パナソニック株式会社
リクルート&キャリアクリエイトセンター 多様性採用推進室 室長 金子健志 様、 赤堀英典 様
「パナソニック株式会社」は現在700名を超える障がい者を雇用し、積極的な人材活用に取り組んでいます。同社が愛知県みよし市で運営している「パナソニックファームみよし」もその一環。野菜作りを通して障がい者スタッフが活躍できる職場の実現を目指す試みは、同社の新しい雇用環境の形成に貢献しています。世界的ブランドである同社が、障がい者雇用の有効手段として農園活用の採用に至った経緯と成果、そして将来への目標を「多様性採用推進室」のお二人にお聞きしました。
ーパナソニック全社の障がい者雇用の現状と、「パナソニックファームみよし」の事業概要を教えて下さい
現在「パナソニックファームみよし」のスタッフを含めて、全体で700名を超える障がい者を雇用しています。昨年6月時点での雇用率は2.33%、既に法律で定められている法定雇用率をクリアしています。フレックスタイムや在宅勤務など、時間や場所にとらわれず柔軟に働ける勤務制度や、上司と定期的に話し合い、日々の業務や自身のキャリアアップ、体調や職場環境などを気軽に相談できる「1on1ミーティング」など、働きやすい環境の整備を推進しています。また障がいのある人の理解をするための教育コンテンツを整備し、全社員が学ぶ機会を持つことで障がいへの理解を深めるなど、障がい者の活躍を推進する取り組みを継続しています。
「パナソニックファームみよし」は、2018年12月に愛知県みよし市でエスプールプラス社が運営する「わーくはぴねす農園愛知みよしファーム」内に開設し、2019年1月一期生1チームを迎え入れました。三年目を迎えた現在は10チームへと成長、障がい者30名、農場長10名の計40名体制で運営しています。スタッフ構成は知的障がい者、精神障がい者が多数を占め、身体障がい者も採用しています。重度の障害のある方を1チームに一人配置してバランスを取るなど、開所以来トライアンドエラーを繰り返しながら、経験値を蓄積しています。
栽培している野菜はレタス、水菜、トマト、芽キャベツなどがメインですが、最近はスタッフの習熟度も上がってきましたので、より高度な栽培に挑戦することでモチベーションの向上に努めています。去年はスイカに挑戦し3玉の収穫に結びつきました。現在はメロンに取り組んでいます。ぜひ多くの方に食べていただこうと、農園スタッフたちの意気はますます盛んです。
ー「パナソニックファームみよし」開設前に抱えていた課題は?
法定雇用率の段階的な引き上げが予定される一方で、障がいのある社員の高齢化も徐々に進んでおり、長期的かつ抜本的な対策の必要性を強く感じていました。当時は精神障がい者が新たに雇用義務対象に加わり、企業として、社会からの要請に応えるためには、弊社に無い新しい雇用ノウハウの確立が必要と認識していました。
有効な手段を求めて、さまざまな方法論を議論しました。本体での採用の拡大、特例子会社による対応なども検討し、それぞれの雇用増も一定程度実現しています。しかし、特に精神障がい者の雇用受入れを拡大するための経験・ノウハウが私たちには全く不足していました。そんな時、グループ会社の一つから、エスプールプラス社の農園事業の導入を検討しているとの話が入ったのです。私も以前この事業について耳にしたことがあり興味がありましたので、そのグループ会社の人事責任者と一緒に、愛知県豊明市の農園の見学に伺いました。これがエスプールプラスの「わーくはぴねす農園」との出会いです。
ー「パナソニックファームみよし」導入の決め手となった最大の要因は?
こうして2018年春に初めてわーくはぴねす農園を見学し、農場長1名と障がい者スタッフ3名で構成されたチームが、ファームで生き生きと働く姿に接するとともに、10年以上の農園運営で蓄積された雇用ノウハウについて詳しい説明を聞かせていただきました。何らかの新規施策が必要な中、私たちにはノウハウがありません。課題の解決にはやはり、独自のノウハウを有した企業との協業が不可欠ではないかと考えました。これがエスプールプラス社の農園事業導入を決意した理由です。
そこから社内検討を開始し、様々な調整がありましたが、夏には会社として方針を決定し、採用を開始、年末には開所式が実現しました。
ー「パナソニックファームみよし」が生み出した成果をご紹介下さい
収穫された野菜は、門真本社を始めとする弊社の社員食堂に提供され、社員がおいしくいただいています。関係部門への配布も行っています。「新鮮で本当においしい」「無農薬が安心できる」など、評判は上々です。野菜には「私たちが作りました」「おいしく召し上がってください」といった障がい者スタッフからのメッセージカードや写真、絵などが添えられ、社内コミュニケーションの一助にもなっています。スタッフの中には絵や筆の才能に長けた者もおり、驚くほど上手なメッセージに目みはることもあります。
また年に2回2週間の期間限定で、大阪駅前のパナソニックセンター大阪内にあるカフェ「Re-Life ON THE TABLE」で農園フェアを開催しています。カフェで提供するセットのサラダにファームの野菜を使用し、一般のお客様にも「パナソニックファームみよし」の味を楽しんでいただく試みです。提供中はファームの写真やスタッフの描いた作品を店内に展示、ファームの野菜を鉢植えにして飾るなど、認知活動の一環としています。「獲れたての鮮度は何よりも素晴らしい」お客様だけでなく、料理のプロであるカフェスタッフからも高い評価をいただいています。評判はもちろんファームにフィードバックし、スタッフのやりがい、ひいては安定した就労に結びついています。野菜を通じてファームと社会との交流を図るこの試みに、障がい者雇用の新しい可能性を感じています。
パナソニックが提案する、「食」を通じて新しい暮らしのヒントを発見できるカフェ。店内のチーズ工房で作るでき立てのフレッシュチーズとホットサンド、スイーツなどを提供しています。店内では、生産者やシェフによる実演・セミナーを定期的に開催。また地産地消の食材やサステナブル・シーフード、プラスチックごみ低減に貢献する食器を使用するなど、環境にも優しい食のライフスタイルの発信を行っています。
営業時間:11:00~18:00 休業日:不定休 交通:JR大阪駅から徒歩約4分、阪急大阪梅田駅から徒歩約8分 メニュー:「OSAKA CRAFT HOTSAND」980円(税込)など。(+400円でサラダ・ドリンク・スープ付き)
「パナソニックファームみよし」の取り組みは、障がい者の安定雇用に一定の成果を生みました。社内広報にも力を入れていて、最近ではファームに興味を抱いた社員からの問い合わせもあるなど、徐々に認知度が上がってきています。企業の障がい者雇用問題は、ともすれば関連部署のみの課題になりがちな側面もあるのが実態です。ファームの取り組みを周知する中で、思った以上に好意的な反響がもらえていることで、関係者一同、大いに意を強くしてきているところです。
ー「パナソニックファームみよし」の今後の目標、課題、そして未来予想図をお聞かせ下さい
今後はご家族とのコミュニケーションにさらに力を入れて行きたいですね。現在は農場長からご家族へ日報をお送りし、情報を共有しています。「作業内容や起きた問題点など、日々の勤務状況をお伝えし、課題があればケース会議を行うなど、関係者で対応しています。スタッフが安心して長く勤められる環境の形成に、ご家族の協力は欠かせません。ご家族の支援体制も把握し、より安定したファームの運営を実現していきたいと思います。
「わーくはぴねす農園」には、弊社と同じ課題、目標を持つ企業が多数参画しています。企業同士の交流もぜひ推進したいですね。情報交換、ノウハウを共有し、課題克服のための知恵を集めたい。また、ファームと社員や地域との積極的なコミュニケーションにも取り組みたいですね。頒布会の実施、地域の子ども食堂への寄附、カフェでのイベント開催など、新型コロナ禍が収束したあかつきには、早速挑戦したいと考えています。そのためにも、エスプールプラス社には、障がい者雇用と農園活用のプロフェッショナルとして、「パナソニックファームみよし」の発展のため、更なる職場環境の改善を含め、これまで以上の支援を期待しています。
2021年3月8日インタビュー
本文中の企業名、役職、数値情報等は、インタービュー当時のものです。
会社名 | パナソニック株式会社 |
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事業内容 | コンピュータ・通信機器・OA機器/家電・AV機器/半導体・電子部品・その他/建材・エクステリア |
URL | https://www.panasonic.com/jp/home.html |