関心は抜群です。「ここで作られているんだ!」「こうやって育てているのか!」など、障がい者スタッフとの会話が自然と始まり、互いが顔見知りになるのにさして時間は必要としません。ファームの存在は、社内コミュニケーションの活性化に大いに貢献しています。
野菜を媒介とした社内交流は、年々活発になって来ました。当社の社員とファームは、大変相性がよいのではないでしょうか。ファームの様子は定期的に社内SNSにアップされ、全社員がファームを身近な存在として認識しています。社内イベントの様子などもアップされますので、場所は離れていても、お互いの近況をSNSを通じて共有することが可能なのです。
またリアルな交流の場として、忘年会や社内旅行も大人気です。障がい者スタッフの外出には、さまざまな準備が必要です。移動の手段をどうするのか、長時間の拘束に耐えられるかなど、予期しないアクシデントを未然に防ぐために、農場長だけでなくその他社員の協力が欠かせません。幸い社内には障がい者スタッフと顔見知りの社員も多く、積極的に手を挙げてくれ心強い限りです。新型コロナ禍以前、社員旅行で沖縄にも出掛けました。空港までは農場長に付き添いをお願いしましたが、合流してからは仲間たちがサポートし、南国の空気を堪能してもらえました。よっぽど楽しかったと見えて、今でも顔を出す度に「今度はいつどこに行くの?」と質問攻めにあうほどです(笑)。社員と障がい者スタッフの距離がここまで近い会社も珍しいのではないかと、最近よく考えます。ファーム運営が、当社の活性化に確実に貢献している証拠でしょうね。
縁あって愛知県の子ども食堂に定期的に収穫物をお送りしています。販売は法律により叶いませんので、これまでは社内消費に頼っていました。こども食堂への寄附は、ファームにとって初めての一般社会とのお付き合いとなります。野菜の発送は四半期に一回、5~6種の野菜を200パックほどですが、定期的に発生する立派な仕事です。送付する際には収穫風景などの写真を同封します。食堂からは「ありがとう」「おいしくいただきました」といった写真やメッセージが寄せられます。障がい者スタッフのモチベーションが上がるのは、いうまでもありません。
最近、ファームを大切な学びの場として考える社員が増えています。障がい者スタッフとの交流体験が、実際の業務にフィードバックできると気付いたのです。障がい者スタッフとのコミュニケーションには、ある程度の配慮が必要とされます。しかし考えてみれば、実際の社会でも同じ。「どうしたら相手にもっと通じるだろう」と、私たちは日々試行錯誤を重ねています。障がい者スタッフとの交流を通じて育んだ、お互い学びあう心は、業務に確実に反映されています。
我々は2023年の目標に「ダイバーシティマネジメント」を掲げています。世界約150ヶ国で事業展開するグローバル企業である、当社のお客様や環境はさまざま。ダイバーシティマネジメントの重要性は計り知れません。障がい者スタッフとの交流を通じて、社員は多様性を尊重する心を学んでいます。そして彼らをパートナーとしてリスペクトし、人間として日々成長しているのです。
「ファームの今後の目標、未来予想図をお聞かせ下さい」
2017年の開園以来、当社のファーム運営は順調そのものでした。しかしさらに高いステージを目指すための努力は欠かせません。例えば
1・「より持続的かつ組織的な体制の確立」。これまで開園以来の勢いで何となくクリアしていたプロセスを明文化し、チーム形成にサステナブルな確実性をもたらし、より強いチームを構成したいと考えています。
2・「部署間を超越した柔軟な人事」。真夏のファームは対策もしていますが、とても暑いです。この状況をチャンスと捉えて農業以外の新しいことに挑戦してみようと、インターネットとエクセルを活用する商品管理業務をお願いしてみました。すると、あるスタッフが見事にこなしてくれたんです。ファームから部署間を超えた人事交流の可能性が見出せたことで、社内の新たな活性化が期待できるようになりました。
現在当社では「One Team Together」をモットーに、全社一丸となった業績向上に取り組んでいます。もちろんファームの存在も例外ではありません。ファームをどうマーケテイングに貢献する存在に育てるかは、喫緊の課題です。現在、ファームで栽培したハーブでサシェやソープを作り、お客さまにプレゼントするプロジェクトを準備中です。食文化の一端を担う企業として、ポストコロナ禍にはぜひ実現させたい計画です。
「あなたたちのおかげで会社は利益を上げられました」。スタッフがビジネスへの貢献を実感できれば、能力もやる気も今まで以上にアップし、ひいては会社全体に好影響をもたらすのは必至です。One Team Togetherの一員として、社の繁栄に向けともに歩むパートナー。これからも当社はエスプールプラス社との協業で、ファームの充実に全力を傾けて参ります。
2021年5月18日インタビュー
本文中の企業名、役職、数値情報等は、インタービュー当時のものです。
会社名 | 株式会社グループセブ ジャパン |
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事業内容 | フランスに本社を置く調理器具・小型家電のメーカー「Groupe SEB(グループセブ)」の日本法人 |
URL | https://www.t-fal.co.jp/ |