株式会社オズマピーアール
人事室 室長 兼人事部 部長 白井洋介 様
人事室人事部 コミュニケーション・プロデューサー 渡辺陽子 様
医療、飲食、観光から地域ブランディングまで、あらゆるコミュニティ領域で社会や生活者と企業、商品などのパブリックリレーションズ(PR)を推進する「株式会社オズマピーアール」。同社は2016年12月、千葉県船橋市でエスプールプラスが運営する「わーくはぴねす農園 船橋ファーム」に「オズマからふる農園」を開園しました。現在6年目を迎えた農園は、リーダーシップに富んだ農場長(女性) と30歳代1名、40歳代2名の男性スタッフで運営されています。抜群のチームワークが生み出した新鮮な野菜は、続々と本社や支社へと送られ、一般社員と障がいのあるスタッフをつなぐ、大切でおいしい交流の糧となっています。社内SDGs活動の象徴へと成長しつつある農園を、オープン当時から支えてきた同社人事部のお二人に、農園活動の成果やこれからの目標をお伺いしました。
現在のファーム運営概要と、導入前に抱えていた課題をお聞かせ下さい
「オズマからふる農園」は2016年12月に開園し、現在6年目のシーズンを迎えました。農場長と知的障がいのあるスタッフ3名によるメンバー構成ですが、全員が農業は初めての経験で、手探りでのスタートとなりました。しかし優秀な農場長に恵まれ、運営は順調に進んでいます。私は週に一回の頻度で農園を訪問していますが、スタッフ間のコミュニケーションは大変良好で、和気あいあいとした雰囲気に毎回癒されています。ランチタイムには、おしゃべりが飛び交い話題は尽きません。そんな光景をニコニコと眺めているリーダーシップあふれる農場長と、農園スタッフの採用に際して優れた人材を紹介いただいた、エスプールプラス社に感謝しています。
ファームで栽培している野菜の選定は、基本的には農場長の「これを作りたい」という意思とセンスに任せています。丸ズッキーニやミニ大根、あやめ雪蕪、パプリカ、ミニトマト、ベビーリーフ、コールラビなど目新しい種類に挑戦していますが、味のよさに加えて写真映えする可愛さが、特に女性社員に好評です。本社の社員のみなさんからは枝豆のリクエストが強く寄せられています。夏が近づくと「そろそろですよね」と期待に満ちた声がかけられ、配布会では毎回瞬殺状態。「取り置きはできないのですか?」と、営業職から恨み節が聞かれるほどの人気ぶりです。とにかく新鮮さが評判で、素人目にも市販物とは一目瞭然と自負しています。
「業務上社内には飲食の知識に明るい社員やグルメな社員も多く存在していますが、評判は上々です」(白井様)
「普通のお店ではカットしてしまう部分もそのまま送ってもらっています。とにかく新鮮ですから、すべての部位がおいしく食べられると好評です」(渡辺様)
障がい者雇用に関する最大の課題は、障がい特性に適した業務付与の難しさでした。弊社最大の商品は「アイデア」であり、物理的な存在ではありません。各担当者の頭脳やPC内に存在する仕事内容を障がいのあるスタッフと共有するのは大変難しく、また情報セキュリティシステムへの適応性など、本社での勤務には現実的なイメージを抱きにくい状況にありました。
「障がいのある方を雇用したいが、該当する付与業務がない・・・」。そんな悩みを解決してくれたのが、エスプールプラス社からの新しい雇用の提案でした。障がいのある方がやりがいを持って働ける農業で雇用を生み出すサービスは、弊社にとっても働いてもらうスタッフにとっても、一番良い環境なのではないかと直感し、農園見学を経て、直感は確信へと変わりました。
懸念していた社内コンセンサスの獲得は、予想以上に順当に進みました。実際にファームの様子を経営陣に見学してもらった事が決め手となりました。太陽の明るい日差しが差し込むファームの様子を目にした経営陣の評価は上々で、障がいのある方たちが生き生きと働く姿や笑顔に感銘を受けた経営陣は「これしかないね」と納得、翌日には参入に向け具体的に動き出すことができました。農園を導入して5年が経過しましたが、おかげさまで毎年法定雇用率をクリアできています。
8月に農園を見学し12月にはオープンにこぎつけました。大変なスピード感ですが、全社的に野菜作りと福祉の親和性を肌で感じたからに他なりません。農園で見た彼らの笑顔は、農作業と障がいのある方の相性の良さを確信させるのに充分なものでした。この縁を一刻も早く自分たちの農園で結びたい。法定雇用率の達成も重要ですが、農園こそ弊社の経営理念「世の中にポジティブな変革を仕掛けて新しい`あたりまえ`を創る」を反映した、障がいのあるスタッフがあたりまえに働ける場であるという全員の想いが、一気に事業を動かしたのだと思います。
ファームが生み出した具体的な成果をお聞かせ下さい
収穫した野菜は随時農園から本社と関西支社に送られ、社員に配布されます。時期が合えば、子ども食堂への寄付なども行っています。配布時には農園や働くスタッフの近況、野菜のレシピなどを掲載した「からふる農園だより」を同封しています。野菜を受け取った社員からも多くのメッセージが寄せられ、野菜を通じて社内に素敵なコミュニケーションが生まれました。「飛び切りおいしいサラダを楽しみました」、「みずみずしさに家族もビックリ」、などのお礼のお便りや写真はまとめてスタッフに配布され、モチベーションの向上に大いに貢献しています。本人はもとより、スタッフのご家族にも大好評で、「以前と比べて、とてもしっかりしてきました」 など、喜びの声が寄せられています。そんな農園の日常は農場長からの日々の連絡を通じて、本社でも把握するように努めています。時には課題も発生しますが、緊密な連携によりトラブルを未然に防ぐサポートも行っています。
社内の農園認知度、重要性の啓蒙を図るため、新型コロナ禍以前はさまざまな交流企画を実施していました。本社見学会の際には全体朝礼に参加し、自ら全社に向けた農園のPRに挑戦しました。社内への挨拶時には社員から温かい声がかけられ、スタッフの一人は「○○です!」と元気な声で応えます。障がいのあるスタッフに、社員としての自己を意識してもらうよいきっかけとなりました。周年行事にも力を入れています。食事会を開催したり、記念アルバムを作成したりしましたが、特に東京スカイツリーへの記念旅行は全員のよい思い出となりました。これらのイベントは、間違いなく農園スタッフのやりがいを育て心のきずなを深める一助となっています。仕事から離れた楽しいイベントは、農園で働く楽しさを改めて彼らに意識させ、ひいては仕事の質の向上を引き出す有効な手段だと思います。開設から5年が経過しましたが、今では農園スタッフの心に「自分たちはオズマピーアールの一員だ」という意識が確実に根付きました。
一般社員の間にも農園の存在意義を重んじる動きが現れています。昨年、社内でSDGsに関わる社内コンペを実施したのですが、複数のチームが農園を活用した案を企画したのには驚かされました。「からふる農園を使って何かできないか」、各チームからヒアリングを受けましたがその熱意に圧倒されました。同時に農園がここまで社内で認知されていた事実に感銘を受けました。コンペでは1チームが見事本選出場を果たし、農園を紹介したPR動画は、経営陣を始め多くの社員の目にするところとなりました。弊社全体の障がい者雇用の理解がより深まる素晴らしい経験となりました。
オズマからふる農園が目指す次のステップ
PR会社らしい運営とは何か、その模索は既に始まっています。しかし具体的なロードマップ化には、より農園が身近に感じられ、一部署として会社に認識される必要があります。 社業にも通ずる意義のある取り組みであることは、社員間にも大分認知されてきました。しかし離れた場所で働いていることもあり、まだ農園を特別な存在として見てしまう社員も存在しています。これまでの経験を一般社員に伝えていく啓蒙活動こそ、「世の中にポジティブな変革を仕掛けて新しい`あたりまえ`を創る」を標榜する、現在の我々に与えられた第一の使命だと考えています。
そのためにも、今後一般社員の農園訪問ツアーの定期開催を企画しています。農園を新人研修の場にするアイデアも検討されています。ノーマライゼーション研修に該当するものですが、堅苦しく考えずに、気軽に訪問して、作業している現場を見て、おしゃべりなどの交流を行うことで、社員は多くの学びを得られる場所が農園だと考えています。社員にとっても農園スタッフにとっても、「オズマからふる農園」は特別な場所ではなく、会社の一つの部署なのだと実感してほしいのです。そして近い将来、農園が「新しいあたりまえ」を発信する場に成長できるよう願っています。
2022年2月24日インタビュー
本文中の企業名、役職、数値情報等は、インタービュー当時のものです。
会社名 | 株式会社オズマピーアール |
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事業内容 | 国内、海外の企業、政府関係機関、公的団体などのクライアントに企画立案から実施まで、総合的な広報(パブリックリレーションズ)サービスを提供 |
URL | https://ozma.co.jp/ |